結論から申し上げます。地域の防災訓練は、「安否確認」「避難」「初期消火」「救護」の4つを1時間ほどで体験する形から始めると、無理なく続けられます。
そして、事前に地元の消防署へ申し込むと、訓練の指導や、起震車・煙体験などの体験を依頼できることがあります。東京消防庁では、町会・自治会が「防火防災訓練等申込書」を消防署に出して、訓練の指導を申し込む仕組みがあります。
この記事では、訓練の種類、当日の流れ、消防署への申込み、準備と役割分担、参加者を増やす工夫、終わったあとの記録まで説明します。実施計画書と参加者アンケートのWordひな形も用意しました。
地域の防災訓練でよく行う訓練の種類
防災訓練にはいろいろな種類があります。東京消防庁の「防火防災訓練等申込書」には、身体防護訓練、出火防止訓練、初期消火訓練、救出訓練、応急救護訓練、通報連絡訓練、避難訓練、防災講話などの項目が並んでいます。
消防庁がまとめた資料でも、地域の自主防災組織が行う訓練の例として、要介護者の安否確認訓練、避難誘導訓練、消火訓練、救急処置訓練、起震車の体験、炊き出し訓練などが挙げられています。
全部を一度にやる必要はありません。毎年テーマを決めて、2〜4種類を組み合わせるのが現実的です。

| 訓練 | 何をするか | 準備するもの |
|---|---|---|
| 身体防護 | 揺れを合図に、頭を守る・机の下に入る | 合図(放送・笛) |
| 安否確認 | 「無事です」の表示や、班ごとの名簿で確認する | 名簿・表示用の紙やタオル |
| 避難 | 一時集合場所や避難所まで歩く | 地図・誘導の担当 |
| 初期消火 | 訓練用の消火器で的を狙う | 訓練用消火器(消防署に相談) |
| 救出・救護 | 三角巾の使い方、担架での搬送 | 三角巾・担架・救急箱 |
| 給食・給水 | 炊き出し、備蓄品の配布 | 鍋・燃料・備蓄品 |
消防署への申込み ― 指導や体験を頼む
防災訓練は、地元の消防署に指導を頼むと、内容がぐっと充実します。
東京消防庁の申込書の記載例では、団体名(自治会・町会名)、実施したい訓練の項目、日時、場所、参加予想人数、当日連絡がとれる担当者を書いて、消防署に提出します。申込書には、起震車・VR・消火訓練車・煙体験などの特殊な車両や資器材の希望を書く欄もあります。
起震車や煙体験は人気があり、時期によっては希望に添えないこともあります。日程が決まったら、できるだけ早く消防署に相談しましょう。
申込みの様式や受付の方法は、消防本部ごとに違います。東京以外の地域でも、多くの消防署が地域の訓練の相談を受け付けています。管轄の消防署に「町内会の防災訓練の指導をお願いしたい」と問い合わせると、手続を案内してもらえます。
地元の消防団や、市区町村の防災担当課も、資機材の貸し出しや講話に協力してくれることがあります。
訓練の「想定」の作り方
訓練の前に、「どんな災害が、いつ、どこで起きたか」という想定を決めておくと、参加者が具体的に動けます。
地震の想定なら、「〇時〇分、震度6弱の地震が発生。〇丁目で火災が発生し、〇〇さん宅で家具の下敷きになった人がいる」のように、消火や救出の場面を入れます。
川や海に近い地域では、大雨や津波を想定し、早めの避難や高い場所への移動を練習します。市区町村のハザードマップで、地域の危険を事前に確かめておきます。
慣れてきたら、夜間や休日の昼間など、役員がそろわない時間を想定するのも効果的です。誰が欠けても動ける体制かを確かめられます。
想定は、実施計画書に書いて、役員で共有しておきます。
当日の流れ(例)
1時間ほどの訓練なら、次のような流れが組みやすいです。
まず、放送やサイレンで「地震発生」の合図を出し、各家庭で身を守る行動をとります。
次に、安否確認をします。玄関に「無事です」の表示を出してもらい、班長が班ごとの名簿で確認します。
確認が終わったら、一時集合場所へ避難し、班ごとに人数を本部に報告します。
集合場所では、訓練用の消火器を使った初期消火訓練と、三角巾や担架を使った応急救護訓練を行います。
最後に、消防署の方の講話や、備蓄品の紹介をして、アンケートを書いてもらって解散します。

準備のスケジュールと役割分担
防災訓練は、2〜3か月前から準備すると余裕をもって進められます。
2〜3か月前に、役員会で日時・場所・想定(どんな災害を想定するか)・テーマを決め、消防署に相談します。
1か月前に、実施計画書を作り、役割分担を決めます。回覧やチラシで住民に案内し、名簿や受付表を準備します。
前日までに、訓練用の消火器や担架、救急箱、拡声器などの資機材をそろえ、雨天や中止の連絡方法を決めておきます。
役割は、全体の責任者、受付・名簿、安否確認のとりまとめ、初期消火、救護、会計のように分けると、当日に混乱しにくくなります。
- 消防署・消防団への申込みと、当日の到着時刻
- 訓練用の消火器・担架・救急箱・拡声器などの資機材
- 受付表・名簿・名札・アンケート用紙
- 雨天・中止の判断の時刻と、住民への連絡方法
- 行事用の保険や、自治体の補償制度の確認
防災訓練の実施計画書・参加者アンケートのWordひな形(無料)
A4・3ページ(1枚目=実施計画書と当日の流れ/2枚目=役割分担とメモ欄/3枚目=参加者アンケート)。〇〇を書き換えて使えます。
参加者を増やす工夫
防災訓練の悩みでいちばん多いのが、「参加者が少ない」「毎年同じ人しか来ない」ことです。
一つめの工夫は、体験の要素を入れることです。起震車や煙体験、消火器を実際に使う体験は、こどもや若い世代にも人気があります。
二つめは、ほかの行事と組み合わせることです。夏祭りや餅つき大会に防災体験のコーナーを設けたり、炊き出し訓練を兼ねて豚汁を配ったりすると、気軽に参加してもらえます。
三つめは、家にいながら参加できる訓練を入れることです。玄関に「無事です」の表示を出すだけの安否確認訓練なら、高齢の人や子育て中の家庭も参加できます。
四つめは、学校やPTA、子ども会、地元の企業と一緒に行うことです。参加する層が広がり、いざというときの協力の関係もできます。
手助けが必要な人への配慮
災害のときに、自分だけで避難するのが難しい高齢者や障害のある人などへの支援は、地域の防災で大切なテーマです。
訓練では、班ごとに声をかけて安否を確かめる練習をしたり、車いすで避難経路を通ってみたりすると、実際の課題が見えてきます。
手助けが必要な人の情報は、個人情報にあたります。名簿を作る場合は、本人の同意を得て、扱う人と保管の方法を決めておきます。市区町村が作る名簿の提供を受ける場合は、自治体のルールに従います。
日ごろの備えも、訓練の機会に確かめる
防災訓練は、地域の備えを点検する機会でもあります。訓練の前後に、次のことをあわせて確かめておくと、いざというときに役立ちます。
一つめは、防災倉庫の中身です。発電機やテント、担架、工具などが動くか、燃料や電池が残っているかを確かめます。
二つめは、備蓄品の賞味期限です。期限が近い水や食料は、訓練の炊き出しや配布に使い、新しいものと入れ替えます。
三つめは、防災マップと連絡網です。一時集合場所や避難所、危険な場所の情報が古くなっていないか、役員の連絡先が変わっていないかを確かめます。
四つめは、各家庭への呼びかけです。家具の固定、3日分以上の水と食料、家族との連絡方法の確認を、訓練の案内やアンケートで呼びかけます。
自主防災組織と、自治体の支援
自治会や町内会の多くは、地域の防災活動を行う自主防災組織を兼ねています。消防庁の資料では、自主防災組織を、地域住民による防災活動を実効性のあるものにするための組織と位置づけています。
市区町村によっては、自主防災組織の結成や、防災資機材の購入、訓練の実施に対して、補助金や資機材の貸し出しなどの支援を設けています。内容や申請の時期は自治体ごとに違うので、市区町村の防災担当課に確かめてください。
補助を受けた場合は、何に使ったかの報告が必要になることが多いので、領収書や訓練の記録を残しておきます。
マンション・集合住宅で行う場合
マンションでは、管理組合や自治会が中心になって訓練を行います。建物ごとの消防計画や防火管理者がある場合は、その内容と合わせて訓練を計画します。
高い階の住民は、エレベーターが止まると避難や物資の運搬が大変になります。階段での避難や、各階での安否確認の方法を練習しておくと役立ちます。
管理会社がある場合は、訓練の日程や設備(非常放送・消火栓など)の使い方について、事前に相談しておきます。
終わったあとの記録と、翌年への引き継ぎ
訓練が終わったら、参加人数、行った訓練、アンケートの結果、うまくいかなかったことを記録に残します。
アンケートで「役に立った訓練」や「次にやってほしいこと」を聞いておくと、翌年のテーマが決めやすくなります。
備品の数や、消火器の使用期限、備蓄品の賞味期限も、このときに確かめておきます。
参加した住民へのお礼と、結果の報告を回覧で伝えると、次回の参加にもつながります。
記録は、総会の事業報告や会計報告にも使えます。訓練にかかった費用(保険料・備品・炊き出しの食材など)は、出納帳に記録して、会計報告で示します。
自治会の防災訓練についてよくある質問
A. 安否確認・避難・初期消火・救護の4つを1時間ほどで体験する形から始めると続けやすいです。毎年テーマを決めて、身体防護、通報連絡、給食・給水、防災講話などを組み合わせます。
A. 多くの消防署が地域の訓練の相談を受け付けています。東京消防庁では、町会・自治会が「防火防災訓練等申込書」を消防署に出して、訓練の指導を申し込めます。様式や受付方法は消防本部ごとに違うので、管轄の消防署に問い合わせてください。
A. 東京消防庁の申込書には、起震車・VR・消火訓練車・煙体験などの希望を書く欄があります。人気があり、時期によっては希望に添えないこともあるため、日程が決まったら早めに相談しましょう。
A. 2〜3か月前から始めると余裕があります。役員会で日時・場所・想定を決め、消防署に相談し、1か月前に実施計画書と役割分担を決めて住民に案内します。
A. 起震車や消火器などの体験を入れる、夏祭りなどの行事と組み合わせる、家にいながら参加できる安否確認訓練を入れる、学校や子ども会と一緒に行う、などの工夫があります。
A. 訓練中のけがに備えて、ボランティア活動保険や行事用の保険、自治体の市民活動の補償制度などを確かめておくと安心です。対象や補償額は制度ごとに違います。
📖 参考にした公的機関の情報


