一般社団法人を運営していて、社員名簿を意識したことはあるでしょうか。
実は、社員名簿の作成と備置きは法律上の義務です。
小さな法人ほど「メンバーは頭に入っているから」と後回しにしがちです。
しかし、名簿がないと総会の招集や議決権の管理で必ずつまずきます。
この記事では、社員名簿に書くべき内容、備置きのルール、社員からの閲覧請求への対応までを解説します。
社員名簿とは
社員名簿とは、社員の氏名又は名称及び住所を記載または記録した名簿です。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の第31条で、作成が義務づけられています。
ここでいう社員は、従業員のことではありません。
社員総会で議決権を持つ、法人の構成員のことです。
株式会社でいえば株主にあたる立場で、株主名簿に相当するのが社員名簿です。
社員には個人だけでなく、会社や他の団体といった法人もなれます。
個人なら氏名、法人なら名称を記載するため、条文は「氏名又は名称」という書き方になっています。
形式は紙でも、パソコンで管理する電磁的記録でも構いません。
エクセルの一覧表でも、要件を満たせば立派な社員名簿です。
作成と備置きは義務|怠ると過料も
作った社員名簿は、主たる事務所に備え置く必要があります。
登記上の主たる事務所に、いつでも示せる状態で置いておくということです。
電子データで管理している場合は、事務所のパソコンなどから表示できる状態にしておけば足ります。
この義務は、社員が2人しかいない小規模な法人でも変わりません。
名簿を作らない、備え置かない、記載すべき事項を書かない、虚偽を記載する。
こうした違反は、100万円以下の過料の対象になり得ます。
過料は行政上の制裁で、理事など法人の役員個人に科されるものです。
実際に科されるかは事情によりますが、義務であることに変わりはありません。
設立したらまず名簿を作る、と覚えておいてください。
記載する内容と作り方
法律上の必須事項は、社員の氏名(名称)と住所の二つだけです。
ただし、実務ではこれだけでは足りません。
運営に使える名簿にするため、次の項目を加えるのが一般的です。
入会年月日。社員資格の得喪を確認する基礎になります。
退会年月日と退会理由。過去の社員の記録も残しておくと、後日の紛争に備えられます。
連絡先。総会の招集通知を送るために必要です。
会員種別。正会員・賛助会員などの区分がある法人では必須です。
法人社員の場合は、実際に議決権を行使する担当者名も書いておくと便利です。
定款や会員規約で入会手続きを定めている場合は、入会承認の記録と名簿の更新をセットで運用しましょう。
入退会のルールづくりは、別記事で詳しく解説しています。
社員からの閲覧・謄写請求
社員名簿は、法人が一方的に管理するだけのものではありません。
社員は、法人の業務時間内であればいつでも閲覧・謄写を請求できます。
書面の名簿なら閲覧と書き写し、電子データなら画面表示したものの閲覧などを求められます。
ただし、請求には理由を明らかにすることが必要です。
何のために見たいのかを示したうえでの請求、ということです。
典型的なのは、社員総会の招集を請求したい社員が、他の社員に呼びかけるために名簿を見たい、という場面です。
社員の権利行使のために名簿を使う。これが制度の趣旨です。
請求を受けた法人の側は、対応の記録を残しておきましょう。
いつ、誰から、どんな理由で請求があり、どう対応したか。
この記録が、後日のトラブルから法人を守ります。
拒めるケース・拒めないケース
閲覧請求は、無条件に応じるものではありません。
法律は、拒否できる場合を限定的に列挙しています。
第一に、権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求されたとき。
第二に、法人の業務を妨げたり、社員の共同の利益を害する目的があるとき。
営業目的で名簿の情報を使うような請求も、拒否の対象です。
逆にいえば、これらにあたらない請求は拒めません。
正当な理由のない拒否は、それ自体が過料の対象になり得ます。
「個人情報だから見せられない」という一律の断り方は、法律上は通らないのです。
拒否するなら、どの拒否事由にあたるのかを説明できる状態で判断してください。
判断に迷う請求を受けたときは、司法書士や弁護士など専門家に確認するのが安全です。
個人情報としての管理
社員名簿は、氏名と住所が並ぶ個人情報のかたまりです。
法律上の閲覧制度とは別に、個人情報保護の観点での管理が必要になります。
利用目的は、法人の運営に必要な範囲にとどめてください。
総会の招集、会費の請求、法人からの連絡といった目的です。
名簿の情報を外部の業者に渡す、広告に使うといった目的外の利用はトラブルのもとです。
保管もずさんにしてはいけません。
紙なら施錠できる場所に、データならパスワードを付けて管理します。
担当者を決めて、誰でも触れる状態にしないことも大切です。
閲覧制度への対応義務と、個人情報の保護。
この二つのバランスを取るのが、名簿管理の実務です。
会員名簿との違い|賛助会員は載せない?
会員制の法人では、会員名簿と社員名簿の関係が問題になります。
ポイントは、法律上の社員名簿に載せるのは議決権を持つ社員だけという点です。
多くの法人では、定款で正会員を法律上の社員と定めています。
この場合、社員名簿に載るのは正会員です。
賛助会員や名誉会員は、会費を払っていても法律上の社員ではありません。
賛助会員の一覧は、法人が任意で作る会員名簿として別に管理することになります。
実務では、一つの名簿に会員種別の列を設けて、両方を兼ねる形でも構いません。
その場合も、どの行が法律上の社員なのかが一目で分かるようにしておいてください。
総会の定足数や議決権の計算は、社員だけを数えるからです。
会員の種類の設計は、別記事で詳しく解説しています。
社員名簿のひな形|列構成の例
実務で使いやすい列構成の例を示します。
この形をそのままエクセルに写せば、今日から運用を始められます。
| 列 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 氏名/名称 | 個人は氏名・法人は正式名称 | 法定事項 |
| 住所 | 個人は住所・法人は主たる事務所 | 法定事項 |
| 会員種別 | 正会員・賛助会員など | 任意(推奨) |
| 入会年月日 | 入会承認の日付 | 任意(推奨) |
| 連絡先 | メールアドレス・電話番号 | 任意(推奨) |
| 退会年月日・理由 | 退会・除名・死亡など | 任意(推奨) |
法人社員がいる場合は、議決権を行使する担当者の氏名と役職の列も加えてください。
更新したら、いつ時点の名簿なのかが分かるように日付を残します。
総会のたびに「基準日時点の名簿」を保存しておくと、議決権の争いに備えられます。
総会運営は名簿から始まる
社員名簿がいちばん働くのは、社員総会のときです。
第一に、招集通知の宛先は名簿で確定します。
通知漏れがあると、総会の決議自体が取消しの対象になりかねません。
第二に、定足数と議決権の計算の基礎になります。
総社員の議決権の過半数を数えるには、そもそも社員が何人いるかが確定していなければなりません。
第三に、委任状や書面による議決権行使を確認する台帳になります。
誰が出席し、誰が委任し、誰が棄権したか。
名簿と突き合わせてはじめて、決議の成立を証明できます。
名簿が古いまま総会を開くのは、土台のない建物を建てるようなものです。
総会の招集手続きは、招集通知の記事で詳しく解説しています。
作っていなかった場合の作り方
いままで名簿を作っていなかった法人は、今から整備すれば大丈夫です。
手順は次のとおりです。
第一に、定款を確認します。誰が社員か、入会の手続きはどう定めているかを押さえます。
第二に、設立時の定款に記載された設立時社員を起点に置きます。
第三に、入会申込書や総会議事録、会費の入金記録から、その後の入退会をたどります。
第四に、現時点の社員を確定し、氏名と住所を本人に確認します。
住所は古くなっていることが多いので、この機会に最新化してください。
第五に、完成した名簿を主たる事務所に備え置き、以後は入退会のたびに更新します。
記録が乏しく社員の範囲がはっきりしない場合は、次の総会で現在の社員を確認する決議を経ておくと、以後の争いを防げます。
債権者や外部の人は名簿を見られるのか
閲覧請求ができるのは、原則として社員です。
株式会社の株主名簿では債権者にも閲覧請求が認められていますが、一般社団法人の社員名簿について法律が閲覧・謄写の請求権者としているのは社員です。
つまり、取引先や外部の第三者から求められても、応じる義務はありません。
むしろ、個人情報の管理の面からは、安易に開示しないのが正しい対応です。
行政庁や裁判所から法令に基づく照会があった場合は別で、根拠を確認したうえで対応します。
報道機関からの問い合わせにも、開示義務はありません。
外部対応の窓口をどの理事にするかを決めておくと、その場しのぎの回答を防げます。
「社員名簿は社員のための制度」という軸で判断すれば、迷いは減ります。
名簿管理を続けるコツ
名簿は、作ることより続けることが難しい書類です。
長続きさせるコツは三つあります。
第一に、更新のきっかけを行事に結びつけることです。
入会承認の理事会、年度初めの会費請求、定時社員総会の招集。
この三つの場面で必ず名簿を開く運用にすれば、更新漏れはほぼなくなります。
第二に、担当者を一人に決めることです。
全員で管理する名簿は、誰も管理しない名簿になります。
第三に、変更履歴を消さないことです。
上書きではなく、退会者も履歴として残す形で更新してください。
数年後に効いてくるのは、この履歴です。
よくある質問
A. はい。一般社団法人は社員の氏名(名称)と住所を記載した社員名簿を作成し、主たる事務所に備え置く法律上の義務があります。社員が2人だけの法人でも同じです。作成や備置きを怠ると100万円以下の過料の対象になり得ます。
A. 構いません。社員名簿は書面でも電磁的記録でも作成できます。エクセルなどのデータで管理する場合は、主たる事務所で表示・出力できる状態にしておき、パスワード設定などの情報管理も行ってください。
A. 必須です。法律は社員の氏名又は名称及び住所を記載事項と定めています。連絡先や入会日などは法定事項ではありませんが、運営のために追加しておくのが実務的です。
A. 理由を明らかにした請求であれば、原則として断れません。断れるのは、権利行使に関する調査以外の目的、業務妨害目的、営業目的での利用などの拒否事由にあたる場合に限られます。正当な理由のない拒否は過料の対象になり得ます。
A. 法律上の社員名簿に載せるのは、定款で社員と定めた人(多くの法人では正会員)だけです。賛助会員は任意の会員名簿で別に管理します。一つの表で管理する場合は、会員種別で区別できるようにしてください。
A. 現在の社員名簿からは外しますが、記録自体は退会日とあわせて保存しておくことをおすすめします。在籍期間や議決権の有無が後日問題になったとき、過去の記録が唯一の証拠になるためです。
📖 参考にした公的機関の情報


