一般社団法人の利益相反取引とは?承認手続きと理事の責任を解説

一般社団法人法
自分の会社に仕事を出す。それ、承認を取ってからにしてください。

一般社団法人の運営では、理事と法人の利害がぶつかる場面があります。

理事が経営する会社に法人の仕事を発注する、といったケースです。

これを利益相反取引といい、法律で手続きが決められています。

手続きを踏まずに進めると、取引の効力や理事の責任に関わる問題になります。

この記事では、利益相反取引にあたる例、承認の手続き、違反した場合の責任までを解説します。

POINT 結論:理事が法人と取引するときは、重要な事実を開示したうえで、社員総会(理事会設置法人では理事会)の承認が必要です。承認を取り、議事録に残す。この二つを守れば、利益相反取引そのものは適法にできます。

利益相反取引とは

利益相反取引とは、理事の利益と法人の利益が対立する取引のことです。

理事は、法人のために最善を尽くす義務を負っています。

ところが、取引の相手が理事自身なら、話が変わります。

高く売りたい理事と、安く買いたい法人。

両方の立場を同じ人が握ると、法人の利益が削られるおそれがあります。

そこで法律は、こうした取引を禁止するのではなく、承認手続きを条件に認める仕組みを取りました。

取引をやめさせるのではなく、透明にさせるという発想です。

根拠となるのは、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の第84条です。

競業取引の制限と並んで、理事の義務の中心となる条文です。

利益相反取引にあたる例

利益相反取引には、直接取引と間接取引の二つの型があります。

直接取引は、理事自身または理事が代理する第三者が、法人と直接取引するものです。

間接取引は、形の上では第三者との取引でも、実質的に理事の利益になるものです。

具体例
直接取引 理事が経営する会社へ業務を発注する/法人の建物を理事に売却する/理事から物品を仕入れる/理事に金銭を貸し付ける
間接取引 理事個人の借入について法人が保証人になる/理事の債務を法人が引き受ける

判断に迷ったら、その取引で理事側が得をする可能性があるか、と考えてください。

可能性があるなら、承認を取っておくのが安全です。

なお、法人が理事から無償で寄付を受けるような、法人に利益しかない行為は利益相反にあたらないと考えられています。

理事への報酬の支払いは、利益相反とは別に、定款または社員総会決議という独自のルールで規律されています。

承認の手続き|誰の承認をどう取るか

承認する機関は、法人の機関設計で変わります。

理事会を置いていない法人では、社員総会の承認が必要です。

理事会設置法人では、理事会の承認に置き換わります。

手続きの流れは次のとおりです。

第一に、取引をしようとする理事が、取引の重要な事実を開示します。

相手方、取引の内容、金額、条件などです。

第二に、承認の決議をします。

第三に、決議の内容を議事録に残します。

理事会設置法人では、取引のあとにも義務があります。

取引をした理事は、遅滞なく、その取引についての重要な事実を理事会に報告しなければなりません。

承認して終わりではなく、結果まで確認する仕組みです。

当事者の理事は決議に参加できない

理事会で承認決議をするとき、注意点が一つあります。

取引の当事者となる理事は、特別の利害関係を有する理事として、議決に加わることができません。

自分の取引を自分で承認することはできない、という当然のルールです。

定足数や賛成数を数えるときも、その理事は頭数から除いて計算します。

議事録には、その理事が議決に加わらなかったことを書いておくべきです。

あとから決議の有効性を争われたとき、議事録が唯一の証拠になります。

理事が2人しかいない法人で1人が当事者になると、残る1人だけで決議することになります。

運営の実情によっては、社員総会に諮るなど、より丁寧な手続きを選ぶ判断もあります。

承認を取らなかった取引はどうなるか

承認のない利益相反取引は、法人と理事との間では効力を否定され得ます。

法人側から無効を主張して、原状回復を求める余地が生まれるということです。

ただし、取引に第三者が関わっている場合は、取引の安全も考慮されます。

事情を知らない第三者まで一律に巻き込むわけではありません。

効力の問題以上に重いのが、理事の責任です。

利益相反取引で法人に損害が出ると、関係した理事は任務を怠ったものと推定されます。

取引をした理事だけではありません。

取引を決定した理事や、承認決議に賛成した理事まで推定が及びます。

推定を覆す立証は理事の側がしなければならず、実務上は重い負担です。

さらに、自己のために直接取引をした理事は、責任の免除や軽減が大きく制限されます。

承認を取っていれば防げた争いがほとんどです。手続きを惜しまないでください。

小規模な法人ほど起きやすい

利益相反は、大きな法人だけの話ではありません。

むしろ、理事2人で運営する小規模な一般社団法人のほうが頻繁に起きます。

事務所を理事の持ちビルから借りる。

会計を理事の経営する会社に委託する。

イベントの物品を理事の店から仕入れる。

どれも日常的で、悪意のない取引です。

それでも、法律上は利益相反取引にあたります。

家族や親しい仲間だけの法人だと、承認手続きが形骸化しがちです。

取引の条件が世間相場から離れていないかも、あわせて確認してください。

相場より明らかに高い発注は、承認があっても税務や善管注意義務の面で問題が残ります。

非営利型・公益認定との関係

利益相反の管理は、税制上の非営利型の維持にも関わります。

非営利型一般社団法人の要件には、特定の個人や団体に特別の利益を与えないことが含まれています。

理事側に有利な条件の取引を続ければ、この要件を疑われる材料になります。

非営利型が否認されると、収益事業以外も含めた全所得課税に変わり、影響は重大です。

公益社団法人を目指す場合も同じです。

公益認定の審査では、理事の関係者との取引の有無と管理体制が確認されます。

利益相反の承認記録をきちんと残していることは、審査への何よりの備えになります。

NPO法人の場合は仕組みが違う

NPO法人にも利益相反のルールはありますが、仕組みが異なります。

NPO法人では、利益が相反する事項について理事は代表権を持たないと定められています。

この場合、所轄庁が利害関係人の請求などにより特別代理人を選任し、特別代理人が法人を代表して取引します。

承認を取れば理事がそのまま取引できる一般社団法人とは、発想が違う制度です。

NPO法人と一般社団法人の制度の違いは、比較記事で詳しく解説しています。

競業取引との違い

同じ第84条には、利益相反取引と並んで競業取引の制限が定められています。

競業取引とは、理事が法人の事業と同じ種類の取引を、自分や第三者のために行うことです。

資格講座を運営する法人の理事が、個人でも同種の講座事業を始めるような場合です。

法人の顧客や信用、ノウハウが理事個人の事業に流れるおそれがあるため、承認が求められます。

利益相反取引が「法人と理事の取引」を対象にするのに対し、競業取引は「法人の外で行う同種の事業」を対象にします。

取引の相手が法人かどうか、が見分けの軸です。

承認の手続きは利益相反取引と同じで、重要な事実を開示して社員総会または理事会の承認を受けます。

理事が複数の団体の役員を掛け持ちしている場合は、競業と利益相反の両方が同時に問題になることもあります。

就任の時点で、各理事の兼職と事業の重なりを一覧にしておくと管理が楽になります。

議事録の記載例

承認決議は、議事録に残してはじめて意味を持ちます。

記載例を示します。

「第2号議案 利益相反取引承認の件 議長は、理事Aが代表取締役を務める株式会社Bとの間で、ウェブサイト保守業務の委託契約(委託料月額5万円、期間1年)を締結したい旨を説明し、本取引が理事Aとの利益相反取引に該当するため、その承認を求めた。」

「出席理事のうち、特別の利害関係を有する理事Aは議決に加わらず、議長を除く出席理事全員の賛成により、原案のとおり承認可決した。」

ポイントは三つです。

第一に、相手方・内容・金額・期間という重要な事実を具体的に書くこと。

第二に、利益相反取引に該当する旨を明記すること。

第三に、当事者の理事が議決に加わらなかったことを書くことです。

この三点がそろっていれば、後日の紛争や監督官庁・税務の確認にも耐えられます。

監事のチェックと社員への説明

監事を置いている法人では、利益相反取引は監査の重点項目です。

監事は理事の職務執行を監査する立場にあり、承認手続きの有無と取引条件の妥当性を確認します。

理事が不正な取引をするおそれがあるときは、監事は理事会への報告や差止めの請求もできます。

監事から取引の説明を求められたら、承認決議の議事録と契約書をそのまま示せる状態にしておきましょう。

社員に対する透明性も大切です。

社員総会で理事関係者との取引について質問が出るのは自然なことです。

答えに詰まるようでは、法人への信頼が揺らぎます。

年に一度、理事関係者との取引の一覧を作り、社員総会で報告する運用にすれば、疑念の芽を早めに摘めます。

隠すのではなく、記録して開示する。それが利益相反管理の要点です。

取引前チェックリスト

最後に、理事と関係のある取引を進める前の確認手順をまとめます。

第一に、取引の相手方と理事の関係を確認します。理事本人か、理事が代表を務める会社か、家族の会社か。

第二に、直接取引・間接取引のどちらに当たるかを整理します。

第三に、承認機関を確認します。理事会設置法人なら理事会、非設置なら社員総会です。

第四に、取引条件が世間相場と釣り合っているか、見積もりの比較などで裏づけを取ります。

第五に、承認決議を行い、当事者の理事を議決から外します。

第六に、議事録に重要な事実と決議の経過を記載します。

第七に、理事会設置法人では、取引後に理事会へ報告します。

この流れを一度書面にしておけば、次からは迷いません。

小さな法人こそ、手続きの型を持つことが自分たちを守ります。

よくある質問

Q. 理事が自分の会社に法人の仕事を発注するのは違法ですか?

A. 違法ではありません。ただし利益相反取引にあたるため、重要な事実を開示したうえで社員総会(理事会設置法人では理事会)の承認が必要です。承認を取り議事録に残せば、適法に取引できます。

Q. 利益相反取引の承認は毎回必要ですか?

A. 原則として取引ごとの承認が必要です。ただし、同じ内容の取引を継続的に行う場合は、取引の種類・条件・限度額を特定したうえで包括的に承認する運用も実務では行われています。範囲が曖昧な包括承認は避けてください。

Q. 当事者の理事しかいない場合はどうすればいいですか?

A. 理事会設置法人で当事者以外の理事だけで決議できないような場合は、社員総会の承認を検討します。理事1人の非設置法人であれば、そもそも承認機関は社員総会です。構成上の無理があるときは機関設計の見直しも選択肢です。

Q. 承認なしで取引してしまいました。今からできることはありますか?

A. 事後であっても、重要な事実を開示して承認(追認)の決議を取り、議事録に残してください。放置するより問題は小さくなります。損害の有無を確認し、必要なら取引条件の見直しも行ってください。

Q. 理事の家族が経営する会社との取引も利益相反ですか?

A. 条文が直接規制するのは理事本人が当事者や代理人となる取引ですが、家族の会社との取引も実質的に理事の利益になるなら間接取引と評価される可能性があります。疑わしい場合は承認を取っておくのが安全です。

Q. 議事録には何を書けばいいですか?

A. 開示された重要な事実の要点、承認決議の結果、当事者の理事が議決に加わらなかったことを記載します。理事会議事録の一般的な書き方は別記事で解説しています。


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