結論から申し上げます。NPO法人と理事との利益が相反する事項については、その理事は代表権を有しません(特定非営利活動促進法〈以下「NPO法」〉17条の4前段)。そして所轄庁が、利害関係人の請求により又は職権で、特別代理人を選任しなければならないと定められています(同条後段)。
ここで押さえておきたいのは、NPO法人と一般社団法人とで、利益相反の処理の仕方がまったく違うことです。一般社団法人では、理事会(理事会を置かない法人では社員総会)が重要な事実の開示を受けて取引を承認します(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律〈以下「一般法人法」〉84条1項・92条1項)。NPO法人には、この承認の仕組みがありません。代わりに、代表権を失わせたうえで、外から特別代理人を入れるという形をとります。
この記事では、特別代理人の条文、利益相反にあたる場面、選任を請求できる人、選任された特別代理人が何をするのか、仮理事との違い、監事との関係、一般社団法人・一般財団法人との違い、そして実務で手続を始める前に確認しておくことまでを順に整理します。
特別代理人とは ― 利益相反の場面で、法人を代表する人を外から入れる仕組み
NPO法17条の4は、次のように定めています。「特定非営利活動法人と理事との利益が相反する事項については、理事は、代表権を有しない。この場合においては、所轄庁は、利害関係人の請求により又は職権で、特別代理人を選任しなければならない。」
前段と後段で、二つのことを定めている条文です。前段は、利益が相反する事項について理事の代表権を否定します。後段は、そのままでは法人を代表する人がいなくなるので、所轄庁が特別代理人を選任すると定めます。
前段の効果は、所轄庁が何かをしなくても、条文そのものによって生じます。利益相反にあたる事項について理事が法人を代表して行った行為は、代表権のない人がした行為ということになります。特別代理人の選任を受けずに理事が契約を結んでしまうと、その効力が問題になり得るということです。
後段の「選任しなければならない」という書き方にも意味があります。請求の要件を満たしていれば、所轄庁は選任するという立て付けです。
どんな場面が「利益が相反する事項」にあたるか
条文は「利益が相反する事項」とだけ定めていて、場面の列挙をしていません。判断の手がかりになるのは、法人の利益と理事個人の利益が同じ場面で正面からぶつかるかどうかです。
典型は、法人と理事が当事者になる取引です。理事が自分の土地建物を法人に貸す、法人に売る、法人から買う、理事が法人にお金を貸す、法人が理事にお金を貸す、といった場面が当たります。理事が自分のためにする取引だけでなく、理事が第三者の代理人・代表者として法人と取引する場面も、実質は同じです。
法人が理事の債務を保証する場面のように、法人と理事が直接の当事者にならなくても、法人の負担で理事が利益を受ける取引もあります。一般法人法84条1項3号は、この形を「間接取引」として明文で挙げています。NPO法には同じ列挙がありませんが、法人の利益と理事の利益が相反するという点では変わりません。
一方で、理事に報酬を払う、理事が法人の事業の利用者として一般の条件で利用する、といった場面まで常に利益相反として扱うわけではありません。定款や社員総会の決議で決める事項と、17条の4で代表権が否定される事項は別の話です。自分の法人の事案がどちらなのかは、取引の中身と、所轄庁の窓口の案内を確かめて判断してください。
| 場面 | 法人と理事の関係 | 考え方 |
|---|---|---|
| 理事が自分の建物を法人に貸す | 直接の取引 | 賃料の額をめぐって利益が正面からぶつかる |
| 理事が法人にお金を貸す/借りる | 直接の取引 | 利率・返済条件で利益がぶつかる |
| 法人が理事の借入を保証する | 当事者は法人と金融機関 | 法人の負担で理事が利益を受ける形 |
| 理事が代表を務める別法人と取引する | 当事者は法人と別法人 | 理事は両側に立つ |
| 理事への報酬を決める | 機関の決定 | 定款・社員総会の決議で決める事項 |
誰が選任を請求できるか ― 「利害関係人」と所轄庁の職権
選任の端緒は二つあります。利害関係人の請求と、所轄庁の職権です(NPO法17条の4後段)。
利害関係人には、法人の側(ほかの理事や監事、社員)のほか、その取引の相手方になる人も含まれ得ます。取引の相手方から見ても、代表権のない理事と契約してしまえば効力が不安定になるからです。
所轄庁は、請求がなくても職権で選任できます。もっとも、実務で多いのは法人側からの請求です。理事会や社員総会で取引の方針を決めたあと、所轄庁に特別代理人の選任を求める、という順になります。
請求の書式や添付書類は所轄庁ごとに案内が異なります。NPO法人の所轄庁は、原則としてその事務所がある都道府県の知事、事務所が一つの指定都市の区域内のみにある場合はその指定都市の長です(NPO法9条)。申請の前に、自分の法人の所轄庁の窓口に、対象となる取引の内容を示して確認してください。
特別代理人は何をする人か
特別代理人は、その利益相反の事項について法人を代表する人です。代表権を失った理事に代わって、その事項に限って法人の側に立ちます。
権限の範囲は、選任の対象になった事項に限られます。特別代理人になったからといって、法人の業務全体を執行する立場になるわけではありません。理事の職務を代わりに行う人ではないという点が、次に見る仮理事との違いです。
誰を特別代理人にするかは、その事項について法人と利益が対立しない人であることが前提になります。当の理事と一体の関係にある人では、代表権を否定した意味がなくなるためです。
仮理事(NPO法17条の3)との違い
NPO法には、似た形の制度がもう一つあります。仮理事です。「理事が欠けた場合において、業務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、所轄庁は、利害関係人の請求により又は職権で、仮理事を選任しなければならない」(NPO法17条の3)。
仮理事は、理事が欠けた状態を埋めるための制度です。特別代理人は、理事はいるけれども、その事項について代表できない状態を埋めるための制度です。欠員を埋めるのか、利益相反を埋めるのか、という違いです。
権限の広さも違います。仮理事は理事の職務を行う立場ですが、特別代理人は選任の対象になった事項だけを扱います。
| 仮理事(17条の3) | 特別代理人(17条の4) | |
|---|---|---|
| 使う場面 | 理事が欠けて業務が遅れるおそれ | 法人と理事の利益が相反する事項 |
| 理事の状態 | いない(欠員) | いるが、その事項の代表権がない |
| 権限の範囲 | 理事の職務 | 選任の対象になった事項に限る |
| 選任する人 | 所轄庁 | 所轄庁 |
| 端緒 | 利害関係人の請求または職権 | 利害関係人の請求または職権 |
監事は代表者になれるのか
NPO法人の監事の職務は、18条に列挙されています。理事の業務執行の状況の監査、財産の状況の監査、不正の行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したときの社員総会または所轄庁への報告、その報告のための社員総会の招集、理事に対する意見の陳述です。
ここに「法人を代表する」という職務はありません。会社法の監査役が、取締役と会社との訴訟で会社を代表する場面があるのとは、条文の作りが違います。NPO法人では、利益相反の場面で法人を代表する人は、監事ではなく特別代理人です。
また、監事は理事または法人の職員を兼ねることができません(NPO法19条)。監事が代表の役回りを引き受けるという運用は、条文の建て付けからも取りにくいということになります。
一般社団法人・一般財団法人はどうするか ― 承認で処理する
一般社団法人では、理事が次の取引をしようとするとき、社員総会で重要な事実を開示して承認を受けます(一般法人法84条1項)。1号が競業取引(自己または第三者のために法人の事業の部類に属する取引)、2号が直接取引(自己または第三者のために法人と取引する)、3号が間接取引(法人が理事の債務を保証するなど)です。
理事会を置く一般社団法人では、この「社員総会」が「理事会」に読み替えられ、承認は理事会が行います(92条1項)。さらに、取引をした理事は、取引後遅滞なく、重要な事実を理事会に報告しなければなりません(92条2項)。
一般財団法人には社員がいないため、197条が84条1項の「社員総会」を「理事会」と読み替えて準用します。財団では理事会が必置なので、承認は理事会で行うことになります。
承認を受けた直接取引・間接取引については、自己契約・双方代理を禁じる民法108条の規定が適用されません(一般法人法84条2項)。承認という手続を踏むことで、代表して契約を結べる状態にする、という組み立てです。
| 法人 | 利益相反の処理 | 根拠 |
|---|---|---|
| NPO法人 | その事項について理事は代表権を失い、所轄庁が特別代理人を選任 | NPO法17条の4 |
| 一般社団法人(理事会なし) | 社員総会で重要な事実を開示して承認 | 一般法人法84条1項 |
| 一般社団法人(理事会あり) | 理事会で承認+取引後に理事会へ報告 | 一般法人法92条1項・2項 |
| 一般財団法人 | 理事会で承認(84条1項を読み替えて準用) | 一般法人法197条 |
承認を取らずに取引したらどうなるか(一般社団法人の場合)
一般社団法人で承認を取らずに競業取引をしたときは、責任の場面で不利に働きます。理事が84条1項に違反して1号の取引(競業取引)をしたときは、その取引によって理事または第三者が得た利益の額が、法人に生じた損害の額と推定されます(一般法人法111条2項)。
2号・3号の取引によって法人に損害が生じたときは、取引をした理事、取引をすることを決定した理事、理事会の承認の決議に賛成した理事は、任務を怠ったものと推定されます(111条3項)。
推定というのは、反対の証拠を出さない限りそう扱われるということです。承認を取るかどうかは形式の問題ではなく、後から責任を争うときの立場を決める問題になります。
NPO法人で手続を始める前に確認しておくこと
まず、その事項が本当に利益相反にあたるのかを、取引の中身に即して整理します。契約の当事者は誰か、法人が負担するものは何か、理事が受ける利益は何かを、書き出して確かめます。
次に、所轄庁がどこかを確認します(NPO法9条)。事務所が一つの指定都市の中だけにあるのか、都道府県内の複数の市町村にまたがるのかで、窓口が変わります。
そのうえで、所轄庁の窓口に、対象となる取引の内容と、特別代理人の選任を求めたい旨を伝えて、必要な書類と進め方を確認します。特別代理人の選任は所轄庁の処分なので、法人の側だけで完結しません。時間がかかることを見込んで、契約の予定日から逆算してください。
理事会や社員総会で取引の方針そのものを決めておくことも実務では重要です。代表権の問題が解決しても、その取引を法人として行うかどうかの判断は別に必要だからです。
- その事項が、法人と理事の利益が相反する事項にあたるかを取引の中身で確かめたか
- 当の理事が法人を代表して署名しようとしていないか(17条の4前段で代表権がない)
- 所轄庁がどこかを確認したか(NPO法9条・都道府県知事または指定都市の長)
- 所轄庁の窓口に、取引の内容を示して必要書類と進め方を確認したか
- 特別代理人の候補が、その事項について理事と利益を共にしない人になっているか
- 理事会・社員総会で、その取引を行うこと自体の方針を決めたか
- 選任までの期間を見込んで、契約の予定日から逆算しているか
よくある誤解を4つ
一つめは「社員総会で承認すれば、その理事が代表して契約できる」という誤解です。それは一般社団法人の仕組みです(一般法人法84条1項)。NPO法17条の4は、承認によって代表権が戻るとは定めていません。
二つめは「監事が代わりに法人を代表すればよい」という誤解です。NPO法18条の監事の職務に代表は含まれておらず、監事は理事や職員を兼ねることもできません(19条)。
三つめは「理事が欠けたときの仮理事と同じもの」という誤解です。仮理事は欠員を埋める制度(17条の3)、特別代理人は利益相反の事項を扱う制度(17条の4)で、権限の範囲が違います。
四つめは「所轄庁ではなく裁判所に選任を申し立てる」という誤解です。NPO法17条の4は、選任する主体を所轄庁と定めています。
NPO法人の特別代理人についてよくある質問
A. NPO法人と理事との利益が相反する事項について、法人を代表する人として所轄庁が選任する人です。その事項について理事は代表権を有せず、所轄庁が利害関係人の請求により又は職権で特別代理人を選任します(NPO法17条の4)。
A. 所轄庁です。NPO法17条の4は、所轄庁が利害関係人の請求により又は職権で選任すると定めています。所轄庁は原則として事務所がある都道府県の知事、事務所が一つの指定都市の区域内のみにある場合はその指定都市の長です(NPO法9条)。
A. 利害関係人です。ほかの理事や監事、社員のほか、その取引の相手方になる人も含まれ得ます。所轄庁は請求がなくても職権で選任できます(NPO法17条の4)。
A. NPO法にはその仕組みがありません。承認によって代表できるようにするのは一般社団法人の制度で、理事会設置法人では理事会、そうでない法人では社員総会が承認します(一般法人法84条1項・92条1項)。
A. NPO法18条が定める監事の職務に、法人を代表することは含まれていません。監事は理事または法人の職員を兼ねることもできません(NPO法19条)。
A. 仮理事は理事が欠けて業務が遅れるおそれがあるときに選任される人で、理事の職務を行います(NPO法17条の3)。特別代理人は理事がいる場合に、利益が相反する事項についてだけ法人を代表します(17条の4)。
A. 一般法人法には、NPO法17条の4のような特別代理人の規定はありません。競業取引・直接取引・間接取引について、理事会(理事会を置かない法人は社員総会)の承認を受ける仕組みになっています(84条1項・92条1項)。


