一般社団法人の理事に就任すると、業務を執行する権限を持つ一方で、法律上の責任も負います。
「名前を貸すだけ」のつもりでも、理事である以上は責任から逃れられません。
この記事では、一般社団法人の理事の責任と、リスクを抑える方法を解説します。
理事が負う基本的な義務
理事は、法人に対して善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。
これは、理事という立場にふさわしい注意を払って職務を行う義務のことです。
また、法人の利益のために忠実に職務を行う『忠実義務』も負います。
これらの義務を怠ると、責任を問われる可能性があります。
『名義だけの理事』であっても、これらの義務は等しく課される点に注意が必要です。
理事の損害賠償責任
理事が任務を怠り(任務懈怠)、それによって法人に損害が生じた場合、法人に対して損害賠償責任を負うことがあります。
さらに、職務を行う際に悪意または重大な過失があり、第三者に損害を与えた場合は、第三者に対しても賠償責任を負うことがあります。
たとえば、ずさんな経理で取引先に損害を与えたようなケースです。
理事は単なる『お飾り』ではなく、実質的な責任を伴うポジションだと理解しておきましょう。
責任を限定する方法
理事の責任は、一定の範囲で軽減・限定することができます。
- ✅ 定款に責任限定の規定を設ける
- ✅ 社員総会の決議で責任を一部免除する
- ✅ 責任限定契約を結ぶ(非業務執行理事など)
- ✅ 役員賠償責任保険(D&O保険)に加入する
特に有効なのが役員賠償責任保険への加入です。
万が一賠償責任を負った場合に保険でカバーできるため、安心して理事を引き受けてもらいやすくなります。
責任を過度に恐れる必要はありませんが、仕組みで備えておくと安心です。
名義貸しは絶対に避ける
最も避けるべきなのが、内容をよく知らないまま名義だけ貸すことです。
『頼まれたから名前を貸しただけ』でも、理事として登記されれば責任を負います。
団体が不正やトラブルを起こした場合、名義理事も責任を問われるリスクがあります。
理事に就任するときは、団体の活動内容と財務状況をきちんと把握し、責任を理解したうえで引き受けることが大切です。
善管注意義務と忠実義務
理事には、二つの大切な義務があります。
一つは、善管注意義務です。
これは、理事として通常期待される注意をもって職務を行う義務です。
もう一つは、忠実義務です。
これは、法人のために誠実に職務を行う義務です。
自分の利益ではなく、法人の利益を優先しなければなりません。
これらの義務を怠ると、責任を問われることがあります。
理事は、軽い気持ちで引き受けてよい役職ではありません。
義務の重さを理解しておくことが大切です。
特に、他人の財産を預かって運営する立場であることを忘れてはいけません。
会費や寄付を扱う団体では、なおさら責任が重くなります。
誠実な職務遂行が、理事の基本です。
法人に対する責任
理事が義務を怠り、法人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負います。
これを、法人に対する責任といいます。
理事の任務懈怠による責任です。
たとえば、不適切な経理で法人に損失が出た場合などが考えられます。
また、法令や定款に違反する行為で損害が生じた場合も同様です。
理事は、自分の行為に責任を持つ必要があります。
複数の理事が関わった場合、連帯して責任を負うこともあります。
「自分は関係ない」では済まないことがあるのです。
理事会では、他の理事の行動にも目を配る必要があります。
この責任は、社員総会の決議などで一部免除できる場合があります。
ただし、免除には要件があります。
責任を軽く見ず、慎重に職務を行うことが大切です。
第三者に対する責任
理事の責任は、法人に対するものだけではありません。
第三者に対して責任を負うこともあります。
これを、第三者に対する責任といいます。
理事が職務を行う際に、悪意または重大な過失があった場合が対象です。
それによって第三者に損害を与えると、賠償責任を負うことがあります。
取引先や、債権者などが第三者にあたります。
たとえば、支払いの見込みがないのに取引を続けて、相手に損害を与えた場合などです。
理事個人が責任を問われることがあるのです。
法人の責任とは別に、個人の責任が生じる点に注意が必要です。
第三者に対する責任があることを、理事は理解しておくべきです。
誠実で、慎重な職務遂行が、こうした責任を防ぎます。
リスクを意識して、行動することが大切です。
利益相反取引に注意
理事が注意すべきものに、利益相反取引があります。
これは、理事個人と法人の利益が対立する取引のことです。
たとえば、理事が自分の会社と法人とで取引をする場合などです。
利益相反取引を行うには、社員総会(または理事会)の承認が必要です。
承認なく行うと、問題になることがあります。
理事は、自分の利益のために法人を利用してはいけません。
利益相反にあたるかどうかの判断は、難しいこともあります。
少しでも疑わしい場合は、承認を得ておくのが安全です。
透明性をもって、取引を行うことが大切です。
利益相反取引で法人に損害を与えると、理事は責任を負います。
公私混同を避け、法人の利益を優先しましょう。
判断に迷ったら、専門家に相談するとよいでしょう。
責任を限定する制度
理事の責任には、一定の範囲で限定する制度があります。
一つは、責任の一部免除です。
社員総会の決議で、一定の限度まで責任を免除できる場合があります。
もう一つは、責任限定契約です。
非業務執行理事などとの間で、責任を一定額に限定する契約を結べる場合があります。
これにより、理事のなり手を確保しやすくなります。
これらの制度を使うには、定款の定めや、一定の要件が必要です。
また、すべての責任を免除できるわけではありません。
悪意や重過失がある場合は、免除されないこともあります。
責任を限定する制度は、理事を守る仕組みです。
活用を検討する場合は、定款の整備が必要です。
詳しくは、専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
名義貸しの危険性
理事の名義だけを貸す、いわゆる名義貸しは絶対に避けるべきです。
実際には何もしていなくても、登記上は理事だからです。
理事である以上、責任を免れることはできません。
名義を貸した結果、知らないところで問題が起きることがあります。
その場合でも、理事として責任を問われるおそれがあります。
「名前を貸しただけ」という言い訳は通用しません。
頼まれて安易に理事を引き受けると、思わぬ責任を負うことになります。
理事になるときは、その責任をよく理解しておきましょう。
実際に職務を果たせるかを、考えてから引き受けることが大切です。
また、人に理事を頼むときも、責任を説明することが大切です。
名義だけ借りる、という関係は、双方にとって危険です。
理事は、実質を伴う役職であるべきです。
役員賠償責任保険という備え
理事の責任に備える方法として、役員賠償責任保険があります。
これは、役員が責任を問われたときの賠償金などを補償する保険です。
万一のリスクに備えることができます。
大きな団体や、リスクのある活動をする団体では、加入を検討する価値があります。
保険があると、理事のなり手も確保しやすくなります。
安心して職務に取り組める環境づくりにつながります。
ただし、保険があっても、義務を怠ってよいわけではありません。
保険は、あくまで万一の備えです。
誠実な職務遂行が、何より大切です。
保険の要否は、団体の規模や活動内容によります。
必要に応じて、加入を検討しましょう。
保険の内容は、よく確認してから選ぶことが大切です。
理事会を設置する場合の責任
理事会を設置している法人では、各理事の責任の範囲が少し変わります。
理事会は、理事全員で構成され、法人の業務執行を決定します。
理事は、理事会の一員として、意思決定に関わります。
理事会の決定に賛成した理事は、その決定について責任を負うことがあります。
問題のある議案に賛成すれば、責任を問われるおそれがあります。
そのため、理事会では、議案をよく検討することが大切です。
反対した場合は、議事録にその旨を記録してもらいましょう。
記録がないと、賛成したものと推定されることがあります。
自分の意思を、きちんと残しておくことが大切です。
理事会のある法人では、他の理事の職務を監督する責任もあります。
「自分の担当外だから」では済まないことがあります。
理事全員で、法人運営に責任を持つ姿勢が求められます。
責任を果たすための日常の心がけ
理事の責任を果たすには、日常の心がけが大切です。
まず、法人の財務状況を、定期的に把握しておきましょう。
お金の流れを知らないままでは、適切な判断ができません。
次に、重要な決定は、記録に残すことです。
議事録や、決定の経緯を残しておくと、後で説明できます。
透明性のある運営が、責任を果たすことにつながります。
また、わからないことは、専門家に相談する習慣をつけましょう。
判断に迷ったときに、専門家の意見は心強い支えになります。
一人で抱え込まないことが大切です。
誠実に、注意深く職務を行っていれば、責任を問われるリスクは小さくなります。
日々の積み重ねが、理事としての責任を果たすことにつながります。
緊張感を持って、職務にあたりましょう。
理事を引き受ける前に確認すべきこと
理事を引き受ける前に、確認しておきたいことがあります。
まず、その法人がどんな活動をしているかです。
活動内容を理解しないまま引き受けるのは危険です。
次に、財務状況を確認しましょう。
借金が多い、経営が不安定、といった団体では、リスクが高くなります。
理事として責任を負うことを、念頭に置く必要があります。
また、自分が実際に職務を果たせるかも考えましょう。
時間が取れない、内容を理解できない、という状態では、責任を全うできません。
名義だけ、という関係にならないようにしましょう。
これらを確認したうえで、引き受けるかを判断することが大切です。
理事は、責任のある重要な役職です。
納得したうえで、引き受けるようにしましょう。
そのほかのよくある質問
A. 原則として、法人の債務は法人が負います。ただし、悪意や重大な過失で第三者に損害を与えた場合などは、理事個人が責任を負うことがあります。
A. あります。実際に活動していなくても、登記上の理事である以上、理事としての責任を免れることはできません。名義貸しは避けるべきです。
A. 役員賠償責任保険への加入や、定款にもとづく責任限定契約などの方法があります。ただし、誠実な職務遂行が基本であることに変わりはありません。
理事の責任のまとめ
理事には、善管注意義務と忠実義務があります。
これらを怠って法人に損害を与えれば、損害賠償責任を負います。
悪意や重過失があれば、第三者に対する責任を負うこともあります。
利益相反取引には承認が必要で、公私混同は避けなければなりません。
名義貸しは、実質がなくても責任を負うため、絶対に避けるべきです。
理事は、責任のある重要な役職です。
責任を限定する制度や、役員賠償責任保険といった備えもあります。
ただし、これらがあっても、誠実な職務遂行が基本です。
義務と責任を理解したうえで、理事の職務を果たすことが大切です。
よくある質問
A. 善管注意義務・忠実義務を負い、任務を怠って損害を与えると賠償責任を負うことがあります。
A. 負います。名義貸しでも理事として登記されれば義務と責任が課されます。
A. 定款の責任限定規定、責任限定契約、役員賠償責任保険(D&O保険)などで備えられます。
A. 責任はありますが、団体を理解し適切に職務を行えば過度に恐れる必要はありません。保険で備えるのも有効です。


