社員総会や理事会のたびに全員の日程を合わせるのは、小さな法人ほど大変です。
実は、一定の条件を満たせば会議を開かずに決議を成立させることができます。
これが書面決議、法律上の名前でいう「決議の省略」(みなし決議)です。
ただし、社員総会と理事会でルールが違い、理事会には落とし穴があります。
この記事では、書面決議の仕組み、手続きの流れ、同意書の書き方までを解説します。
書面決議(決議の省略)とは
書面決議とは、会議を実際に開かずに、書面や電子データのやり取りだけで決議を成立させる方法です。
法律の条文では「決議の省略」と呼ばれ、実務では「みなし決議」「持ち回り決議」とも呼ばれます。
仕組みの核心は、全員が賛成しているなら、集まって議論する意味がないという発想です。
多数決で割れる可能性があるなら、会議を開いて議論すべきです。
だからこそ、決議の省略は全員一致が絶対条件になっています。
一人でも反対や無回答の人がいれば、成立しません。
この点で、多数決で決められる通常の決議とはまったく別の制度です。
なお、オンラインで会議を開く方法は、あくまで「開催する」やり方であり、決議の省略とは別物です。
両者の違いは後ほど整理します。
社員総会の決議の省略|定款の定めは不要
社員総会の決議の省略は、法律の第58条に定められています。
理事または社員が、社員総会の目的である事項について提案をします。
その提案に社員全員が書面または電磁的記録で同意すると、可決の決議があったものとみなされます。
重要なのは、この制度は定款に定めがなくても使えるという点です。
法律上、当然に認められた方法だからです。
同意は書面のほか、メールなどの電子データでも構いません。
返信メールで「同意します」と明確に意思表示してもらう形が実務では多く使われています。
同意の書面や電子データは、決議があったとみなされた日から10年間、主たる事務所に備え置く義務があります。
社員と債権者は、業務時間内いつでもその閲覧・謄写を請求できます。
「開かなかったから記録もない」は通らない、ということです。
定時社員総会も省略できるのか
毎年開く定時社員総会も、決議の省略で済ませることができます。
法律は、定時社員総会の目的事項のすべてについて提案が可決されたとみなされた場合、そのときに定時社員総会が終結したものとみなすと定めています。
決算の承認や役員の改選を、書面のやり取りだけで完了できるということです。
社員が数人で、全員の意思疎通が取れている法人では、現実的な選択肢になります。
ただし、注意もあります。
決算の内容を誰も説明しないまま形だけ同意を集める運用は、社員が実質的な判断をしていない状態です。
計算書類や事業報告を添えて提案し、質問の機会を設けたうえで同意をもらってください。
「省略できるのは会議であって、説明ではない」と考えるのが健全です。
報告だけの事項についても、全員の同意があれば総会への報告を省略できる仕組みが別にあります。
理事会の決議の省略|定款の定めが必須
理事会の決議の省略は、社員総会よりも条件が厳しくなっています。
第96条が定める要件は三つです。
第一に、定款に「決議の省略ができる」旨の定めがあること。
社員総会と違い、定款の根拠がなければ使えません。
第二に、議決に加わることができる理事の全員が、書面または電磁的記録で同意すること。
利益相反取引の承認のように特別の利害関係を持つ理事がいる場合、その理事は同意者に数えません。
第三に、監事が異議を述べないこと。
監事を置く法人では、監事にも提案を知らせ、異議がないことを確認する必要があります。
理事会は本来、議論を通じて相互に監督し合う場です。
その省略には慎重な歯止めがかけられている、と理解してください。
まず自分の法人の定款に定めがあるかを確認するのが出発点です。
社員総会と理事会の違いを一覧で確認
| 項目 | 社員総会の決議の省略 | 理事会の決議の省略 |
|---|---|---|
| 定款の定め | 不要 | 必要 |
| 同意する人 | 社員の全員 | 議決に加われる理事の全員 |
| 監事の関与 | 規定なし | 異議を述べないことが条件 |
| 同意の方法 | 書面または電磁的記録 | 書面または電磁的記録 |
| 記録の保存 | 同意書面等を10年間備置き | 議事録等として10年間備置き |
違いの核心は、定款の要否と監事の関与です。
理事会型の法人で定款に定めがない場合は、定款変更をしてから使うことになります。
定款変更の手続きは別記事で解説しています。
手続きの流れと同意書の書き方
実際の流れは、次の4ステップです。
第一に、提案書を作ります。決議事項を、通常の議案と同じ具体性で書きます。
第二に、全員に送ります。郵送でもメールでも構いませんが、全員に確実に届く方法を選びます。
第三に、全員分の同意を回収します。
第四に、みなし決議の議事録を作成し、同意書とあわせて保存します。
同意書の文例を示します。
「私は、2026年9月1日付の提案書記載の議案(理事1名選任の件)について、その内容を承認し、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第58条第1項に基づき同意します。2026年9月5日 社員 山田太郎」
議案の特定、同意の意思、日付、氏名。この4点がそろっていれば形式は自由です。
メールの場合は、提案メールへの返信という形で、同じ4点を本文に書いてもらいます。
「いいと思います」のような曖昧な返信は、同意と数えないでください。
議事録はどう書くか
決議の省略をした場合も、議事録にあたる記録を作成します。
書くべき内容は、次のとおりです。
決議があったものとみなされた事項の内容。
提案をした者の氏名。
決議があったものとみなされた日。これは最後の同意が到達した日です。
議事録の作成に係る職務を行った者の氏名。
冒頭に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第58条第1項(理事会は第96条)の規定により、社員総会(理事会)の決議があったものとみなされた」と明記しておくと、後から見て分かりやすくなります。
役員変更など登記が必要な決議では、このみなし決議の議事録を登記の添付書類として使います。
議事録の一般的な作り方は、議事録の記事で解説しています。
オンライン総会との違い・使い分け
会議を開かない決議の省略と、オンラインで開く総会は、別の制度です。
オンライン総会は、Zoomなどで実際に会議を開催する方法です。
出席・議論・多数決という通常のプロセスをそのまま踏むため、全員一致でなくても決議できます。
一方、決議の省略は開催そのものをなくす方法で、全員一致が必須です。
使い分けの目安は、こうです。
議論が必要な事項、意見が割れそうな事項は、オンラインでも対面でも、会議を開く。
形式的な承認事項で、全員の賛成が確実なものは、決議の省略で済ませる。
任期満了に伴う役員の重任、事務所移転の承認、軽微な規程の改定などは、決議の省略と相性のよい典型例です。
オンライン総会のやり方は、別記事で詳しく解説しています。
注意点|形骸化と全員一致の壁
便利な制度ですが、注意点が二つあります。
一つ目は、形骸化です。
すべての決議を書面で済ませ続けると、社員や理事が法人の状況を知る機会が失われていきます。
年に一度は顔を合わせて報告と質疑を行う、重要事項は必ず会議を開く、といった線引きを持ってください。
二つ目は、全員一致の壁です。
一人でも同意しない人、連絡が取れない人がいれば成立しません。
社員が増えてくると、全員分の同意を集めること自体が総会を開くより大変になります。
決議の省略は少人数の法人でこそ生きる制度です。
不成立に備えて、同意が集まらなければ通常どおり招集する、という切り替えの段取りも決めておきましょう。
登記が必要な決議での使い方
決議の省略は、登記実務でもよく使われます。
典型は、任期満了に伴う役員の重任です。
2年ごとに必ずやってくる決議で、内容に争いがないことがほとんどだからです。
みなし決議の議事録を作り、登記申請の添付書類にします。
このとき法務局が見るのは日付の整合性です。
決議があったとみなされた日は、全員の同意がそろった日です。
任期満了の日と、みなし決議の日、就任承諾の日の前後関係が崩れていると、補正を求められます。
提案書に同意の期限を書き、同意書に日付を必ず入れてもらう運用にすれば、日付は自然に整います。
役員変更登記の流れは、重任登記の記事で詳しく解説しています。
よくある失敗例
実務で見かける失敗を挙げておきます。
第一に、提案が曖昧なまま同意を集めてしまうケースです。
「役員の件、お任せください」への賛成は、誰を選任する決議なのか特定できず、決議として使えません。
第二に、口頭やチャットの既読だけで同意扱いにするケースです。
同意は書面または電磁的記録が要件です。記録に残る形で意思表示をもらってください。
第三に、同意を集めた後に提案内容を手直しするケースです。
内容を変えたら、それは別の提案です。全員の同意を取り直さなければなりません。
第四に、理事会の省略で監事への連絡を忘れるケースです。
監事が異議を述べない機会そのものがなかった場合、成立要件を欠く疑いが残ります。
どれも、手順書を一枚作っておけば防げる失敗です。
社員が法人の場合・海外にいる場合
社員に会社などの法人が入っている場合、同意するのはその法人の代表者です。
同意書には法人名と代表者の肩書き・氏名を書いてもらいます。
担当者個人のメール返信で済ませるなら、代表者の意思に基づくことが分かる形にしてください。
社員が海外に住んでいる場合、決議の省略は特に力を発揮します。
時差を気にして会議の時間を合わせる必要がなく、メールの往復だけで決議が成立するからです。
国際的なメンバーで構成される学術団体や交流団体では、実質的にこの方法が標準になっています。
言語が異なるメンバーには、議案の翻訳を添えるなど、内容を理解したうえでの同意になるよう配慮してください。
よくある質問
A. 社員総会の決議の省略は定款の定めがなくても使えます。理事会の決議の省略は、定款に「決議の省略ができる」旨の定めがある場合に限り使えます。まず定款を確認してください。
A. 構いません。法律は書面または電磁的記録による同意を認めており、メールも電磁的記録にあたります。議案の特定・同意の意思・日付・氏名が本文で明確になるようにし、返信メールを10年間保存してください。
A. 決議は成立しません。決議の省略は全員の同意が要件で、無回答は不同意と同じ扱いです。期限を区切って回答を求め、そろわなければ通常どおり総会や理事会を招集します。
A. できます。定時社員総会の目的事項すべてが決議の省略で可決されたとみなされると、定時社員総会は終結したものとみなされます。計算書類などの資料を添えて提案し、実質的な確認の機会を確保してください。
A. 必要です。決議があったものとみなされた事項・提案者・みなされた日・議事録作成者を記載した議事録を作成し、同意書面とあわせて10年間備え置きます。登記が必要な決議では登記の添付書類にもなります。
A. 監事が異議を述べないことが成立要件です。理事だけで同意を集めて完結させず、監事にも提案内容を通知し、異議がないことを記録に残してください。
📖 参考にした公的機関の情報


