NPO法人が事務所を移転するときは、定款の記載を先に確認します。
市区町村まで書いているか、番地まで書いているかで手続きが変わります。
管轄する法務局が変わる場合も、注意が必要です。
この記事では、移転の手順を場合分けして解説します。
まず定款を確認する
移転で最初にやることは、定款を読むことです。
主たる事務所の所在地が、どう書かれているかを見ます。
名古屋市中区とだけ書いてあるか、番地まで書いてあるかです。
市区町村までなら、同じ市区町村内の移転で定款変更は要りません。
番地まで書いてあれば、少しの移転でも定款変更が必要です。
定款変更には、総会の議決が要ります。
手間がまったく違うため、この確認が最初になります。
設立のときに番地まで書いている団体は、少なくありません。
将来の移転を考えるなら、市区町村までにしておく方法もあります。
| 移転のパターン | 定款変更 | 所轄庁 |
|---|---|---|
| 同一市区町村内・定款は市区町村まで | 不要 | 変わらない |
| 同一市区町村内・定款に番地まで | 必要(届出) | 変わらない |
| 同一都道府県内の別市区町村へ | 定款の記載による | 変わらない場合が多い |
| 他の都道府県へ | 必要 | 変わる(所轄庁の変更) |
定款変更が必要な場合
定款を変更するには、総会の議決が必要です。
定款で定めた特別の多数が要ります。
社員総数の2分の1以上が出席し、その4分の3以上の賛成が原則です。
定款で別に定めている場合は、それによります。
事務所の所在地の変更は、届出で足りる事項です。
所轄庁の認証までは、必要ありません。
ただし、所轄庁が変わる場合は認証が必要になります。
同じ定款変更でも、扱いが分かれる点に注意しましょう。
総会を開く手間を考えて、時期を計画してください。
登記は2週間以内
事務所を移転したら、変更登記が必要です。
期限は、移転の日から2週間以内です。
同じ法務局の管轄内なら、手続きは比較的簡単です。
管轄が変わる場合は、旧管轄と新管轄の両方に関わります。
申請の方法が異なるため、事前に確認しましょう。
登記を怠ると、代表者個人に過料が科されることがあります。
移転の日をいつにするかは、実態に合わせます。
実際に移った日と、登記の日付が食い違わないようにします。
登記申請の手続きそのものは、司法書士の業務範囲です。
所轄庁が変わる場合
いちばん手間がかかるのが、都道府県をまたぐ移転です。
所轄庁そのものが変わります。
定款変更の認証を、受けることになります。
手続きの流れは、所轄庁によって案内が異なります。
移転前の所轄庁に、まず相談してください。
書類の引き継ぎが行われる仕組みになっています。
認証に時間がかかるため、余裕を持って動きます。
移転の予定が決まった時点で、相談を始めましょう。
直前に動くと、間に合わないことがあります。
- 定款の記載を確認する
- 必要なら総会で定款変更を議決する
- 所轄庁へ定款変更の届出または認証申請
- 2週間以内に変更登記を申請する
- 所轄庁へ登記完了の届出
- 金融機関へ住所変更を届け出る
- 税務署や自治体への異動の届出
- 郵便の転送手続き
- 契約先へ住所変更を連絡する
- ウェブサイトと印刷物の住所を直す
- 旧事務所の解約を予告し原状回復の範囲を確認する
- 備え置きの書類を新事務所に並べ直す
事務所の要件を満たすか
移転先が、事務所として使えるかを確認します。
看板を出せるか、郵便を受け取れるかが要点です。
賃貸の場合は、法人の事務所として使う許可が要ります。
住居専用の契約では、認められないことがあります。
契約の前に、貸主へ確認しておきましょう。
自宅を事務所にする場合も、同じ確認が必要です。
マンションの管理規約で、制限されていることがあります。
書類の保管場所も、必要になります。
備え置きの義務がある書類を、置ける広さが要ります。
従たる事務所の扱い
主たる事務所のほかに、事務所を置くこともあります。
従たる事務所として、定款に書きます。
登記も必要になります。
増やす場合も、減らす場合も、手続きが生じます。
定款に書いていない場所を事務所と呼ぶと、齟齬が出ます。
活動の拠点にすぎない場所なら、事務所としないこともできます。
どこまでを事務所とするかは、実態に応じて判断します。
事務所が増えれば、そのぶん手続きも増えます。
必要のない登記を増やさない考え方も、あります。
移転にともなう届出
登記と所轄庁のほかにも、届出があります。
税務署と自治体への異動の届出が、その代表です。
職員を雇っているなら、労働保険と社会保険の手続きもあります。
許認可を受けている事業があれば、その変更も必要です。
介護保険や障害福祉のサービスなどが、これにあたります。
許認可は、期限が厳しいものが多くあります。
事業を止めないよう、順番を確認してください。
税務の届出は、税務署または税理士へご確認ください。
社会保険の手続きは、社会保険労務士の業務範囲です。
住所を変える対象の洗い出し
住所は、思った以上に多くの場所に書かれています。
第一に、ウェブサイトです。
会社概要のページだけでなく、全ページの下部も見ます。
第二に、パンフレットや名刺です。
在庫がある場合は、作り直しの費用も見込みます。
第三に、封筒やゴム印です。
第四に、会員向けの案内や振込先の表示です。
第五に、地図サービスへの登録です。
第六に、助成金の申請中の書類です。
一覧を作って、順に消していきましょう。
郵便物を取りこぼさない
移転で困るのが、郵便物です。
郵便局に転居届を出せば、一定期間は転送されます。
ただし、転送には期限があります。
その間に、送り先の変更を進めます。
行政からの通知は、特に重要です。
所轄庁、法務局、税務署への届出を先に済ませましょう。
会員への案内も、早めに出します。
会費の振込用紙が古い住所のままだと、混乱します。
受け取れなかった通知が、期限切れにつながります。
移転の時期を選ぶ
移転は、時期を選べるなら選びましょう。
事業年度の終わりと重なると、決算と重なります。
総会の直前も、避けたいところです。
定款変更が必要なら、通常総会に合わせる方法もあります。
臨時総会を開く手間が、省けます。
助成金の事業の途中も、避けるのが無難です。
報告書の住所と、実態が食い違うためです。
活動の繁忙期も、外しましょう。
荷造りと手続きに、想像以上の時間がかかります。
移転先を決めるときの視点
事務所は、活動の質にも影響します。
第一に、会員や利用者が来やすい場所かどうかです。
駅からの距離や、駐車場の有無が効いてきます。
第二に、打ち合わせのできる空間があるかどうかです。
第三に、書類を保管できる広さです。
備え置きの義務がある書類は、年々増えていきます。
第四に、費用が身の丈に合っているかどうかです。
家賃が固定費を押し上げると、活動の自由度が下がります。
第五に、行政の施設を使えるかどうかも調べましょう。
市民活動センターなどが、低額で場所を提供している地域があります。
移転の費用を見込む
移転には、思ったより費用がかかります。
敷金や礼金などの初期費用が、まず必要です。
引っ越しの費用も、荷物の量で変わります。
通信回線の移設や、新規の工事も生じます。
看板の作成や、印刷物の作り直しもあります。
登記を依頼する場合は、その報酬も見込みます。
旧事務所の原状回復が、必要になることもあります。
これらを合わせると、相応の金額になります。
予算に計上したうえで、理事会で承認を得ましょう。
事業計画と活動予算書にも、反映させます。
旧事務所を引き払うまで
新しい事務所が決まっても、旧事務所の後始末が残ります。
解約の予告は、契約で定めた期間より前に出します。
1か月前や2か月前とされていることが多いものです。
重なる期間の家賃を、二重に払うことになります。
この費用も、計画に入れておきましょう。
原状回復の範囲は、契約書を確認します。
書類の廃棄には、注意が必要です。
個人情報を含む書類は、そのまま捨てられません。
溶解処理や、細断してから処分しましょう。
保存期間が残っている書類は、持って行きます。
移転後にやること
移った後にも、やることが残ります。
第一に、登記事項証明書を取り直します。
各所の手続きに、新しいものが必要になります。
第二に、所轄庁へ登記完了の届出を出します。
第三に、金融機関の住所変更を届け出ます。
第四に、備え置きの書類を新事務所に並べます。
閲覧の求めに、いつでも応じられる状態にします。
第五に、看板や表札を出します。
第六に、郵便が届いているかを確認します。
転送の期限が来る前に、洗い出しを終えましょう。
事務所の移転のまとめ
最初にやることは、定款の記載の確認です。
番地まで書いていると、移転のたびに定款変更が必要になります。
市区町村までの記載なら、同一市区町村内の移転は定款変更が不要です。
登記は、移転の日から2週間以内です。
都道府県をまたぐ移転は、所轄庁が変わるため認証が必要になります。
税務、社会保険、許認可の届出も、あわせて確認してください。
住所が書かれている場所を洗い出し、一覧にして進めましょう。
旧事務所の解約の予告は、契約で定めた期間より前に出します。
個人情報を含む書類は、そのまま捨てずに溶解や細断で処分します。
移転後は登記事項証明書を取り直し、各所の手続きに使ってください。
登記申請の手続きそのものは、司法書士の業務範囲です。
よくある質問
A. 定款の記載によります。市区町村までなら同一市区町村内の移転で変更は不要です。番地まで書いてあれば、少しの移転でも定款変更が必要になり、総会の議決が要ります。まず定款の記載を確認してください。
A. 移転の日から2週間以内です。管轄の法務局が変わる場合は手続きの方法が異なるため、事前に確認してください。
A. 所轄庁そのものが変わります。定款変更の認証が必要になり、時間もかかります。移転の予定が決まった時点で、移転前の所轄庁に相談してください。
A. できますが、マンションの管理規約や賃貸借契約で制限されていることがあります。備え置きの義務がある書類を保管できる広さも必要です。
A. ウェブサイト全ページ、パンフレット、名刺、封筒、ゴム印、会員向けの案内、地図サービスの登録などです。一覧を作って順に消していくのが確実です。
A. 決算期、総会の直前、助成事業の途中、活動の繁忙期は避けましょう。定款変更が必要なら、通常総会に合わせると臨時総会の手間が省けます。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
- 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。
- 社会保険・労働保険の加入手続きは、社会保険労務士が取り扱う業務です。
📖 参考にした公的機関の情報

