辞任届を出せばそれで終わりでしょうか?
登記も必要ですか?
結論から申し上げます。辞任そのものは、いつでもできます。法人と役員の関係は委任なので、民法651条1項により各当事者がいつでも解除できるからです。法人の承認や社員総会の決議は必要ありません。
ただし、辞任届を出せば必ず責任から離れられるわけではありません。その辞任によって定款や法律で定めた員数を割ってしまう場合には、後任者が就任するまで役員としての権利義務が残ります。一般法人法75条1項が定める、いわゆる権利義務役員です。
この記事では、辞任届の書き方と記載例、いつ効力が生じるのか、登記はいつまでにするのか、辞めたつもりで辞められていない状態をどう避けるかを、民法と一般法人法の条文にあたって整理します。
辞任届とは ― 役員が法人に差し出す1枚
辞任届は、理事・監事・代表理事・評議員などの役員が、自分の意思でその地位をやめることを法人に伝える書面です。就任のときに出す就任承諾書とちょうど裏表の関係にあります。
法律で決まった様式はありません。A4用紙1枚、本文2行で足ります。大切なのは、誰が、どの役職を、いつ辞めるのかが読み取れることです。
宛先は法人です。「一般社団法人◯◯ 御中」あるいは「一般社団法人◯◯ 代表理事 ◯◯◯◯ 殿」と書きます。差出人として本人の住所と氏名を書き、押印します。
辞任は法人の同意を必要としない一方的な意思表示です。社員総会や理事会で「辞任を承認する」決議をしなくても、辞任の効力は生じます。議事録で「辞任を承認した」と書かれることがありますが、これは事実の確認であって、効力の条件ではありません。
なぜいつでも辞任できるのか ― 委任だから
一般法人法64条は、一般社団法人と役員および会計監査人との関係は委任に関する規定に従うと定めています。一般財団法人については172条1項が同じ内容を定め、こちらは評議員も対象に含みます。
そして民法651条1項は、委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができると定めています。役員の側からの解除が辞任、法人の側からの解除が解任にあたります。
「任期の途中だから辞められない」ということはありません。理事の任期は66条により原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までですが、その途中でも辞任できます。
ただし民法651条2項は、相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは損害を賠償しなければならない、と定めています。もっとも同項ただし書により、やむを得ない事由があったときは賠償の必要はありません。健康上の理由や転居など、続けられない事情があるときは、この但書が働きます。
実際に損害賠償が問題になる場面はまれですが、決算や登記の直前に突然抜けると法人の運営に支障が出ます。後任の目処や引き継ぎについて、事前に相談しておくのが穏当です。
辞任の効力はいつ生じるのか ― 法人に届いた時
辞任は相手方のある一方的な意思表示なので、その意思表示が法人に到達した時に効力が生じます。辞任届を書いた日ではなく、法人が受け取った日が基準です。
そのため辞任届には、いつ辞任するのかをはっきり書いておくと後で困りません。「令和◯年◯月◯日をもって辞任します」と書けば、その日が退任日になります。日付を書かずに差し出すと、到達日がいつだったかで争いになることがあります。
受け取る側は法人です。実務上は代表理事に渡すのが確実で、代表理事本人が辞任する場合は、他の理事や理事会に対して差し出します。
- 辞任届に「令和◯年◯月◯日をもって辞任します」と退任日を明記します
- 手渡しなら受領印をもらうか、控えに受領日を書いてもらいます
- 郵送なら配達記録の残る方法を使い、控えを保管します
- 理事会や社員総会の議事録に、辞任届を受領した旨を残しておきます
辞任届の書き方 ― 入れるべき5つの要素
辞任届に必要なのは、次の5点です。これがそろっていれば、登記の添付書面としても使えます。
| 要素 | 書き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 表題 | 辞任届 | 中央に大きめに書きます |
| 辞任の意思 | 私は、このたび一身上の都合により | 理由は詳しく書かなくてかまいません |
| 役職と辞任日 | 貴法人の理事を、令和◯年◯月◯日をもって辞任いたします。 | 役職名と退任日を正確に書きます |
| 作成日 | 令和◯年◯月◯日 | 辞任日より後の日付にはしません |
| 住所・氏名・押印 | ◯県◯市◯町◯丁目◯番◯号 ◯◯◯◯ 印 | 登記簿の記載と同じ氏名にします |
実際の文面は、次のように短いもので足ります。
辞任届
私は、このたび一身上の都合により、貴法人の理事を令和◯年◯月◯日をもって辞任いたします。
令和◯年◯月◯日
◯県◯市◯町◯丁目◯番◯号
◯◯◯◯ 印
一般社団法人◯◯ 御中
辞任の理由は「一身上の都合により」で足ります。詳しい事情を書く義務はありません。監事や会計監査人については、後述のとおり社員総会で理由を述べる機会が別に用意されています。
辞任届を出しても辞められない場合 ― 権利義務役員
ここが辞任でいちばん誤解されるところです。一般法人法75条1項は次のように定めています。
役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
つまり、辞任によって定員を割ってしまう場合には、後任者が就任するまで役員としての権利も義務も残ります。辞任届を出しても、法律上はまだ役員のままという状態です。
理事会を置く一般社団法人では、65条3項により理事は3人以上必要です。理事が3人しかいない法人で1人が辞任すると、その人は権利義務理事として残ることになります。監事を置く法人で唯一の監事が辞任した場合も同じです。
逆にいえば、定員に余裕があれば辞任届を出した時点で抜けられます。理事が5人いる法人で1人が辞任し、なお4人が残るのであれば、権利義務理事の問題は起きません。
もうひとつ大切な点があります。75条1項が対象にしているのは「任期の満了又は辞任により退任した役員」です。解任された役員は、権利義務を負いません。解任の場合は定員割れのままになるため、速やかに後任を選ぶか、次に述べる一時役員の選任を求めることになります。
権利義務役員から抜けるには ― 後任の選任か一時役員
権利義務役員の状態を終わらせる方法は2つです。
| 方法 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 後任を選任する | 社員総会で新しい理事を選び、その人が就任した時点で権利義務が終わります。もっとも確実で費用もかかりません。 | 一般法人法75条1項 |
| 一時役員の選任を裁判所に求める | 必要があると認めるときは、裁判所が利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者を選任できます。後任が決まらないときの手段です。 | 一般法人法75条2項 |
裁判所が一時役員を選んだ場合、75条3項により、裁判所は法人がその者に支払う報酬の額を定めることができます。費用は法人の負担になるため、実務ではまず後任を探すのが基本になります。
会計監査人については75条4項が別の扱いを定めています。会計監査人が欠けた場合や定款で定めた員数を欠いた場合に遅滞なく選任されないときは、監事が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません。こちらは裁判所ではなく監事の職務です。
一般財団法人の評議員についても、175条が同じ仕組みを用意しています。員数が欠けた場合、任期満了または辞任により退任した評議員は後任の就任まで権利義務を有し(175条1項)、裁判所は利害関係人の申立てにより一時評議員の職務を行うべき者を選任できます(175条2項)。
辞任したら登記は2週間以内
役員の辞任は登記事項の変更にあたります。一般法人法303条は、登記事項に変更が生じたときは2週間以内に、主たる事務所の所在地において変更の登記をしなければならないと定めています。
添付書面については320条5項が、理事・監事・代表理事などの退任による変更の登記の申請書には、これを証する書面を添付しなければならないと定めています。辞任の場合、この「これを証する書面」が辞任届です。
注意したいのは、権利義務役員になっている間は辞任の登記ができないことです。法律上まだ役員としての地位が続いているためで、後任者が就任してはじめて、退任と就任をあわせて登記します。
登記を怠ると過料の対象になります。「辞任届を出したから自分は関係ない」と考えていると、定員割れのまま登記もされず、登記簿上いつまでも役員として名前が残ることになります。
| 登記の内容 | 添付する書面 | 根拠 |
|---|---|---|
| 辞任による退任 | 辞任届 | 一般法人法320条5項 |
| 任期満了による退任 | 定款と、任期満了が分かる議事録 | 一般法人法320条5項 |
| 後任者の就任 | 就任承諾書 | 一般法人法320条1項 |
| 評議員の就任 | 選任に関する書面と就任承諾書 | 一般法人法320条2項 |
代表理事が辞任するときは印鑑証明書がいる
代表理事の辞任には、ほかの役員にはない要件があります。一般社団法人等登記規則3条は、商業登記規則61条の1項および4項から8項までを一般社団法人等の登記について準用しています。
このうち商業登記規則61条8項は、代表者の辞任による変更の登記の申請書には、辞任を証する書面に押した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならないと定めています。
ただし同項にはただし書があります。登記所に印鑑を提出した者がある場合で、辞任届に押した印鑑と、登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、印鑑証明書の添付は不要です。
つまり代表理事が辞任するときの選択肢は2つです。法人の登記所届出印を辞任届に押すか、個人の実印を押して市区町村の印鑑証明書を添えるか。どちらかを満たせば足ります。
- 登記所に届け出ている印鑑を辞任届に押す場合 ― 印鑑証明書は不要です
- 個人の実印を押す場合 ― 市区町村長が作成した印鑑証明書を添付します
- いずれにも当たらない認め印だけの辞任届は、添付書面として使えないことがあります
なお、代表理事が理事も辞任するのか、代表理事の地位だけを辞任して理事としては残るのかで、登記の内容が変わります。辞任届にはどちらなのかをはっきり書いてください。
監事と会計監査人には意見を述べる機会がある
監事の辞任には、理事にはない手当てが用意されています。一般法人法74条1項は、監事は、社員総会において、監事の選任もしくは解任または辞任について意見を述べることができると定めています。
さらに74条2項は、監事を辞任した者は、辞任後最初に招集される社員総会に出席して、辞任した旨およびその理由を述べることができると定めています。そして74条3項により、理事はその社員総会を招集する旨などを辞任した監事に通知しなければなりません。
これは、監事が理事の職務執行を監査する立場にあるためです。都合の悪い監事を辞めさせて事情が表に出ないようにする、という事態を防ぐための仕組みになっています。
74条4項により、1項は会計監査人について、2項と3項は会計監査人を辞任した者などについて準用されます。監事を辞任した人に社員総会の招集を通知していない法人は少なくないので、理事の側の義務として覚えておいてください。
辞任・任期満了・解任・死亡の違い
役員が退任する原因はいくつかあり、登記の原因も添付書面も変わります。整理しておきます。
| 退任の原因 | 何が起きたか | 登記原因 | 添付書面 |
|---|---|---|---|
| 辞任 | 本人の意思でやめた | 辞任 | 辞任届 |
| 任期満了 | 任期が来て退任した | 退任 | 定款と議事録 |
| 解任 | 法人の側が外した | 解任 | 解任を決議した議事録 |
| 死亡 | 本人が亡くなった | 死亡 | 死亡の記載がある書面 |
| 重任 | 任期満了と同時に再び就任した | 重任 | 議事録と就任承諾書 |
民法653条は委任の終了事由として、委任者または受任者の死亡、委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、受任者が後見開始の審判を受けたことを挙げています。これらは辞任届を待たずに委任そのものが終わる場面です。
任期満了と辞任が同じ日に重なると重任になります。重任のときは辞任届ではなく、任期満了による退任と新たな就任の両方を登記します。任期は理事が66条により原則2年、監事が67条1項により原則4年(定款により2年まで短縮できます)、一般財団法人の評議員は174条1項により原則4年(定款により6年まで伸長できます)です。
辞任届でつまずきやすい点
窓口で補正を求められやすいのは、書面の中身より登記簿や他の書面との食い違いです。
| つまずく点 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 辞任日を書いていない | いつ退任したのかが決まらず、登記の日付が定まりません | 「令和◯年◯月◯日をもって」と明記します |
| 定員割れに気づいていない | 辞任したつもりが権利義務理事として残り、責任も続きます | 辞任前に理事の人数と定款の定めを確認します |
| 代表理事の印鑑が合わない | 認め印だけの辞任届では添付書面として使えないことがあります | 登記所届出印を押すか、実印と印鑑証明書をそろえます |
| 理事と代表理事のどちらを辞めるか不明確 | 登記すべき内容が決まりません | 辞任届に「理事及び代表理事を辞任」などと書きます |
| 2週間の期限を過ぎた | 過料の対象になります | 辞任届を受け取ったら登記の準備をすぐ始めます |
また、辞任届は法人が受け取ったあとも保管しておいてください。登記に使った原本は登記所に提出することになるため、控えを取っておくと後から経緯を確認できます。
登録免許税と提出先
辞任にともなう役員変更の登記は、主たる事務所の所在地を管轄する法務局に申請します。法務局が公開している役員変更の登記申請書の記載例によると、登録免許税は1万円です。
納付は収入印紙または領収証書で行い、収入印紙貼付台紙に貼って提出します。一般社団法人には資本金がないため、株式会社のように資本金の額によって税額が変わることはありません。
同じ機会に複数の役員が入れ替わっても、役員変更の登記としては1件です。辞任した理事の登記と後任の理事の就任の登記をまとめて申請するほうが、費用も手間も少なくて済みます。
代理人に申請を委任する場合は委任状も必要です。これは申請の代理についての書面で、辞任届とは別に用意します。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
【PR】shadan-help オリジナル教材
この記事のひな形を含む21書式を、条文の根拠つきでまとめました
議事録・招集通知・委任状・議決権行使書・書面決議(みなし決議)・社員名簿・会費督促・決算公告・役員変更の添付書類チェックリストまで。どの条文が根拠かと定款のどこを見るべきかを各書式に注記しています。一般社団法人とNPO法人は根拠法が違うため、章を分けて収録しました。
¥3,980(税込)/買い切り ※一般的なひな形集です。個別事案の判断や登記代行は含みません。
辞任届についてよくある質問
A. 必要ありません。法人と役員の関係は委任なので、民法651条1項により各当事者がいつでも解除できます。辞任は本人の一方的な意思表示で効力が生じます。議事録に「辞任を承認した」と書かれることがありますが、これは事実の確認であって、効力の条件ではありません。
A. 辞任によって法律または定款で定めた員数を割ってしまう場合は、一般法人法75条1項により、新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務が残ります。この状態を終わらせるには、後任を選任するか、同条2項により裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を求めます。
A. 理事の辞任届は「一身上の都合により」で足ります。ただし監事については、一般法人法74条2項により、辞任後最初に招集される社員総会に出席して辞任した旨とその理由を述べることができるとされています。
A. 必ずしも必要ではありません。一般社団法人等登記規則3条が準用する商業登記規則61条8項のただし書により、辞任届に押した印鑑が登記所に提出している印鑑と同一であるときは、印鑑証明書の添付は不要です。
A. 一般法人法303条により、変更が生じてから2週間以内に登記しなければなりません。怠ると過料の対象になります。また登記簿に役員として名前が残り続けるため、対外的にはまだ役員だと受け取られる状態が続きます。
A. 負いません。一般法人法75条1項が対象としているのは「任期の満了又は辞任により退任した役員」です。解任された役員は含まれないため、定員割れのままになります。後任の選任か一時役員の選任で対応します。
A. 辞任の意思表示自体はできますが、定員を割るため全員が権利義務理事として残ることになります。実際に抜けるには後任の選任が必要で、後任を選ぶ社員総会の招集も権利義務理事が行うことになります。
A. 基本の考え方は同じです。一般財団法人と評議員の関係は172条1項により委任で、いつでも辞任できます。員数が欠ける場合は175条1項により後任の就任まで権利義務が残り、175条2項により裁判所が一時評議員の職務を行うべき者を選任できます。
辞任した役員も、NPO法人の年間役員名簿には全員書きます。名簿の書き方はこちらで整理しています。
📖 参考にした公的機関の情報


