結論から申し上げます。
農業・農村を支える活動は、一般社団法人で行えます。
ただし、一般社団法人は農地を所有できません。
所有できるのは「農地所有適格法人」に限られます(農地法2条3項・3条2項2号)。
一方で、農業委員会の許可を受けて農地を借りることはできます(同法3条3項)。
農地に触れない活動(援農の仲介・就農相談・農業体験・PR)なら、農地法の許可は要りません。
市民農園は、特定農地貸付法の承認か、農園利用方式で開く道があります。
活動の型ごとに必要な手続

「農業支援」とひと口に言っても、関わる法律は活動の型で決まります。
援農ボランティアの仲介や就農相談は、団体が農地の権利を取得しません。
この場合、農地法の許可は関係しません。
団体自ら農地を借りて耕作するときは、農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。
許可を受けずにした貸借は効力を生じません(同条6項)。
加工品を作って売るときは、食品衛生法と食品表示法が関わります。
| 活動の型 | 団体が農地の権利を持つか | 主な手続・関係法令 |
|---|---|---|
| 援農ボランティアの仲介 | 持たない | 農地法の許可は不要。保険と安全のルール作り |
| 新規就農の相談・研修の紹介 | 持たない | 許可は不要。研修先の農家・自治体と連携 |
| 農家の畑での収穫体験・農業体験 | 持たない | 農家との契約。農園利用方式なら権利設定なし |
| 団体が農地を借りて耕作 | 持つ(賃借権・使用貸借) | 農業委員会の許可(農地法3条1項・3項) |
| 市民農園を開いて区画を貸す | 持つ/貸す | 特定農地貸付法の承認(3条)など |
| 農地に休憩所・加工場を建てる | 持つ | 転用の許可(農地法4条・5条) |
| 加工品の製造・販売 | ― | 営業許可または届出(食品衛生法55条・57条)・食品表示(食品表示法5条) |
一般社団法人・NPO法人・農地所有適格法人の違い
農業に関わる法人の形は、目的と農地の扱いで選びます。
一般社団法人は、目的に公益性の要件がなく、社員2人以上で設立できます(一般法人法10条1項)。
NPO法人の活動分野には「農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動」があります(NPO法別表5号)。
NPO法人は、不特定かつ多数のものの利益の増進を目的とする活動が要件です(同法2条1項)。
農地を所有できる「農地所有適格法人」は、農事組合法人・株式会社(公開会社でないもの)・持分会社に限られます(農地法2条3項)。
一般社団法人とNPO法人は、どちらも農地所有適格法人になれません。
両方とも、農地を借りる道は同じく開かれています(3条3項)。
| 項目 | 一般社団法人 | NPO法人 | 農地所有適格法人 |
|---|---|---|---|
| 設立 | 定款認証+登記 | 所轄庁の認証+登記 | 会社・農事組合法人として設立し要件を満たす |
| 目的 | 制限なし(剰余金の分配は不可) | 特定非営利活動が主たる目的 | 主たる事業が農業 |
| 農地の所有 | できない | できない | できる |
| 農地を借りる | 許可を受けてできる(3条3項) | 許可を受けてできる(3条3項) | 許可を受けてできる |
| 向く活動 | 援農・体験・市民農園・PR・就農支援 | 地域に開かれた支援活動 | 自ら営農して販売する |
本格的に営農して農地を買うことまで考えるなら、農地所有適格法人の形を検討します。
NPO法人との選び方は一般社団法人とNPO法人どっちを選ぶ?で比較しています。
一般社団法人が農地を借りるときの要件(農地法3条3項)
農地の売買や貸借には、原則として農業委員会の許可が必要です(3条1項)。
農地所有適格法人以外の法人が権利を取得する場合、通常は許可できません(3条2項2号)。
ただし、賃借権か使用貸借による権利の設定であれば、3条3項の要件を満たすと許可を受けられます。
要件は次の3つで、すべて満たす必要があります。
- 適正に利用していない場合に契約を解除する旨の条件が、書面の契約に付いていること(1号)
- 地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に、継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること(2号)
- 法人の業務を執行する役員などのうち1人以上が、その法人の行う耕作に常時従事すると認められること(3号)
このほか、借りる農地のすべてを効率的に利用することも求められます(3条2項1号)。
周辺の農地の効率的な利用に支障が生じるおそれがある場合も、許可されません(3条2項6号)。
理事のうち誰が畑に出るのかを、申請の前に決めておく必要があります。
許可を受けた後の義務と、無許可の効果

3条3項の許可を受けて農地を借りた法人は、毎年、事業の状況を農業委員会に報告します(6条の2第1項)。
周辺の農地利用に支障が出ている場合などは、農業委員会から必要な措置を勧告されることがあります(3条の2第1項)。
業務執行役員等の誰も耕作に常時従事していない場合も、勧告の対象です(同項3号)。
適正に利用していないのに契約が解除されない場合や、勧告に従わない場合、許可は取り消されます(3条の2第2項)。
許可を受けずに農地の権利を取得した場合、その行為は効力を生じません(3条6項)。
3条1項に違反した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金の対象です(64条1号)。
地域の農業委員会に、借り方と要件を事前に相談する
適正に利用しない場合に解除する旨を書面で定める(3条3項1号)
業務執行役員等のうち1人以上(3条3項3号)
許可前の耕作開始は不可。無許可の貸借は無効(3条6項)
事業の状況を農業委員会に報告する(6条の2第1項)
農地中間管理機構(農地バンク)を通じて借りる方法もあります。
機構が定める農用地利用集積等促進計画について都道府県知事が認可すると、計画に従って権利が設定されます(農地中間管理事業法18条1項)。
この場合も、常時従事しない法人には、他の農業者との役割分担や業務執行役員等の常時従事が求められます(同条5項3号)。
市民農園・農業体験を開く方法
都市住民などに農地の区画を貸す市民農園は、農地法の特例で開けます。
特定農地貸付法の「特定農地貸付け」は、次の要件を満たす貸付けです(2条2項)。
政令で定める面積未満の農地を、相当数の者に定型的な条件で貸すこと(1号)。
営利を目的としない農作物の栽培のための貸付けであること(2号)。
政令で定める期間を超えない貸付けであること(3号)。
農林水産省の解説では、面積は10アール未満、期間は5年以内です。
地方公共団体と農協以外の者は、市町村と「貸付協定」を結ぶ必要があります(2条2項5号)。
農地を持たない団体は、地方公共団体か農地中間管理機構から農地を借りて行います(同号ロ)。
貸付規程と貸付協定を添えて農業委員会に申請し、承認を受けます(3条1項〜3項)。
| 開き方 | 団体と利用者の関係 | 主な手続 |
|---|---|---|
| 特定農地貸付法 | 団体が利用者に区画を貸す | 市町村等と貸付協定→農業委員会の承認 |
| 市民農園整備促進法 | 区画の貸付け+休憩施設などを整備 | 市町村への申請と認定 |
| 農園利用方式 | 権利を設定せず、利用者が農作業を体験 | 法律上の特別な手続はない(農地の取得には3条許可) |
農園利用方式は、農業者が経営を行い、利用者が植付けから収穫まで複数の段階の農作業を体験する方式です。
収穫だけを行う「もぎとり園」はこれに当たらないと、農林水産省は説明しています。
団体が農家と組んで体験会を企画する場合は、この方式で農家の畑を使う形が始めやすい選択肢です。
農地に建物を建てるときは転用の許可
休憩所・トイレ・倉庫・駐車場・加工場を農地の上に作ると、農地を農地以外にすることになります。
自分の権利がある農地を転用するときは、都道府県知事等の許可が必要です(農地法4条1項)。
転用のために権利を取得するときは、当事者が都道府県知事等の許可を受けます(5条1項)。
4条1項・5条1項に違反した法人には、1億円以下の罰金刑が科されることがあります(67条1号)。
市民農園整備促進法で整備運営計画の認定を受けた施設は、転用の手続が不要になると農林水産省は説明しています。
建物の計画は、農業委員会と市町村の担当課に早めに相談します。
援農ボランティアと雇用の線引き
援農ボランティアは、団体が農家とボランティアをつなぐ活動の代表例です。
労働基準法の「労働者」は、事業に使用され、賃金を支払われる者です(労基法9条)。
名目が「ボランティア」でも、指揮命令を受けて働き、対価が実質的に賃金に当たれば労働者と判断されることがあります。
農業の事業に従事する労働者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されません(41条1号)。
ただし、それ以外の規定(賃金・安全衛生など)は適用されます。
団体が人を雇う場合は、労働保険・社会保険の手続も必要になります。
- 交通費・食事などの実費と、謝礼の区別(謝礼が実質賃金になっていないか)
- 作業の指示を出すのは農家か団体か
- ボランティア活動保険など、けがと賠償への備え
- 農機具・刈払機・脚立など危険な作業をさせない範囲
- 熱中症対策と、作業を中止する気象条件
保険の選び方はボランティア保険とは?、雇用の手続は一般社団法人で従業員を雇うときの労務管理で説明しています。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 社会保険・労働保険の加入手続きは、社会保険労務士が取り扱う業務です。
農産物・加工品の販売と表示
直売やイベントで農産物や加工品を売る団体もあります。
ジャム・漬物・菓子などを作って売る場合、業種によって都道府県知事の営業許可が必要です(食品衛生法55条1項)。
許可が要らない業種でも、多くは事前の届出が必要です(57条1項)。
どちらに当たるかは業種と施設で決まるので、保健所に事前に相談します。
食品表示法は、食品の販売を業とする者だけでなく「食品の販売をする者」も対象にしています(2条3項)。
食品表示基準に従った表示がない食品は販売できません(5条)。
バザーや収穫祭での販売でも、表示の要否を確認しておく必要があります。
| 販売するもの | 確認する窓口 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 加工品(ジャム・漬物・菓子など) | 保健所 | 食品衛生法55条1項・57条1項 |
| 容器包装に入れた食品の表示 | 保健所・消費者行政の窓口 | 食品表示法5条 |
| 売上の税務 | 税務署・税理士 | 法人税法4条1項など |
税金の基本
一般社団法人の法人税は、「非営利型法人」に当たるかどうかで扱いが変わります(法人税法2条9号の2)。
非営利型法人は、収益事業を行う場合などに限って法人税の納税義務を負う仕組みです(4条1項)。
非営利型に当たらない一般社団法人は、株式会社と同じく全ての所得が対象になります。
収益事業とは、政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものです(2条13号)。
直売・加工品の販売・体験会の参加費・市民農園の利用料が収益事業に当たるかは、事業の内容と実態で判断が分かれます。
会費・助成金・事業収入は、帳簿で分けて管理しておくと判断と説明がしやすくなります。
非営利型の要件は非営利型一般社団法人とは、税の全体像は一般社団法人にかかる税金は?で説明しています。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。
設立の流れと定款の目的
一般社団法人は、設立時社員2人以上で定款を作り、公証人の認証を受けます(一般法人法10条1項・13条)。
認証の手数料は5万円です(公証人手数料令35条3号)。
設立登記の登録免許税は1件6万円です(登録免許税法別表第一24号(一)ロ)。
設立の登記をした日に法人が成立します(一般法人法22条)。
農地を借りる予定があるなら、定款の目的に「農業経営」「農作物の生産・販売」を入れておきます。
目的を後から変えるには、社員総会の特別決議が必要です(146条・49条2項4号)。
第〇条(目的)当法人は、〇〇地域の農業及び農村の振興を図り、農業の担い手の確保と都市と農村の交流に寄与することを目的とする。
第〇条(事業)当法人は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
(1)援農ボランティアの募集、研修及び農業者との連絡調整
(2)新規就農希望者への情報提供及び相談
(3)農業体験・市民農園の開設及び運営
(4)農業経営並びに農作物及びその加工品の生産及び販売
(5)その他前条の目的を達成するために必要な事業
(4)は農地を借りて耕作する場合や販売を行う場合に入れます。許可の審査で事業の内容を確認されることがあるので、実際に行う事業を具体的に書きます。
役員の任期は原則2年で、改選ごとに変更登記が必要です(66条・303条)。
毎年の定時社員総会の後には、貸借対照表を公告します(128条1項)。
設立の全体は一般社団法人の設立の流れ、目的の書き方は一般社団法人の事業目的の書き方で説明しています。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
農福連携・助成金との関わり
農業と福祉をつなぐ「農福連携」は、農林水産省が推進している取組です。
障害のある人の就労の場として農作業を行う形が代表的です。
就労継続支援などの障害福祉サービスを行うには、障害者総合支援法の指定が別に必要です。
農業・農村分野の補助や助成は、国・自治体・民間財団がそれぞれ募集しています。
応募できる団体の形や要件は、制度ごとの募集要項で決まります。
法人格を求める制度に応募するなら、その要件から逆算して法人化の時期を決めます。
指定の要件は就労継続支援B型をNPO法人・一般社団法人で始めるには?、助成金の探し方は一般社団法人は補助金・助成金を受けられる?で説明しています。
よくある誤解
誤解1:一般社団法人なら農地を買える。
農地を所有できるのは農地所有適格法人だけで、一般社団法人はなれません(農地法2条3項・3条2項2号)。
誤解2:法人は農地を借りることもできない。賃借権・使用貸借であれば、3条3項の要件を満たして許可を受けられます。
誤解3:口約束で借りて、後から許可を取ればよい。
許可を受けずにした貸借は効力を生じず、罰則の対象にもなります(3条6項・64条1号)。
誤解4:ボランティアなら労働法は関係ない。実態が雇用なら労働者に当たり得ます(労基法9条)。
誤解5:小さな直売なら表示はいらない。食品表示法は、業としない「食品の販売をする者」も対象にしています(2条3項)。
あわせて読みたい
一般社団法人で農業・農村支援を行うときのよくある質問
A. 買えません。農地を所有できるのは農事組合法人・株式会社(公開会社でないもの)・持分会社のうち要件を満たす農地所有適格法人です(農地法2条3項・3条2項2号)。
A. 借りられます。賃借権か使用貸借で、解除条件付きの書面契約、地域の農業者との役割分担、業務執行役員等1人以上の常時従事という要件を満たせば、農業委員会の許可を受けられます(農地法3条3項)。
A. 団体が農地の権利を取得しないなら、農地法の許可は不要です。農地の権利を取得する場合に農業委員会の許可が必要になります(農地法3条1項)。
A. 開けます。特定農地貸付法では、市町村と貸付協定を結び、農業委員会の承認を受けて区画を貸します(同法2条2項5号・3条)。農地を持たない団体は、地方公共団体か農地中間管理機構から農地を借りて行います。
A. 3条3項の許可を受けた法人は、毎年、事業の状況を農業委員会に報告します(農地法6条の2第1項)。適正に利用していない場合は勧告や許可の取消しの対象になります(3条の2)。
A. 農地を農地以外にする場合は、転用の許可が必要です(農地法4条1項・5条1項)。計画の段階で農業委員会と市町村に相談してください。
A. 業種によって営業許可か届出が必要です(食品衛生法55条1項・57条1項)。容器包装に入れた食品は食品表示基準に従った表示も必要です(食品表示法5条)。保健所に事前に確認してください。
A. 定款認証の手数料5万円(公証人手数料令35条3号)と登録免許税6万円(登録免許税法別表第一24号(一)ロ)で、合計11万円です。
📖 参考にした公的機関の情報


