一般社団法人の保険とリスク管理|備えるべきリスクと対策を解説

一般社団法人法
イベントでの事故、職員のミス、会員名簿の流出。一般社団法人の活動で起こりうるリスクを「誰が責任を負うか」から整理し、保険と予防で何をどこまでカバーできるかを説明します。

結論から申し上げます。

一般社団法人のリスク管理は、「誰が、どの法律で責任を負うか」を先に押さえると選びやすくなります。

活動中の事故では、法人が不法行為・使用者責任・契約上の責任を負います(民法709条・715条・415条)。

理事個人も、任務を怠った場合や重大な過失があった場合に責任を負います(一般法人法111条・117条)。

保険は、この責任ごとに種類が分かれます。法人の賠償責任、参加者のけが、役員の責任、財産の損害です。

同意書に「一切責任を負わない」と書いても、消費者との契約では無効になる場合があります(消費者契約法8条)。

POINT 責任の所在を確認する→予防のルールを決める→残るリスクを保険でカバーする→事故対応の手順を決める。この順番で進めると、保険の入りすぎや入り漏れを防げます。

一般社団法人が負う賠償責任の種類

法人の活動で他人に損害を与えたとき、法人が責任を負う根拠はいくつかあります。

代表理事などが職務として第三者に損害を与えた場合、法人が賠償します(一般法人法78条)。

職員やスタッフが事業の執行として第三者に損害を与えた場合は、使用者責任が問題になります(民法715条1項)。

使用者責任は、選任と監督に相当の注意をしたことを法人が示さない限り免れません(同項ただし書)。

参加費を受けて講座やツアーを行う場合は、契約上の安全への配慮を怠ると債務不履行の責任も生じます(民法415条1項)。

法人が占有する建物や設備の欠陥で事故が起きれば、工作物責任を負います(民法717条1項)。

占有者が注意を尽くしていたときは、所有者が責任を負います(同項ただし書)。借りた会場では、管理の分担を契約で確認します。

場面 法人の責任の根拠 例
代表理事の職務上の行為 一般法人法78条 代表理事が運転中の事故で相手にけがをさせた
職員・スタッフの行為 民法715条1項(使用者責任) 職員の誘導ミスで来場者が転倒した
参加者との契約 民法415条1項(債務不履行) 有料講座で安全配慮を欠きけがをさせた
建物・設備の欠陥 民法717条1項(工作物責任) 事務所の看板が落ちて通行人がけがをした
法人自身の過失 民法709条(不法行為) 危険を知りながら活動を続けた

理事個人が負う責任

理事と法人の関係は委任で(一般法人法64条)、理事は善良な管理者の注意義務を負います(民法644条)。

理事が任務を怠って法人に損害を与えれば、法人に対して賠償責任を負います(一般法人法111条1項)。

職務について悪意や重大な過失があれば、第三者に対しても責任を負います(117条1項)。

計算書類の虚偽記載や虚偽の登記・公告でも、第三者への責任を負います(117条2項1号)。

注意を怠らなかったことを証明すれば、この責任は免れます(同項ただし書)。

理事が自己の利益を図って任務に背き法人に損害を与えると、特別背任罪として7年以下の拘禁刑などの対象です(334条1項)。

無報酬の理事でも、これらの責任は同じです。

責任 相手 要件 根拠
任務懈怠責任 法人 任務を怠ったこと 111条1項
第三者への責任 第三者 職務上の悪意・重大な過失 117条1項
虚偽記載等の責任 第三者 計算書類・登記・公告の虚偽 117条2項1号
特別背任罪 (刑事) 図利加害目的の背任で財産上の損害 334条1項

責任の詳細は一般社団法人の理事の責任とは?で説明しています。

リスク別に見る保険の種類

リスク別に見る保険の種類
図:リスク別に見る保険の種類

保険は、カバーする「損害」と「責任を負う人」で種類が分かれます。

法人が負う賠償をカバーするのが賠償責任保険です。施設の管理や行事の運営に起因する事故が対象になります。

参加者自身のけがをカバーするのが傷害保険です。法人に過失がなくても、契約で定めた保険金が支払われる仕組みです。

役員個人が負う責任をカバーするのが役員賠償責任保険です。

事務所や備品の火災・盗難などは、財物の保険でカバーします。

補償の範囲や免責事由は商品ごとに違うため、約款を読んで、どの事故が対象外かを確認します。

リスク 責任を負う人 対応する保険の種類 確認すること
活動中に他人にけがをさせた 法人 賠償責任保険(施設・行事) 対象となる活動の範囲・支払限度額
参加者が転んでけがをした (過失がなければ誰も負わない) 行事用の傷害保険 参加者名簿の要否・対象人数
ボランティアのけが・賠償 本人・法人 ボランティア活動保険 加入の窓口・対象となる活動
職員の業務上のけが 法人(災害補償) 労災保険(強制) 職員を雇ったら加入手続
理事が損害賠償を請求された 理事個人 役員賠償責任保険 総会・理事会での内容の決定
事務所の火災・備品の盗難 法人 火災保険・動産総合保険など 借りている物件の契約条件
会員名簿の漏えい 法人 個人情報漏えいに対応する保険 報告・通知の手順

ボランティア活動保険の窓口と補償範囲は、ボランティア保険とは?で詳しく説明しています。

役員賠償責任保険と補償契約のルール

一般社団法人が役員のために賠償責任保険を結ぶ場合、一般法人法に手続の定めがあります。

役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険契約の内容は、社員総会の決議で決めます(118条の3第1項)。

理事会設置法人では、理事会の決議で決めます(同項かっこ書)。

この保険契約には、利益相反取引の承認の規定(84条1項)は適用されません(118条の3第2項)。

法人が役員の防御費用や賠償金を負担する約束を補償契約といいます。

その内容も、社員総会(理事会設置法人では理事会)の決議で決めます(118条の2第1項)。

補償契約でも、通常要する額を超える防御費用や、悪意・重大な過失による賠償は補償できません(118条の2第2項)。

役員の引受けを頼むときに、保険の有無と補償の範囲を示せると、就任の判断材料になります。

理事会議事録の記載例(抜粋)

第〇号議案 役員等賠償責任保険契約の内容の決定の件

議長は、当法人が保険者との間で、理事及び監事の全員を被保険者とする役員等賠償責任保険契約を締結したい旨を述べた。

保険期間は令和〇年〇月〇日から1年間、支払限度額は〇〇円、保険料は当法人が負担する旨の契約内容を説明した。

議長が議場に諮ったところ、出席理事全員の賛成により原案どおり承認可決された。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律118条の3第1項の決議の例です。理事会を置かない法人では社員総会の決議で定めます。

役員の責任を軽くする法律上の仕組み

保険のほかに、一般法人法には役員の責任を軽くする仕組みがあります。

原則として、役員の法人に対する責任は総社員の同意がなければ免除できません(112条)。

善意で重大な過失がなければ、社員総会の決議で一部を免除できます(113条1項)。

監事を置き理事が2人以上の法人は、理事会の決議などで一部免除できる旨を定款で定められます(114条1項)。

業務を執行しない理事や監事とは、定款の定めに基づき責任限定契約を結べます(115条1項)。

いずれも、第三者に対する責任(117条)を軽くするものではありません。

使い分けは一般社団法人の役員の責任は免除できる?で解説しています。

参加同意書の「免責条項」はどこまで効くか

イベントの申込書に「事故が起きても主催者は一切責任を負いません」と書く例があります。

一般社団法人は法人なので、消費者契約法の「事業者」に当たります(2条2項)。

個人の参加者との申込みは「消費者契約」になり得ます(2条1項・3項)。

消費者契約で、事業者の債務不履行や不法行為による賠償責任の全部を免除する条項は無効です(8条1項1号・3号)。

故意・重大な過失による責任の一部を免除する条項も無効です(8条1項2号・4号)。

軽い過失に限って一部を免除する条項は、軽過失にのみ適用されることを明記しないと無効になります(8条3項)。

同意書は責任を消す道具ではなく、リスクを説明して参加者の注意を促すための書面と考えます。

参加同意書の記載例(抜粋)

1 本行事は屋外での活動を含み、転倒・熱中症等の危険があることを理解しました。

2 体調に不安がある場合は事前に申し出て、スタッフの指示に従います。

3 主催者は本行事に関して傷害保険に加入しています。補償の内容は別紙のとおりです。

4 主催者の故意又は過失による事故については、主催者は法令に従い責任を負います。

令和〇年〇月〇日 参加者氏名 〇〇〇〇(未成年の場合は保護者氏名 〇〇〇〇)

「一切責任を負わない」とは書かず、危険の説明と保険の内容を示す形にしています。

職員とボランティアのけがへの備え

労働者を使用する事業は、労災保険の適用事業です(労働者災害補償保険法3条1項)。

一般社団法人も、職員を1人でも雇えば労災保険の手続が必要になります。

労働者とは、事業に使用され賃金を支払われる者をいいます(労働基準法9条)。

無償のボランティアは原則として労働者に当たらず、労災保険の対象外です。

そのため、ボランティアのけがにはボランティア活動保険や行事用の傷害保険で備えます。

理事も法人と委任の関係にあるため、職員として雇用されていなければ労災保険の対象外です。

この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 社会保険・労働保険の加入手続きは、社会保険労務士が取り扱う業務です。

職員を雇うときの手続は一般社団法人で従業員を雇うときの労務管理で説明しています。

会員向けの独自の「共済」は保険業に当たり得る

会員から掛金を集めて、事故のときに見舞金を払う「共済」を法人が自ら運営したいという相談があります。

保険業法は、偶然の事故による損害をてん補することを約して保険料を受け取る事業を「保険業」と定めています(2条1項)。

保険業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ行えません(3条1項)。

例外として、相手方が1,000人以下の場合などは保険業から除かれます(2条1項3号・施行令1条の4第1項)。

ただし、1人から年50万円を超える保険料を受け取る場合などは、この例外に当たりません(施行令1条の4第2項4号)。

会員向けの補償を用意したいときは、保険会社の団体保険に法人が契約者として加入する形が一般的です。

独自の共済を検討する場合は、事前に金融庁や財務局へ確認してください。

個人情報の漏えいへの備え

会員名簿を検索できる形で事業に使っている法人は、個人情報取扱事業者に当たります(個人情報保護法16条2項)。

個人データの漏えいを防ぐため、必要かつ適切な安全管理措置を講じる義務があります(23条)。

一定の漏えいが起きたときは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です(26条1項・2項)。

報告が必要な例として、委員会は要配慮個人情報、財産的被害のおそれ、不正の目的を挙げています。

本人が1,000人を超える漏えいも報告の対象です。

報告は、速報が発覚日から3〜5日以内、確報が30日以内(不正の目的によるものは60日以内)とされています。

名簿の漏えいを防ぐ基本

  • 名簿のファイルにパスワードやアクセス権限を設定する
  • メールの一斉送信は宛先を見えない形で送る
  • 退任した役員・職員の閲覧権限を外す
  • 紙の名簿は施錠できる場所に保管する
  • 漏えい時の連絡先(責任者・委員会への報告担当)を決めておく

詳しくは一般社団法人・NPO法人の個人情報の取扱いをご覧ください。

お金の不正を防ぐ仕組み

使い込みや不正な支出は、保険よりも仕組みで防ぐリスクです。

理事会設置法人では、業務の適正を確保する体制の整備は理事会が決め、理事に委任できません(90条4項5号)。

理事会を置かない法人でも、理事が2人以上いればこの決定を各理事に委任できません(76条3項3号)。

具体的には、出金の承認者と実行者を分ける、通帳と印鑑を別の人が管理する、といったルールです。

監事を置けば、理事の職務と会計を第三者の目で確認できます。

不正の種類 予防策
預金の私的流用 出金の申請者と承認者を分ける・毎月残高を照合する
架空の経費精算 領収書の原本を添付し、承認者が確認する
理事と法人の取引 社員総会(理事会)の承認を得る(84条1項)
現金の紛失 現金出納帳を作り、複数人で確認する

体制づくりは一般社団法人の内部統制システムとは?で説明しています。

リスク管理の進め方

リスク管理の進め方
図:リスク管理の進め方

リスク管理は、活動ごとに次の順番で進めると漏れが出にくくなります。

最初に活動の一覧を作り、それぞれで起こりうる事故と、責任を負う人を書き出します。

起きやすさと被害の大きさで優先順位をつけ、予防のルールを決めます。

予防しても残るリスクに対して、保険を選びます。

1
活動を一覧にする
定例の活動・行事・施設の管理・事務作業
▼
2
起こりうる事故と責任を書き出す
法人・理事・職員・参加者の誰が負うか
▼
3
予防のルールを決める
安全確認・人員配置・中止の基準・名簿の管理
▼
4
保険を選ぶ
賠償責任・傷害・役員・財物。約款で対象外を確認
▼
5
事故対応の手順を決める
連絡先・記録の様式・保険会社への連絡
▼
6
年1回見直す
活動の変化・保険の更新時期に合わせて
保険を選ぶときの確認事項

  • 補償の対象となる活動が、実際の活動と一致しているか
  • 支払限度額と自己負担額
  • 免責事由(対象外になる事故)
  • 被保険者の範囲(理事・職員・ボランティア・参加者)
  • 保険期間と更新の時期
  • 役員賠償責任保険なら、総会・理事会の決議をしたか

事故が起きたときの対応手順

事故の直後は、けが人の救護と安全確保を最優先にします。

次に、事実を記録します。日時、場所、関係者、状況、目撃者を、推測を交えずに書きます。

保険会社や代理店への連絡は、約款で期限が定められていることが多いため早めに行います。

相手方への謝罪と、賠償の約束は分けて考えます。

賠償額の約束に保険会社の同意を求める約款もあるため、先に保険会社と相談します。

理事会設置法人では、重要な事故を理事会に報告し、再発防止策を決めます。

1
救護と安全確保
必要なら救急・警察へ通報する
▼
2
事実の記録
日時・場所・状況・目撃者・写真
▼
3
代表理事と保険会社へ連絡
約款の通知期限を確認する
▼
4
相手方への対応
賠償の約束は保険会社と相談してから
▼
5
原因の分析と再発防止
理事会・総会で報告し、ルールを改める

よくある誤解

誤解1:同意書をもらえば責任はなくなる。

消費者契約で事業者の賠償責任を全部免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。

誤解2:無報酬の理事は責任を負わない。

報酬の有無にかかわらず、任務懈怠や第三者への責任を負います(一般法人法111条・117条)。

誤解3:ボランティアのけがは労災で補償される。無償のボランティアは原則として労働者ではなく、労災保険の対象外です。

誤解4:会員同士の助け合いなら共済を自由に作れる。

損害のてん補を約して掛金を受け取る事業は保険業に当たり得ます(保険業法2条1項・3条1項)。

誤解5:保険に入れば予防はいらない。

免責事由に当たる事故や限度額を超える損害は自己負担です。

保険は予防の後に残るリスクに使います。

一般社団法人の保険とリスク管理についてよくある質問

Q. 一般社団法人はどの保険に入るべきですか?

A. 活動内容によります。他人への賠償には賠償責任保険、参加者のけがには傷害保険、役員の責任には役員賠償責任保険、財産の損害には火災保険などを検討します。職員を雇えば労災保険の手続が必要です(労働者災害補償保険法3条1項)。

Q. イベントの事故で法人が責任を負うのはどんなときですか?

A. スタッフの過失による事故は使用者責任(民法715条)、有料行事での安全配慮の不足は債務不履行(415条)、設備の欠陥は工作物責任(717条)が問題になります。代表理事の職務上の行為は法人が賠償します(一般法人法78条)。

Q. 参加者の同意書に「一切責任を負わない」と書けば大丈夫ですか?

A. 一般社団法人は消費者契約法の事業者に当たり、消費者との契約で賠償責任の全部を免除する条項は無効です(消費者契約法2条2項・8条1項)。

Q. 役員賠償責任保険に入るには何が必要ですか?

A. 保険契約の内容を社員総会(理事会設置法人では理事会)の決議で決めます(一般法人法118条の3第1項)。

Q. 理事は無報酬でも責任を負いますか?

A. 負います。理事は報酬の有無にかかわらず善管注意義務を負い(64条・民法644条)、任務懈怠で法人に、悪意・重過失で第三者に責任を負います(一般法人法111条・117条)。

Q. 会員から掛金を集めて見舞金を払う共済を作れますか?

A. 損害のてん補を約して保険料を受け取る事業は保険業に当たり、免許が必要です(保険業法2条1項・3条1項)。相手方1,000人以下などの例外がありますが条件があるため、金融庁・財務局に確認してください。

Q. ボランティアのけがは労災保険で補償されますか?

A. 労災保険は労働者を使用する事業に適用されます(労働者災害補償保険法3条1項)。無償のボランティアは原則として労働者ではないため、ボランティア活動保険などで備えます。

Q. 会員名簿が漏えいしたらどうすればよいですか?

A. 一定の漏えいは個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です(個人情報保護法26条)。本人が1,000人を超える場合などが対象で、速報は発覚から3〜5日以内とされています。

【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、正確性・最新性に配慮していますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。法令・制度・税制は改正される場合があり、個別の事情により取り扱いが異なることもあります。本記事の情報を利用して行われた一切の行為およびその結果について、当サイトおよび筆者は責任を負いかねます。実際のお手続きや判断にあたっては、必ず公的機関の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。