NPO法人の運営が、特定の一人に依存している団体は少なくありません。
その人が急に動けなくなると、すべてが止まります。
備えは、平時にしか作れません。
この記事では、団体を止めないための備えを解説します。
一人に依存する危うさ
小さな団体ほど、一人に集中します。
代表者が、事務も会計も広報も担う形です。
効率は良いのですが、危うさもあります。
その人が病気になれば、すべてが止まります。
事故や、家族の事情もあり得ます。
本人が続けたくても、続けられない場合があります。
これは、能力の問題ではありません。
仕組みの問題です。
備えを作ることは、その人を守ることでもあります。
止まる場面を具体的に見る
代表者が動けなくなると、何が止まるでしょうか。
第一に、銀行口座です。
通帳と印鑑が、どこにあるか分からない場合があります。
第二に、契約の手続きです。
第三に、所轄庁への提出です。
第四に、登記です。
第五に、日常の連絡です。
電子メールの受信箱に、しか情報がない場合もあります。
第六に、関係先との関係そのものです。
人と人でつながっていると、引き継げません。
| 止まるもの | 原因 | 平時の備え |
|---|---|---|
| 銀行口座 | 通帳と印鑑の所在が不明 | 保管場所を複数人が知る |
| 契約の手続き | 契約の一覧がない | 一覧を作り共有する |
| 所轄庁への提出 | 手順を知る人がいない | 年間の予定表と控えを共有 |
| 登記 | 期限と方法が分からない | 手順を文書にする |
| 連絡 | 個人の宛先にしか届かない | 団体の共有の宛先を使う |
| 関係先 | 個人的なつながりのみ | 複数人で会う機会を作る |
印鑑と通帳の管理
いちばん困るのが、印鑑と通帳です。
保管の場所を、複数の役員が知っている状態にします。
代表者の自宅にある場合、家族も分からないことがあります。
事務所の、鍵のかかる場所に置くのが基本です。
誰がどの印鑑を持つかを、記録します。
銀行印と実印は、分けて保管しましょう。
一人がすべてを持つ状態を、避けます。
万が一のときの、取り出し方も決めておきます。
監事に、把握してもらう方法もあります。
情報を共有の場所に置く
情報が個人の端末にしかない状態を、なくします。
第一に、書類の電子ファイルです。
共有の保管の場所に、置きましょう。
第二に、電子メールです。
団体の共有の宛先を作り、そこで受けます。
第三に、各種の登録の情報です。
ウェブサイト、ドメイン、電子決済などです。
第四に、パスワードの管理です。
複数人が入れる形にしておきます。
本人しか知らない情報を、減らしていきます。
- 通帳と印鑑の保管場所
- 銀行の担当者と支店
- 契約の一覧(相手・期限・担当)
- 所轄庁と法務局の窓口
- 年間の予定表
- 過去の提出書類の控えの場所
- 各種の登録の情報とパスワード
- 主な関係先の連絡先
- 事務所の鍵と入館の方法
- 設立の経緯を書いた文書
定款の定めを確認する
役員が欠けたときの定めも、確認します。
任期が満了しても、後任が就任するまで職務を行う。
この定めがあるかで、対応が変わります。
あれば、空白を避けられます。
なければ、より急いで補充することになります。
代表理事が欠けた場合の定めも、見ておきましょう。
副理事長が職務を代行する、といった定めです。
なければ、理事会で決めることになります。
平時に、条文を読んでおいてください。
代行する人を決めておく
定款の定めとは別に、実務の代行者も決めます。
第一に、対外的な窓口を誰が担うかです。
第二に、会計の処理を誰が引き継ぐかです。
第三に、事務局の実務を誰が回すかです。
一人で全部を代われる人は、いません。
分担する前提で、考えましょう。
理事会で、あらかじめ話しておきます。
本人がいる場で決めるのは、気まずいものです。
それでも、必要な話です。
誰にでも起こり得ることだと、前置きして始めましょう。
手順を文書にする
実務の手順を、文書にしておきます。
完璧なものでなくてかまいません。
1枚の手順書でも、あるとないとで大違いです。
第一に、毎年の提出の手順です。
第二に、登記の手順です。
第三に、会費や寄付の入金の確認です。
第四に、支払いの手順です。
第五に、会報や案内の作り方です。
書いておけば、誰かが引き継げます。
書きながら、無駄も見つかります。
関係先を複数で持つ
関係先とのつながりも、備えの対象です。
代表者だけが知っている相手を、減らします。
打ち合わせに、複数人で行きましょう。
名刺の情報を、団体で管理します。
経緯を、記録に残します。
担当が代わっても、話が続く形にします。
相手の側も、そのほうが安心します。
個人的な信頼は、大切な資産です。
それを、団体の資産に変えていきましょう。
災害への備え
人だけでなく、場所や物への備えも要ります。
事務所が使えなくなる場合です。
書類が失われれば、再発行できないものもあります。
重要な書類の写しを、別の場所に置きましょう。
電子のバックアップも、有効です。
連絡の手段も、決めておきます。
電話が通じない場合の、代わりの方法です。
活動を止めるか続けるかの、判断の基準も要ります。
利用者がいる事業では、特に重要です。
備えを点検する
一度作った備えも、古くなります。
年に一度、点検しましょう。
連絡先が変わっていないかを見ます。
担当が代わった部分を、更新します。
パスワードが変わっていないかも、確認します。
手順書の内容が、実務と合っているかを見ます。
理事会の議題に、入れておくとよいでしょう。
点検した日と担当を、記録に残します。
古い備えは、ないのと同じです。
会計の担当が抜ける場合
代表者だけでなく、会計の担当も要注意です。
帳簿の付け方を、その人しか知らない場合があります。
使っている表計算のファイルの構造も、同じです。
第一に、どの帳簿をどう付けているかを記録します。
第二に、ファイルの場所を共有します。
第三に、通帳と帳簿の関係を説明できるようにします。
第四に、監事が毎年見ていれば、把握が進みます。
監査を形だけにしない意味は、ここにもあります。
会計の具体的な処理は、専門家に相談してください。
引き継ぎの相談先も、決めておきましょう。
備えの話を切り出す
この話は、切り出しにくいものです。
相手が元気なうちに、話すことになるためです。
不吉なことを言うようで、気が引けます。
そこで、制度の話として持ち出しましょう。
定款の確認、という形から入ります。
誰か一人の問題ではなく、全員の話にします。
理事会の議題として、年に一度扱う形もあります。
毎年やることにすれば、特別な話でなくなります。
本人から言い出すのは、さらに難しいものです。
周りが、仕組みとして始めましょう。
小さく始める備え
完璧な備えを作ろうとすると、進みません。
小さく始めましょう。
第一に、通帳と印鑑の場所を、もう一人に伝えます。
これだけで、最悪の事態は避けられます。
第二に、年間の予定表を共有します。
第三に、契約の一覧を作ります。
ここまでで、半日もかかりません。
第四に、手順書を一つずつ作っていきます。
毎月一つでも、一年で12個になります。
完璧を目指さず、増やしていく形にしてください。
引き継ぐ人の側の負担
備えは、引き継ぐ人のためでもあります。
何も分からないまま任されるのは、恐ろしいことです。
断られる原因にも、なります。
手順と情報がそろっていれば、引き受けやすくなります。
後任が見つかりやすくなる、という効果もあります。
代表を頼まれた人が、まず不安に思うのはこの点です。
自分にできるだろうか、という不安です。
備えを見せることが、いちばんの説得材料になります。
整った団体には、人が集まります。
備えは、将来への投資でもあります。
鍵と入館の方法
物理的な入口も、備えの対象です。
事務所の鍵を、複数人が持っているかを確認します。
一人しか持っていないと、入れなくなります。
建物の入館の方法も、同じです。
暗証番号を、記録して共有しておきます。
書庫や金庫の鍵も、対象です。
誰が何を持っているかを、一覧にします。
合鍵の作成が可能かも、確認しておきましょう。
貸主の承諾が要る場合もあります。
当たり前のことほど、抜けやすいものです。
団体の記憶を残す
手続きの情報だけが、備えではありません。
なぜこの活動を始めたかも、引き継ぐべきものです。
設立の経緯を、文書に残しましょう。
設立趣旨書が、その原型になります。
関わってきた人の名前も、記録します。
過去の判断の理由も、残せると理想的です。
なぜこの事業をやめたか、なぜ始めたかです。
記録がないと、同じ議論を繰り返します。
議事録が、その役割を果たします。
団体の記憶を、人の頭の中だけに置かないでください。
保険という備え
事業を止めない備えとして、保険も考えられます。
活動中の事故に備える保険が、その中心です。
施設や備品に対する保険も、あります。
事務所が使えなくなった場合に、備える形です。
役員賠償責任保険という選択肢も、あります。
いずれも、費用と規模の釣り合いで判断します。
小さな団体に、すべては必要ありません。
起きたときの影響が大きいものから、考えましょう。
毎年の更新も、忘れないでください。
加入の内容を、複数人が把握しておきます。
事業継続の備えのまとめ
一人に依存する状態は、仕組みの問題です。
代表者が動けなくなると、口座も契約も止まります。
通帳と印鑑の保管場所を、複数人が知る形にしましょう。
情報を、個人の端末から共有の場所へ移します。
定款に、後任が就任するまで職務を行う定めがあるか確認します。
実務の代行者を、分担する前提で決めておきましょう。
手順を1枚の文書にするだけで、引き継げるようになります。
年に一度、備えを点検してください。
会計の担当が抜ける場合も、同じ備えが要ります。
完璧を目指さず、通帳と印鑑の場所の共有から始めましょう。
事務所の鍵や暗証番号も、複数人が把握しておきます。
備えが整っている団体には、後任も引き受けやすくなります。
なぜこの活動を始めたかという記憶も、文書に残してください。
よくある質問
A. 銀行口座、契約の手続き、所轄庁への提出、登記、日常の連絡です。通帳と印鑑の所在が分からず、情報が個人の端末にしかない状態が原因になります。関係先とのつながりも、個人的なものだと引き継げません。
A. 通帳と印鑑の保管場所を、複数の役員が知る形にすることです。事務所の鍵のかかる場所に置き、誰がどの印鑑を持つかを記録してください。
A. 任期が満了しても後任が就任するまで職務を行う旨の定めと、代表理事が欠けた場合の定めです。あれば空白を避けられ、なければ急いで補充することになります。
A. 一人で全部を代われる人はいないため、分担する前提で考えます。対外的な窓口、会計、事務局の実務を分けて、理事会であらかじめ話しておきましょう。
A. 完璧である必要はありません。毎年の提出、登記、入金の確認、支払い、会報の作り方を1枚ずつ書くだけで、誰かが引き継げるようになります。毎月一つでも、一年で12個になります。
A. いけません。連絡先やパスワード、担当が変わります。年に一度、理事会の議題に入れて点検し、点検した日と担当を記録してください。
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