一般社団法人の理事の責任とは?賠償リスクと対策をわかりやすく解説

一般社団法人法
理事を頼まれたけれど、何かあったら自分のお金で弁償することになるのか。そんな不安に、責任が生じる条件と、責任を軽くする法律上の仕組みの両面からお答えします。

結論から申し上げます。

一般社団法人の理事は、任務を怠ったときに、法人に生じた損害を賠償する責任を負います(一般法人法111条1項)。

職務について悪意又は重大な過失があったときは、取引先など第三者への賠償責任も負います(117条1項)。

一方で、法人の借入れなどの債務を、理事が当然に肩代わりするわけではありません。

責任の免除、責任限定契約、補償契約、役員賠償責任保険という備えも、条文で用意されています。

POINT 理事の責任は「法人への責任(111条)」と「第三者への責任(117条)」が中心です。どちらも、職務をきちんと果たしていれば生じにくい責任です。

理事が負う責任の全体像

理事が負う責任の全体像
図:理事が負う責任の全体像

理事の責任は、誰に対する責任かで大きく分かれます。

民事の賠償責任のほかに、刑事罰と過料もあります。

まずは全体を一覧で確認してください。

責任の種類 相手 成立する条件 根拠
法人に対する損害賠償 一般社団法人 任務を怠り、法人に損害が生じた 一般法人法111条1項
第三者に対する損害賠償 取引先・債権者など 職務について悪意又は重大な過失があった 117条1項
虚偽記載などの責任 第三者 計算書類・登記・公告などの虚偽(注意を怠らなかったと証明すれば免れる) 117条2項
連帯責任 法人・第三者 複数の役員等が同じ損害に責任を負う 118条
刑事責任(特別背任罪) 国 図利加害目的で任務に背き、法人に財産上の損害 334条1項
過料 国 登記・公告・書類備置きなどを怠った 342条

このうち日常の運営でいちばん関係するのは、111条と117条です。

以下、条文の順に、どんなときに責任が生じるのかを説明します。

責任の前提は「委任」と2つの義務

一般社団法人と理事の関係は、委任に関する規定に従います(64条)。

委任を受けた人は、善良な管理者の注意をもって仕事をする義務を負います(民法644条)。

これが善管注意義務です。

さらに理事は、法令・定款・社員総会の決議を守り、法人のため忠実に職務を行わなければなりません(83条)。

これが忠実義務です。

この2つの義務に反して職務を行うことが、111条の「任務を怠った」にあたります。

義務の中身は一般社団法人の理事の義務で詳しく説明しています。この記事では、義務に反したときの「責任」を中心に扱います。

法人に対する責任(111条)

111条1項は、理事・監事・会計監査人(役員等)が任務を怠ったときの責任を定めています。

責任を負うのは、任務を怠ったことと、それによって法人に生じた損害の両方がある場合です。

経営判断が結果的に失敗しただけで、直ちに任務を怠ったことになるわけではありません。

問題になりやすいのは、法令や定款に反する行為、必要な手続を飛ばした取引、調べれば分かった危険の見落としなどです。

問題になりやすい場面 関係する条文
社員総会(理事会)の承認なしに、競業取引や法人との取引をした 84条1項・92条1項
法人に著しい損害が出るおそれを見つけたのに報告しなかった 85条
法令や定款に反する支出・契約をした 83条
他の理事の不正を知りながら放置した(理事会設置法人) 90条2項2号(理事の職務執行の監督)
登記・公告・書類の備置きを怠り、法人に損害が生じた(過料は342条で理事個人に科される) 83条

表は典型例を示したもので、責任があるかどうかは個別の事情で判断されます。

利益相反取引では「任務を怠った」と推定される

理事と法人の利益がぶつかる取引には、特別な推定の規定があります。

理事が承認を受けずに競業取引をした場合、その取引で理事や第三者が得た利益の額が、法人の損害額と推定されます(111条2項)。

理事と法人との取引などで法人に損害が出たときは、次の理事が任務を怠ったものと推定されます(111条3項)。

推定を受ける理事 111条3項
取引をした当の理事 1号
法人がその取引をすると決定した理事 2号
取引を承認する理事会の決議に賛成した理事 3号

推定なので、理事の側で任務を怠っていないことを示せば責任を免れる余地があります。

ただし、理事が自己のために法人と直接取引した場合は別です。

この場合は、自分に落ち度がなかったことを理由に責任を免れることができません(116条1項)。

後で述べる一部免除や責任限定契約も使えません(116条2項)。

承認の手続は一般社団法人の利益相反取引で解説しています。

理事会で黙っていた理事も責任を問われる

理事会設置法人では、理事会の決議に参加した理事にも注意が必要です。

議事録に異議をとどめない理事は、その決議に賛成したものと推定されます(95条5項)。

反対意見を述べても、議事録に残っていなければ賛成と扱われるおそれがあるということです。

問題のある議案に反対するときは、反対したことを議事録に書いてもらいます。

債権者は、理事や監事の責任を追及するため必要があれば、裁判所の許可を得て理事会の議事録を閲覧できます(97条3項)。

議事録は、理事の判断の過程を後から確かめる資料にもなります。

理事会で自分を守るための確認

  • 議案の資料を事前に受け取り、内容を読んでいるか
  • 分からない点を理事会の場で質問し、回答を記録してもらったか
  • 反対・棄権した議案は、その旨が議事録に書かれているか
  • 自分が特別の利害関係を持つ議案で、議決に加わっていないか(95条2項)
  • 議事録に署名・記名押印する前に、記載内容を確認したか

議事録の書き方は理事会議事録の作り方を参考にしてください。

第三者に対する責任(117条)

理事は、法人の外の人に対しても責任を負うことがあります。

117条1項は、職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき、第三者に生じた損害を賠償する責任を定めています。

第三者とは、取引先、法人にお金を貸した人、法人の債権者などです。

「重大な過失」は、少し注意すれば分かることを著しく怠った場合を指します。

軽い不注意にとどまるときは、117条1項の責任にはなりません。

117条2項は、書類の虚偽について特に重い扱いをしています。

理事の行為(117条2項1号) 内容
イ 計算書類・事業報告・附属明細書の重要な事項の虚偽の記載
ロ 基金の募集で通知する重要事項や説明資料の虚偽
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告

これらの行為をした理事は、注意を怠らなかったことを自分で証明しない限り、第三者への責任を負います(117条2項ただし書)。

決算書類や登記の内容を「任せきりで見ていない」状態は、この規定との関係で危険です。

法人の責任と理事個人の責任の関係

代表理事などが職務を行うについて第三者に損害を加えたとき、まず法人が賠償責任を負います(78条)。

法人の借入金や取引の代金は、法人自身の債務です。

理事が保証人になっていない限り、理事が当然に支払義務を負うわけではありません。

理事個人が第三者に責任を負うのは、117条の要件を満たす場合などに限られます。

同じ損害について複数の役員等が責任を負うときは、連帯債務者になります(118条)。

連帯債務なので、相手は責任を負う役員等の誰に対しても全額を請求できます。

債務の例 原則として払うのは 理事個人が負う場面
法人名義の借入金 法人 理事が個人で連帯保証しているとき
取引先への代金 法人 支払えないと分かりながら重過失で取引を続けた場合など(117条1項)
代表理事の職務中の事故 法人(78条) その理事に悪意・重過失があれば117条1項
虚偽の決算書を信じた取引先の損害 ― 注意を怠らなかったと証明できない理事(117条2項)

誰が理事の責任を追及するのか

誰が理事の責任を追及するのか
図:誰が理事の責任を追及するのか

法人に対する責任は、本来は法人が理事に請求します。

監事設置法人で法人が理事を訴えるときは、監事が法人を代表します(104条1項)。

監事がいない法人では、社員総会が訴えについて法人を代表する人を定めることができます(81条)。

ただし、仲間うちの理事の責任を法人が追及しないこともあり得ます。

そこで社員には、責任追及の訴えの制度が用意されています(278条)。

1
社員が法人に訴えの提起を請求する
書面など法務省令で定める方法による(278条1項)
▼
2
法人が60日以内に訴えるか判断する
監事設置法人では監事がこの請求を受ける(104条2項1号)
▼
3
法人が訴えない
請求した社員は、法人のために自ら訴えを提起できる(278条2項)
▼
4
急ぐ場合
60日を待つと回復できない損害が出るおそれがあれば、直ちに提起できる(278条4項)

不正や違法な行為をやめさせる差止請求(88条)や検査役の選任(86条)は、理事の不正を疑ったらで扱っています。

責任を免除・軽減する4つの方法

法人に対する111条の責任は、原則として総社員の同意がなければ免除できません(112条)。

ただし、理事が善意でかつ重大な過失がないときに限り、一部を免除する仕組みが3つあります。

どれも、免除できない下限(最低責任限度額)が決まっています。

方法 要件 根拠
全部免除 総社員の同意 112条
社員総会の決議による一部免除 善意・無重過失。総会で原因・額・理由を開示 113条
定款に基づく理事(会)による一部免除 監事設置法人で理事2人以上。定款の定め。社員の異議(議決権10分の1以上)があればできない 114条
責任限定契約 業務執行をしない理事・監事・会計監査人が対象。定款の定め 115条

最低責任限度額は、職務執行の対価として受ける財産上の利益の1年分(法務省令で算定)に、次の数を掛けた額です(113条1項2号)。

役員等の区分 掛ける数
代表理事 6
代表理事以外の業務執行理事・法人の業務を執行した理事・使用人を兼ねる理事 4
それ以外の理事・監事・会計監査人 2

無報酬の理事であれば、報酬にあたる額が小さいため、下限も小さくなります。

114条の定めと115条の定めは、定款に置くと登記事項になります(301条2項11号・12号)。

この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。

手続の詳細は一般社団法人の役員の責任の免除で説明しています。

補償契約と役員賠償責任保険(118条の2・118条の3)

責任の免除とは別に、理事が負担する費用や賠償金に備える仕組みが2つあります。

1つ目は補償契約です。法人が、理事の防御費用や第三者への賠償金を補償すると約束する契約です(118条の2第1項)。

補償契約の内容は、社員総会(理事会設置法人は理事会)の決議で決めます。

2つ目は役員等賠償責任保険契約です。

いわゆるD&O保険で、内容の決定には同じく社員総会(理事会)の決議が必要です(118条の3第1項)。

項目 補償契約 役員等賠償責任保険
お金を出すのは 法人 保険会社
決める機関 社員総会(理事会設置法人は理事会) 社員総会(理事会設置法人は理事会)
補償できない主なもの 通常要する額を超える防御費用/理事が法人に責任を負う部分/悪意・重過失による第三者責任の全部(118条の2第2項) 保険契約の約款による
報告 補償した理事と受けた理事は理事会に報告(118条の2第4項) ―

補償契約があっても、悪意又は重大な過失による第三者への賠償は補償できません。

保険でどこまで補われるかは、保険会社の約款ごとに違います。加入時に対象外となる事由を確認してください。

保険の選び方は一般社団法人の保険とリスク管理にまとめています。

刑事責任と過料

民事の賠償とは別に、刑事罰が定められている行為もあります。

理事が自己や第三者の利益を図り、又は法人に損害を加える目的で任務に背き、法人に財産上の損害を加えたときは特別背任罪です。

法定刑は7年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科です(334条1項)。

また、登記・公告・通知・書類の備置きを怠ったときなどは、100万円以下の過料の対象になります(342条)。

役員の員数が欠けたのに選任の手続を怠ったときも、過料の対象です(342条13号)。

過料の対象になる主な場面 342条
この法律による登記を怠った 1号
公告・通知を怠った、又は不正の公告・通知をした 2号
議事録・計算書類などに記載すべき事項を書かず、又は虚偽を書いた 7号
定款・社員名簿・議事録などを備え置かなかった 8号
役員の員数を欠いたのに選任手続を怠った 13号

名義だけの理事・辞めた理事の責任

「名前だけ貸してほしい」と頼まれて理事になる例があります。

しかし、法律上の義務と責任は、実際に活動しているかどうかで変わりません。

理事会設置法人では、理事会は理事の職務の執行を監督します(90条2項2号)。

他の理事の行為に無関心でいることは、それ自体が任務を怠ったと評価されるおそれがあります。

辞めたいときにも注意があります。

辞任で法律・定款の役員の員数が欠ける場合、新しい役員が就任するまで役員としての権利義務が続きます(75条1項)。

辞任届を出しても、後任が決まるまでは責任ある立場が残るということです。

辞任の手続は辞任届の書き方、欠員の対処は理事が欠けたらで解説しています。

一般財団法人・NPO法人との違い

一般財団法人では、111条から118条の規定が評議員にも準用されます(198条)。

財団では評議員も法人に対する賠償責任を負い、全部免除には総評議員の同意が必要です。

NPO法人については、特定非営利活動促進法に一般法人法111条のような役員の責任の規定は置かれていません。

NPO法が準用しているのは、法人が代表者の行為について賠償責任を負う一般法人法78条です(NPO法8条)。

法人の種類 役員の法人への責任 全部免除 根拠
一般社団法人 理事・監事・会計監査人 総社員の同意 一般法人法111条・112条
一般財団法人 理事・監事・会計監査人・評議員 総評議員の同意 一般法人法198条
NPO法人 NPO法に個別規定なし ― NPO法8条(78条のみ準用)

詳しくは一般財団法人の理事の責任とNPO法人の理事の責任をご覧ください。

理事を引き受ける前・在任中に確認すること

責任を負う場面の多くは、手続の抜けと情報不足から生まれます。

引き受ける前と在任中に、次の点を確かめておくと安心です。

引き受ける前

  • 定款を読み、理事会・監事を置く法人かを確認した
  • 直近の計算書類と事業報告を見て、借入れや未払いの状況を把握した
  • 自分が業務執行理事・代表理事になるのか、そうでないのかを確認した
  • 責任の一部免除(114条)や責任限定契約(115条)の定款の定めがあるか確認した
  • 役員等賠償責任保険や補償契約があるか確認した
  • 自分が法人の借入れの保証人になる予定がないか確認した
在任中

  • 理事会や社員総会の資料を読み、疑問は質問している
  • 自分と利害のある取引は、事前に重要な事実を開示して承認を受けている(84条1項)
  • 法人に著しい損害のおそれがある事実を見つけたら、すぐ監事(監事がなければ社員)に報告している(85条)
  • 反対した議案は議事録に反対と書いてもらっている(95条5項)
  • 登記や決算公告の期限が守られているか、担当任せにしていない

よくある誤解

誤解1:理事は法人の借金を払わされる。

法人の債務は法人が負います。

理事が個人で負うのは、保証人になった場合や117条の要件を満たす場合などです。

誤解2:無報酬・非常勤なら責任はない。

報酬の有無で義務は変わりません。

ただし、無報酬なら最低責任限度額は小さくなります(113条1項2号)。

誤解3:理事会で黙っていれば責任を負わない。議事録に異議をとどめない理事は、賛成したものと推定されます(95条5項)。

誤解4:定款に書けば責任を全部なくせる。

全部免除は総社員の同意だけです(112条)。

定款で可能なのは、善意・無重過失を条件とする一部免除と責任限定契約です(114条・115条)。

誤解5:辞任届を出せばその日に責任から外れる。員数を欠く場合は、後任が就任するまで権利義務が続きます(75条1項)。

誤解6:保険に入れば何をしても大丈夫。

補償契約では悪意・重過失による第三者責任は補償できず(118条の2第2項3号)、保険にも約款上の対象外があります。


あわせて読みたい

これは一般社団法人の話です。一般財団法人では評議員も責任を負い、免除の同意主体も総評議員になります。財団版はこちらです。

NPO法人について詳しく

一般社団法人の理事の責任についてよくある質問

Q. 理事はどんなときに損害賠償責任を負いますか?

A. 任務を怠り、法人に損害を生じさせたときは法人に対して責任を負います(一般法人法111条1項)。職務について悪意又は重大な過失があったときは、第三者に対しても責任を負います(117条1項)。

Q. 法人の借金を理事個人が返す必要はありますか?

A. 法人の債務は法人が負うのが原則です。理事が連帯保証人になっている場合や、悪意・重過失で第三者に損害を与えた場合(117条1項)などに、理事個人の責任が問題になります。

Q. 理事会で反対したのに責任を問われることはありますか?

A. 議事録に異議をとどめなければ、決議に賛成したものと推定されます(一般法人法95条5項)。反対したときは、その旨を議事録に残してもらうことが大切です。

Q. 理事の責任は免除できますか?

A. 全部免除には総社員の同意が必要です(112条)。善意・無重過失なら、社員総会の決議(113条)、定款に基づく理事会の決議(114条)、責任限定契約(115条)による一部免除の仕組みがあります。

Q. 責任限定契約は誰とでも結べますか?

A. 結べるのは、業務執行理事や使用人でない理事、監事、会計監査人(非業務執行理事等)です。定款の定めが必要で、その定めは登記されます(一般法人法115条1項・301条2項12号)。

Q. 役員賠償責任保険に入るには何が必要ですか?

A. 法人が保険契約の内容を決めるには、社員総会(理事会設置法人は理事会)の決議が必要です(一般法人法118条の3第1項)。補償の範囲は保険会社の約款で確認します。

Q. 社員が理事を訴えることはできますか?

A. できます。社員は法人に責任追及の訴えの提起を請求し、法人が60日以内に訴えなければ、法人のために自ら訴えを提起できます(一般法人法278条1項・2項)。

Q. 辞任した理事も責任を負いますか?

A. 在任中の行為の責任は辞任後も残ります。また、辞任で役員の員数が欠けるときは、後任が就任するまで役員としての権利義務が続きます(一般法人法75条1項)。

【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、正確性・最新性に配慮していますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。法令・制度・税制は改正される場合があり、個別の事情により取り扱いが異なることもあります。本記事の情報を利用して行われた一切の行為およびその結果について、当サイトおよび筆者は責任を負いかねます。実際のお手続きや判断にあたっては、必ず公的機関の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。