一般社団法人の事業譲渡|全部の譲渡は社員総会の特別決議(一般法人法147条・49条2項5号)・一部の譲渡との違い・合併やNPO法人との比較

一般社団法人法
事業の一部を他の法人に引き継いでもらいたい。法人ごと一緒になるのではなく、事業だけを渡したい。このときに何の決議が要るのかを、条文から確かめていきましょう。

結論から申し上げます。一般社団法人が事業の全部の譲渡をするには、社員総会の決議によらなければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律〈以下「一般法人法」〉147条)。そしてこの決議は、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数で行う特別決議です(49条2項5号)。

一般財団法人では、事業の全部の譲渡は評議員会の決議によります(201条)。財団には社員がいないため、決議機関が評議員会になります。

注意したいのは、条文が定めているのは「全部の譲渡」だけだということです。一部の譲渡について、一般法人法は決議機関を定めていません。この記事では、全部と一部の違い、合併との違い、NPO法人と公益法人の扱い、進め方の順序までを整理します。

条文は「事業の全部の譲渡」だけを定めている

一般法人法は、第二章第七節に「事業の譲渡」という節を置き、147条の1か条だけを収めています。内容は「一般社団法人が事業の全部の譲渡をするには、社員総会の決議によらなければならない」というものです。

会社法が事業の全部の譲渡だけでなく、事業の重要な一部の譲渡や、他の会社の事業の全部の譲受けまで株主総会の特別決議事項としているのと比べると、一般法人法の定めはかなり簡素です。

一般財団法人については201条が同じ形で置かれ、決議機関が評議員会になります。財団の評議員会の決議は、原則として議決権の過半数を有する評議員が出席し、出席した評議員の議決権の過半数で行いますが(189条1項)、事業の全部の譲渡は特別の定めがある場面にあたるため、定款や法の定めを確認してください。

つまり、全部か、それ以外かで、条文の適用の有無が分かれます。

POINT 条文があるのは事業の「全部」の譲渡だけ(一般法人法147条・201条)。一部の譲渡には、決議機関を定めた条文がありません。

全部の譲渡は特別決議 ― 数え方に二つの条件がある

49条2項は、特別決議で行うべき社員総会の決議を列挙しています。5号が147条の社員総会、つまり事業の全部の譲渡です。ほかに、社員の除名(30条1項)、監事の解任(70条1項)、役員等の責任の一部免除(113条1項)、定款の変更(146条)、解散(148条3号)などが並びます。

特別決議の要件は、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数です。定款で3分の2を上回る割合を定めることはできますが、下回る割合は定められません。

ここで見落としやすいのが「総社員の半数以上」という頭数の条件です。出席者の中の割合ではなく、社員全体の頭数の半数以上が賛成することが求められます。委任状や書面表決を含めて、賛成した社員の頭数を数えてください。

普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した社員の議決権の過半数で行います(49条1項)。要件の立て付けがまったく違います。

決議 要件 根拠
普通決議 議決権の過半数を有する社員が出席し、出席社員の議決権の過半数 49条1項
特別決議 総社員の半数以上、かつ総社員の議決権の3分の2以上 49条2項
事業の全部の譲渡 特別決議 49条2項5号・147条
財団の事業の全部の譲渡 評議員会の決議 201条

一部の譲渡はどう決めるか

事業の一部を譲渡する場合、一般法人法には決議機関を定めた条文がありません。だからといって代表理事が独断で決められるという意味ではありません。

理事会を置く一般社団法人では、重要な財産の処分及び譲受けは理事会の専決事項で、理事に委任できません(90条4項1号)。事業の一部を譲渡すれば、そこに含まれる財産の処分を伴います。規模によっては「重要な財産の処分」に当たり、理事会の決議が必要になります。

理事会を置かない法人では、業務の決定は理事の過半数によります(76条2項)。定款で社員総会の決議事項としている場合は、それに従います。

実務では、譲渡の規模が大きいときや、法人の目的に関わる中核的な事業を手放すときは、条文上の義務がなくても社員総会に諮っておく方が安全です。あとから決議の有効性を争われる余地を減らせます。

合併との違い

合併は、法人そのものが一つになる手続です。一般社団法人・一般財団法人の合併は242条以下に詳しい規定があり、合併契約、社員総会の承認、債権者異議手続、登記といった段取りが法定されています。権利義務は包括的に承継されます。

事業譲渡は、法人は別々のまま、事業を構成する財産・契約・人を個別に移す取引です。契約上の地位を移すには相手方の同意が要り、職員の雇用は個別に切り替える必要があります。

許認可の扱いも違います。合併では承継が認められる場面がありますが、事業譲渡では原則として譲受人が自分で取り直します。福祉サービスの指定のように、事業の継続に許認可が不可欠な場合は、ここが手続の山になります。

どちらを選ぶかは、負債や契約の引き継ぎ方、許認可、時間の3点で決まることが多いです。

合併 事業譲渡
法人の数 1つになる 2つのまま
権利義務 包括承継 個別に移す(相手方の同意が要る)
手続の根拠 一般法人法242条以下に詳細な規定 147条(全部の譲渡の決議)のみ
債権者異議手続 あり なし(個別の同意で処理)
許認可 承継が認められる場面がある 原則として取り直し

NPO法人・公益法人ではどうなるか

NPO法には、事業譲渡についての規定がありません。合併については34条以下に定めがあり、社員総会の議決(社員総数の4分の3以上。定款に特別の定めがあるときはその定め)と、所轄庁の認証が必要です(34条1項〜3項)。認証の通知があった日から2週間以内に貸借対照表と財産目録を作り、債権者が異議を述べることができる期間の満了まで事務所に備え置きます(35条1項)。

NPO法人が事業を譲渡する場合は、定款で定めた決議機関に従うことになります。定款に定めがなければ、総会と理事会のどちらで決めるかを、事業の重要性から判断します。

公益社団法人・公益財団法人では、公益目的事業の全部の廃止や、事業の全部の譲渡は行政庁への届出事項にあたる場面があります(公益認定法24条)。認定を受けた事業の内容を変えることになる場合は、変更の認定が必要になることもあります。届出と認定のどちらになるかは、変える内容で決まります。

公益法人が事業譲渡を検討するときは、決議の前に行政庁に相談してください。決議を先に済ませてから手続の順序が違うと分かると、やり直しになります。

会費や寄付で成り立っている事業を渡すとき

会員から会費を受けて運営している事業を譲渡する場合、会員との関係をどう扱うかが実務の論点になります。会員資格は法人と会員の関係なので、事業を渡しても自動的には移りません。

譲受先で会員を引き継いでもらうなら、会員に説明して、譲受先との間で新たに会員になってもらう手順を踏みます。個人情報を譲受先に渡すことになるので、本人の同意を取るか、共同利用の枠組みを整えるかを決める必要があります(個人情報保護法27条)。

使途を定めた寄付を受けている場合は、その事業を続けられなくなることが寄付者との約束に反しないかを確認します。助成金の交付決定を受けている事業では、事業の実施主体が変わることについて交付元の承認が要ることが多いので、決議の前に問い合わせてください。

譲渡の対価をどう決めるかも整理しておきます。非営利法人だからといって無償で渡さなければならないわけではありません。ただし、理事が譲受先の代表を兼ねている場合は、利益相反取引として承認が必要になります(一般法人法84条1項2号・3号、92条1項)。

進め方の順序

最初に、譲渡するものの範囲を書き出します。財産、契約、職員、許認可、会員との関係のどれが動くのかを一覧にします。範囲が決まらないと、全部の譲渡なのか一部なのかも決まりません。

次に、決議機関を確定します。全部の譲渡なら社員総会の特別決議(147条・49条2項5号)、財団なら評議員会(201条)、一部なら定款と90条4項1号を見て判断します。

決議の前に、契約の相手方の同意が必要なものを洗い出します。賃貸借契約、取引先との継続的な契約、リース、補助金の交付決定などです。同意が取れない契約があると、譲渡の範囲を組み直すことになります。

職員については、雇用契約を承継するのか、退職して譲受先に新たに雇用されるのかを決め、本人に説明します。労働条件が変わる場合は個別の同意が要ります。

最後に、決議の記録と契約書を残します。事業譲渡は登記事項ではありませんが、決議と契約の記録がなければ、あとから範囲を説明できません。

事業譲渡を決める前に確認すること

  • 譲渡するものの範囲(財産・契約・職員・許認可)を書き出したか
  • 全部の譲渡か、一部の譲渡かを切り分けたか
  • 全部なら社員総会の特別決議(147条・49条2項5号)を予定しているか
  • 特別決議の「総社員の半数以上」という頭数の条件を数えたか
  • 一部なら、理事会の「重要な財産の処分」(90条4項1号)に当たるかを検討したか
  • 契約の相手方の同意が必要なものを洗い出したか
  • 許認可が譲受先で取り直しになることを確認したか
  • 公益法人なら、行政庁への届出や変更認定の要否を確認したか
  • 職員の雇用の扱いを決め、本人に説明したか

よくある誤解を4つ

一つめは「事業譲渡には債権者異議手続が要る」という誤解です。債権者異議手続は合併の手続で、事業譲渡にはありません。個別の契約で処理します。

二つめは「一部の譲渡なら理事の判断でできる」という誤解です。規模によっては理事会の専決事項である「重要な財産の処分」に当たります(90条4項1号)。

三つめは「特別決議は出席者の3分の2」という誤解です。49条2項が求めるのは、総社員の半数以上かつ総社員の議決権の3分の2以上です。

四つめは「許認可も一緒に移る」という誤解です。事業譲渡では原則として譲受人が取り直します。

一般社団法人の事業譲渡についてよくある質問

Q. 一般社団法人の事業譲渡にはどんな決議が必要ですか?

A. 事業の全部の譲渡をするには社員総会の決議によらなければならず(一般法人法147条)、その決議は特別決議です(49条2項5号)。総社員の半数以上かつ総社員の議決権の3分の2以上の多数が必要です。

Q. 事業の一部を譲渡するときは?

A. 一般法人法に決議機関の定めはありません。理事会設置法人では「重要な財産の処分」に当たれば理事会の決議が必要です(90条4項1号)。定款の定めも確認してください。

Q. 一般財団法人ではどうなりますか?

A. 事業の全部の譲渡は評議員会の決議によります(一般法人法201条)。財団には社員がいないため、決議機関が評議員会になります。

Q. 合併と何が違いますか?

A. 合併は法人が一つになり権利義務が包括的に承継されます(一般法人法242条以下)。事業譲渡は法人が別々のまま、財産や契約を個別に移す取引で、契約の承継には相手方の同意が要ります。

Q. 債権者異議手続は必要ですか?

A. 事業譲渡には債権者異議手続の定めがありません。合併の手続です。債務の引き受けは個別の契約と債権者の同意で処理します。

Q. NPO法人にも事業譲渡の規定はありますか?

A. NPO法に事業譲渡の規定はありません。合併については社員総会の議決(社員総数の4分の3以上)と所轄庁の認証が定められています(NPO法34条)。

Q. 許認可は譲受先に引き継がれますか?

A. 原則として引き継がれず、譲受人が自分で取得し直します。事業の継続に許認可が不可欠な場合は、取得の時期を逆算して進めてください。

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