結論から申し上げます。
若者・ひきこもり支援の活動は、一般社団法人で行えます。居場所づくりや相談に、特別な許可は要りません。
国の法律は、民間の団体を支援の担い手の一つとして位置づけています(子ども・若者育成支援推進法15条1項)。
一方で、仕事を紹介するなら職業安定法の許可が必要です(33条1項)。
行政の事業を受託したり地域協議会に加わったりすると、法律上の秘密保持義務を負います。
病歴など要配慮個人情報は、原則として本人の同意なく取得できません(個人情報保護法20条2項)。
若者・ひきこもり支援に関わる3つの法律
若者やひきこもりの支援に直接関わる法律は、主に3つあります。
子ども・若者育成支援推進法は、修学も就業もしていない若者など、社会生活に困難を抱える子ども・若者への支援を定めています(2条7号・15条1項)。
生活困窮者自立支援法は、経済的に困窮するおそれのある人への相談・就労準備などの事業を定めています(3条・5条・7条)。
孤独・孤立対策推進法は、孤独・孤立の状態にある人とその家族への支援の枠組みを定めています(2条・10条)。
いずれも、国や自治体が施策を行い、民間の団体と連携する形をとっています。
「ひきこもり」という言葉を定義する法律はありません。支援の多くは、これらの法律と国の補助事業の組合せで行われています。
| 法律 | 主な対象 | 民間団体との関わり |
|---|---|---|
| 子ども・若者育成支援推進法 | 社会生活を円滑に営む上で困難を有する子ども・若者 | 関係機関等として支援に努める(15条)・地域協議会(19条) |
| 生活困窮者自立支援法 | 生活困窮者とその家族 | 自立相談支援事業などの委託(5条2項・7条3項)・就労訓練事業の認定(16条) |
| 孤独・孤立対策推進法 | 孤独・孤立の状態にある者とその家族等 | 支援を行う者として連携(6条)・地域協議会(15条) |
子ども・若者育成支援推進法15条は、支援を行う「関係機関等」として、公益社団法人・NPO法人「その他の団体」を挙げています。
一般社団法人も、この「その他の団体」として支援を担うことができます。
一般社団法人で行える活動と、別に許可が要る活動

活動の型によって、法人を作るだけで始められるものと、別の許可や指定が要るものに分かれます。
居場所の運営、本人や家族の相談、家族会、学び直しの場、情報発信は、特別な許可なく行えます。
求人と求職者の間で雇用関係の成立をあっせんすることは「職業紹介」です(職業安定法4条1項)。
無料で行う場合も、原則として厚生労働大臣の許可が必要です(33条1項)。
就労訓練事業は、都道府県知事の認定を受けることができます(生活困窮者自立支援法16条1項)。
障害福祉サービスとして行う場合は、障害者総合支援法の指定が別に必要です。
| 活動 | 必要な手続 | 根拠 |
|---|---|---|
| 居場所(フリースペース)の運営 | 特別な許可は不要 | ― |
| 本人・家族の相談、家族会 | 特別な許可は不要 | ― |
| 求人企業と若者をつなぐ(職業紹介) | 厚生労働大臣の許可(無料でも原則必要) | 職業安定法4条・30条・33条 |
| 就労訓練(中間的就労)の場の提供 | 都道府県知事の認定を受けられる(任意) | 生活困窮者自立支援法16条 |
| 自治体の相談支援事業を受託 | 自治体との委託契約 | 生活困窮者自立支援法5条2項 |
| 障害福祉サービス(就労継続支援など) | 指定 | 障害者総合支援法 |
職業紹介に当たらない「求人情報の提供」や「職業指導」との区別は、職業安定法4条の定義で確認します。
障害福祉サービスの指定は就労継続支援B型をNPO法人・一般社団法人で始めるには?で説明しています。
一般社団法人とNPO法人の違い
若者支援の団体は、一般社団法人かNPO法人で作られることが多くあります。
NPO法人の活動分野には「子どもの健全育成を図る活動」(別表13号)と「職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動」(別表17号)があります。
NPO法人は所轄庁の認証が必要で、社員10人以上などの要件があります。
一般社団法人は、社員2人以上で定款を作り、公証人の認証と登記で設立できます(一般法人法10条1項・13条・22条)。
子ども・若者育成支援推進法15条はNPO法人を名指ししていますが、一般社団法人を排除してはいません。
自治体の委託や補助の応募資格は、事業ごとの募集要項で決まります。法人の形を選ぶ前に確認します。
| 項目 | 一般社団法人 | NPO法人 |
|---|---|---|
| 設立 | 定款認証+登記 | 所轄庁の認証+登記 |
| 人数 | 社員2人以上・理事1人以上 | 社員10人以上・理事3人以上・監事1人以上 |
| 設立までの期間 | 行政の審査なし | 縦覧と認証の審査がある |
| 設立の法定費用 | 11万円 | 0円 |
| 活動分野 | 制限なし | NPO法別表の分野 |
| 所轄庁への毎年の報告 | なし | あり |
選び方は一般社団法人とNPO法人どっちを選ぶ?で詳しく比較しています。
行政の事業を受託するときのルール

若者支援の団体の収入源として大きいのが、自治体からの委託です。
生活困窮者自立支援法の自立相談支援事業は都道府県等が行い、その事務の全部または一部を委託できます(5条1項・2項)。
就労準備支援事業なども同じく委託できます(7条3項で5条2項を準用)。
委託を受けた団体やその役員・職員は、受託した事務で知った秘密を漏らしてはなりません。辞めた後も同じです(5条3項)。
厚生労働省は「ひきこもり支援推進事業」で、自治体の相談窓口・居場所づくり・ネットワークづくりなどに補助しています。
その導入メニューには「民間団体との連携事業」も挙げられています。
15歳から49歳の就労を支える「地域若者サポートステーション」は、厚生労働省の委託による支援機関です。
市町村子ども・若者計画や、ひきこもり支援・生活困窮者支援の担当課を確認する
法人格・実績・人員配置・秘密保持の体制などの要件
受託する事業が定款の目的と事業に入っているか
委託契約書で個人情報の扱いと再委託の可否を確認
実績報告に必要な記録を、個人情報保護に配慮して残す
都道府県と市町村は、子ども・若者計画を定めるよう努めることとされています(子ども・若者育成支援推進法9条)。
行政との関わり方はNPO法人と行政の協働|委託・補助・後援の違いも参考になります。
地域協議会に加わるときの秘密保持
地方公共団体は、関係機関等で構成する「子ども・若者支援地域協議会」を置くよう努めます(子ども・若者育成支援推進法19条1項)。
協議会では、支援の対象となる若者の情報を交換し、支援の内容を協議します(20条1項・3項)。
構成機関等は、協議の結果に基づいて支援を行います(20条2項)。
地方公共団体の長は、構成機関等の中から調整機関や指定支援機関を指定できます(21条1項・22条1項)。
協議会の事務に従事する者は、正当な理由なく秘密を漏らしてはなりません(24条)。
違反すると、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象です(34条)。
孤独・孤立対策推進法の「孤独・孤立対策地域協議会」にも、同じ形の秘密保持義務と罰則があります(18条・28条)。
- 協議会で扱う情報を見られる職員の範囲を決める
- 紙の資料の持ち帰り・保管・廃棄のルール
- 退職した職員にも秘密保持義務が続くことの説明
- 本人に、どの機関とどんな情報を共有するかを説明する手順
本人の意思を尊重する(法律に書かれた原則)
子ども・若者育成支援推進法は、困難を有する若者への支援を「当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ」行うと定めています(2条7号)。
孤独・孤立対策推進法も、当事者等の「意向に沿って」支援が行われることを基本理念にしています(2条3号)。
家族の依頼であっても、本人の意思に反して連れ出したり、施設に閉じ込めたりすることはできません。
不法に人を逮捕・監禁した者は、3月以上7年以下の拘禁刑に処せられます(刑法220条)。
「本人の同意」と「家族の同意」は別のものです。契約書や説明資料は、本人向けにも作ります。
- 家族からの相談と、本人への支援を分けて記録する
- 訪問(アウトリーチ)は、本人の了解を得られる方法と頻度で行う
- 居場所の利用は、いつでもやめられることを伝える
- 費用のかかるサービスは、本人が内容を理解できる説明を用意する
相談記録と要配慮個人情報
相談記録や利用者名簿をデータベースとして事業に使う団体は、「個人情報取扱事業者」です(個人情報保護法16条2項)。
利用目的は、できる限り特定します(17条1項)。
病歴などの「要配慮個人情報」は、原則として本人の同意を得ずに取得してはなりません(2条3項・20条2項)。
家族から本人の通院歴を聞く場面も、要配慮個人情報の取得に当たり得ます。
個人データを第三者に渡すには、原則として本人の同意が必要です(27条1項)。
人の生命・身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合などは例外です(27条1項2号)。
| 場面 | 原則 | 例外の例 |
|---|---|---|
| 病歴などを聞き取る | 本人の同意を得る(20条2項) | 生命・身体の保護に必要で同意が困難(同項2号) |
| 他の機関に情報を渡す | 本人の同意を得る(27条1項) | 法令に基づく場合(同項1号)など |
| 相談記録を保管する | 利用目的の範囲で扱う(17条1項) | ― |
名簿と相談記録の管理は一般社団法人・NPO法人の個人情報の取扱いで詳しく説明しています。
就労体験・就労訓練と労務
働く練習の場を団体の中に作る場合は、労働法との関係を整理します。
労働基準法の「労働者」は、事業に使用され、賃金を支払われる者です(9条)。
「訓練」「体験」という名目でも、指揮命令を受けて働き、対価が実質的に賃金に当たれば労働者と判断されることがあります。
生活困窮者自立支援法の就労訓練事業は、就労の機会と訓練などを提供する事業です(16条1項)。
都道府県知事の認定を受けると「認定生活困窮者就労訓練事業」となり、自立相談支援事業からのあっせんの対象になります(3条2項2号・16条3項)。
国と地方公共団体は、認定を受けた事業者の受注の機会の増大に努めるとされています(16条4項)。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 社会保険・労働保険の加入手続きは、社会保険労務士が取り扱う業務です。
人を雇うときの手続は一般社団法人で従業員を雇うときの労務管理、活動中の事故への備えはボランティア保険とは?で説明しています。
設立の流れと定款の目的
一般社団法人は、設立時社員2人以上で定款を作るところから始まります(一般法人法10条1項)。
定款には目的・名称・主たる事務所の所在地などを必ず書きます(11条1項)。
公証人の認証手数料は5万円です(公証人手数料令35条3号)。
設立登記の登録免許税は1件6万円です(登録免許税法別表第一24号(一)ロ)。
登記の日に法人が成立します(一般法人法22条)。
委託の審査では、定款の目的に受託する事業が入っているかを見られます。
目的を後から変えるには、社員総会の特別決議が必要です(146条・49条2項4号)。
第〇条(目的)当法人は、社会生活を円滑に営む上で困難を有する若者及びその家族に対し、本人の意思を尊重した支援を行い、若者の社会参加と自立に寄与することを目的とする。
第〇条(事業)当法人は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
(1)若者が安心して過ごせる居場所の運営
(2)本人及び家族からの相談、家族会の開催
(3)学び直し及び就労体験の機会の提供
(4)国、地方公共団体その他の団体からの受託事業
(5)その他前条の目的を達成するために必要な事業
職業紹介を行う場合は、職業安定法の許可を受けたうえで事業に加えます。実際の定款は、機関設計と非営利型にするかどうかに合わせて作ります。
設立時社員2人以上・理事1人以上。理事会を置くなら理事3人以上(65条3項)
手数料5万円
登録免許税6万円。登記の日に成立(22条)
税務署・自治体への届出、法人口座、個人情報の取扱規程
設立の全体は一般社団法人の設立の流れで説明しています。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
資金と税金の基本
若者支援の団体の資金は、委託料・補助金・助成金・会費・寄付・利用料の組合せになるのが一般的です。
補助や助成は、国・自治体・民間財団がそれぞれ募集しており、要件は募集要項で決まります。
一般社団法人の法人税は、「非営利型法人」に当たるかどうかで扱いが変わります(法人税法2条9号の2)。
非営利型法人は、収益事業を行う場合などに限って法人税の納税義務を負う仕組みです(4条1項)。
収益事業とは、政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものです(2条13号)。
委託料や利用料、就労訓練での作業収入が収益事業に当たるかは、事業の内容と実態で判断が分かれます。
助成金の探し方は一般社団法人は補助金・助成金を受けられる?、非営利型の要件は非営利型一般社団法人とはで説明しています。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。
よくある誤解
誤解1:ひきこもり支援にはNPO法人でないといけない。
法律は「その他の団体」も支援の担い手としています(子ども・若者育成支援推進法15条1項)。
応募資格は事業ごとに確認します。
誤解2:無料なら仕事を紹介してよい。
無料の職業紹介事業も、原則として厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法33条1項)。
誤解3:家族の同意があれば本人を連れ出せる。
支援は本人の意思を尊重して行うのが法律の原則で、不法な監禁は犯罪です(刑法220条)。
誤解4:支援のためなら関係機関に情報を渡してよい。
個人データの第三者提供は、原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法27条1項)。
誤解5:「体験」なら労働法は関係ない。実態が雇用なら労働者に当たり得ます(労働基準法9条)。
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一般社団法人で若者・ひきこもり支援を行うときのよくある質問
A. 行えます。子ども・若者育成支援推進法15条1項は、支援を行う関係機関等にNPO法人「その他の団体」を含めています。居場所や相談の運営に特別な許可は要りません。
A. 居場所の運営そのものに必要な許可はありません。ただし食事の提供や宿泊を伴う場合は別の法律が関わるため、保健所や自治体に確認してください。
A. 求人と求職者の雇用関係の成立をあっせんすることは職業紹介に当たり、無料でも原則として厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法4条1項・33条1項)。
A. 生活困窮者自立支援法の自立相談支援事業は、都道府県等が事務の全部または一部を委託できます(5条2項)。受託した団体と役職員には秘密保持義務があります(同条3項)。
A. 協議会の事務に従事する者は、知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならず、違反には罰則があります(子ども・若者育成支援推進法24条・34条)。
A. 病歴は要配慮個人情報です。取得には原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法2条3項・20条2項)。生命・身体の保護のために必要で同意が困難な場合などは例外です。
A. 認定は任意です。都道府県知事の認定を受けると認定生活困窮者就労訓練事業となり、自立相談支援事業のあっせんの対象になります(生活困窮者自立支援法16条1項・3条2項2号)。
A. 定款認証の手数料5万円(公証人手数料令35条3号)と登録免許税6万円(登録免許税法別表第一24号(一)ロ)で、合計11万円です。
📖 参考にした公的機関の情報


