一般社団法人で従業員を雇うときの労務管理をわかりやすく解説

一般社団法人法
非営利の法人でも、人を雇えば使用者としての義務は会社と同じです。採用から退職までに何を守ればよいかを、条文の順に整理して説明します。

結論から申し上げます。

一般社団法人が職員を雇うと、労働基準法・労働契約法・最低賃金法などがそのまま適用されます。

労働基準法の「労働者」は、職業の種類を問わず、事業に使用されて賃金を支払われる者です(労基法9条)。

法人が非営利かどうかは関係ありません。

また、法人の事業所で常時従業員を使用すれば、健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります(健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号)。

POINT 雇うときに最低限必要なのは①労働条件を書面で明示する、②労働時間・賃金のルールを守る、③社会保険・労働保険の手続、④法定帳簿を作って保存するの4つです。この記事は制度の一般的な説明で、個別の手続や判断は社会保険労務士・労働基準監督署・年金事務所などにご確認ください。

理事・職員・ボランティアの違い

一般社団法人で働く人は、法律上の立場で大きく3つに分かれます。

理事と法人の関係は、雇用ではなく委任です(一般法人法64条)。

職員は、法人と雇用契約を結んで働く労働者です(民法623条・労基法9条)。

ボランティアは、法人の指揮命令を受けて賃金を受け取る関係でなければ、労働者には当たりません。

労働者に当たるかどうかは、契約の名前ではなく、指揮命令の有無や報酬が労働の対償かといった実態で判断されます。

「謝礼」という名目でも、労働の対償として支払うものは賃金に当たり得ます(労基法11条)。

立場 法人との関係 労働基準法 根拠
理事 委任 原則として適用されない 一般法人法64条
職員(正職員・パート・アルバイト) 雇用 適用される 労基法9条・民法623条
業務委託の個人 請負・準委任 実態が雇用なら適用され得る 労基法9条
ボランティア 無償の協力 指揮命令と労働の対償がなければ適用されない 労基法9条・11条

理事に事務局の仕事も担ってもらう場合は、理事としての報酬と職員としての賃金を分けて決めておくと整理しやすくなります。

理事の報酬の決め方は一般社団法人の理事の報酬で説明しています。

採用時に明示する労働条件

採用時に明示する労働条件
図:採用時に明示する労働条件

使用者は、労働契約を結ぶときに、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労基法15条1項)。

明示する事項は、労働基準法施行規則5条1項に列挙されています。

このうち契約期間・就業場所と業務・労働時間・賃金・退職などは、書面の交付で明示します(同条3項・4項)。

労働者が希望した場合は、出力できる電子メールなどで明示することもできます(同条4項ただし書)。

明示された労働条件が事実と違う場合、労働者は即時に契約を解除できます(労基法15条2項)。

労働契約法も、契約の内容をできる限り書面で確認するよう求めています(労働契約法4条2項)。

明示する事項 書面で明示が必要か 規則5条1項
労働契約の期間 必要 1号
有期契約を更新する場合の基準(更新回数などの上限を含む) 必要(更新がある有期契約) 1号の2
就業の場所・従事する業務(変更の範囲を含む) 必要 1号の3
始業・終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇 必要 2号
賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期 必要(昇給を除く) 3号
退職に関する事項(解雇の事由を含む) 必要 4号
退職手当・賞与・安全衛生・表彰と制裁・休職など 定めをする場合に明示 4号の2〜11号

厚生労働省は、労働条件通知書のモデル様式を公表しています。

契約期間は、原則として3年を超えて定めることはできません(労基法14条1項)。

就業規則が必要になる人数と作り方

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法89条)。

人数はパートやアルバイトも含めた労働者で数えます。理事は労働者でなければ数えません。

就業規則には、始業・終業の時刻、休日、賃金、退職に関する事項などを必ず記載します(89条1号〜3号)。

作成や変更のときは、労働者の過半数代表者などの意見を聴き、その意見書を届出に添付します(90条)。

作った就業規則は、掲示や書面の交付などで労働者に周知しなければなりません(106条1項)。

10人未満の法人に作成義務はありませんが、服務規律や休職のルールを決めておく手段として作る法人もあります。

就業規則に必ず書く事項(労基法89条1号〜3号)

  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
  • 交替制で働かせる場合の就業時転換
  • 賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期、昇給
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

退職手当・賞与・表彰と制裁などは、定めをする場合に記載します(89条3号の2以下)。

労働時間・休憩・休日と36協定

労働時間の上限は、休憩を除いて1週40時間・1日8時間です(労基法32条)。

労働時間が6時間を超えるときは45分以上、8時間を超えるときは1時間以上の休憩を途中に与えます(34条1項)。

休日は毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上です(35条)。

これを超えて残業や休日労働をさせるには、36協定が必要です(36条1項)。

36協定は労働者の過半数代表者などと結び、労働基準監督署に届け出ます。

36協定で延長できる限度時間は、原則として1か月45時間・1年360時間です(36条4項)。

イベントの準備などで繁忙期がある法人ほど、協定の内容と実際の残業時間を照らし合わせて管理します。

労働の種類 割増率の最低限度 根拠
時間外労働 2割5分 労基法37条1項・割増賃金令
時間外労働のうち1か月60時間を超える部分 5割 労基法37条1項ただし書
休日労働(法定休日) 3割5分 労基法37条1項・割増賃金令
深夜労働(午後10時〜午前5時) 2割5分 労基法37条4項

割増賃金の計算の基礎から、家族手当や通勤手当などは除かれます(37条5項)。

賃金の支払いと最低賃金

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払うのが原則です(労基法24条1項)。

税金や社会保険料など法令に定めがあるものを除き、賃金から差し引くには労使協定が必要です(同項ただし書)。

賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払います(24条2項)。

賃金は最低賃金額以上でなければならず、下回る部分の約束は無効になります(最低賃金法4条1項・2項)。

最低賃金は都道府県ごとに定められ、毎年改定されるため、厚生労働省の一覧で最新の額を確認します。

給与を支払う法人には、所得税の源泉徴収の義務があります(所得税法183条1項)。

給与の支払事務を取り扱う事務所を設けたときは、1か月以内に税務署へ届け出ます(所得税法230条)。

この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。

年次有給休暇

雇入れの日から6か月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10日の年次有給休暇を与えます(労基法39条1項)。

その後は、勤続年数に応じて日数が増えます(同条2項)。

パートなど所定労働日数が少ない労働者には、日数に比例した有給休暇を与えます(同条3項)。

年10日以上の有給休暇がある労働者には、そのうち5日を1年以内に時季を指定して取得させる義務があります(同条7項)。

雇入れからの勤続期間 付与日数(週5日以上などの通常の労働者)
6か月 10日
1年6か月 11日
2年6か月 12日
3年6か月 14日
4年6か月 16日
5年6か月 18日
6年6か月以上 20日

表の日数は、出勤率8割以上の要件を満たした場合です(39条1項・2項)。

社会保険・労働保険の加入基準

健康保険と厚生年金保険は、法人の事業所で常時従業員を使用すれば強制的に適用されます(健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号)。

個人事業と違い、業種や人数(5人以上)の条件はありません。

週の所定労働時間などが通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者は、週20時間未満なら原則として加入しません(健康保険法3条1項9号)。

週20時間以上の短時間労働者が加入するかどうかは、事業所の規模などの経過措置も関係するため、年金事務所で確認します。

雇用保険は、週20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる労働者が対象です(雇用保険法6条1号・2号)。

労災保険は、労働者を1人でも使用する事業に適用されます(労災保険法3条1項)。

労働保険の保険関係が成立したら、10日以内に届け出なければなりません(労働保険徴収法4条の2第1項)。

保険 対象になる人の目安 主な窓口 根拠
健康保険・厚生年金保険 常時使用される職員(短時間は要件あり) 年金事務所・健康保険組合 健康保険法3条・厚生年金保険法9条
雇用保険 週20時間以上・31日以上の見込みの労働者 ハローワーク 雇用保険法6条
労災保険 すべての労働者(パート・アルバイトを含む) 労働基準監督署 労災保険法3条

資格の取得や喪失の届出は、事業主が行います(健康保険法48条・厚生年金保険法27条・雇用保険法7条)。

理事が社会保険に加入するかどうかは、職員とは別の基準で判断されます。

この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 社会保険・労働保険の加入手続きは、社会保険労務士が取り扱う業務です。

設立直後の届出先の一覧は一般社団法人の設立後の届出、社会保険の概要は一般社団法人の社会保険で説明しています。

作成・保存が必要な帳簿

労働者を雇うと、いわゆる法定三帳簿を作ります。

労働者名簿は、各事業場ごとに労働者の氏名・生年月日・履歴などを記入します(労基法107条)。

賃金台帳は、賃金計算の基礎となる事項と賃金の額を、支払のたびに記入します(108条)。

これらと雇入れ・解雇・賃金などに関する重要な書類は、保存しなければなりません(109条)。

保存期間は条文上5年ですが、当分の間は3年とする経過措置があります(附則143条1項)。

労働時間の記録(出勤簿やタイムカードなど)も、賃金や労働時間の管理の基礎として保存します。

労働者名簿・賃金台帳の主な記入項目の例

労働者名簿:氏名/生年月日/履歴/性別/住所/従事する業務の種類/雇入れの年月日/退職の年月日と事由

賃金台帳:氏名/性別/賃金計算期間/労働日数/労働時間数/時間外・休日・深夜の労働時間数

賃金台帳(続き):基本給・手当などの種類ごとの額/控除した額

記入項目の詳細は労働基準法施行規則で定められています。給与計算ソフトの出力で要件を満たす場合もあります。

ハラスメント防止と健康診断

事業主には、パワーハラスメントを防ぐ雇用管理上の措置が義務づけられています(労働施策総合推進法31条1項)。

対象は、職場での優越的な関係を背景とし、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動です。

顧客や施設の利用者などの行き過ぎた言動から職員を守る措置も求められます(同法33条1項)。

対象は、社会通念上許される範囲を超えて就業環境を害する言動です。

会員や参加者と接する機会が多い一般社団法人では、窓口の職員を守る体制が実務上の課題になります。

事業者は、労働者に医師による健康診断を行わなければなりません(労働安全衛生法66条1項)。

常時使用する労働者を雇い入れるときと、1年以内ごとに1回、定期に行います(労働安全衛生規則43条・44条)。

ハラスメント対策で整えるもの

  • ハラスメントを行ってはならない旨の方針を文書で示す
  • 相談窓口(担当者や外部窓口)を決めて職員に知らせる
  • 相談した職員を不利益に扱わないことを明記する
  • 会員・利用者からの過度な要求に対する対応の手順を決める

有期契約・退職・解雇のルール

有期契約・退職・解雇のルール
図:有期契約・退職・解雇のルール

有期労働契約が更新されて通算5年を超えると、労働者の申込みにより無期労働契約に転換されます(労働契約法18条1項)。

有期契約の期間中は、やむを得ない事由がなければ解雇できません(同法17条1項)。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効です(同法16条)。

解雇するときは、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労基法20条1項)。

期間の定めのない雇用では、労働者は解約の申入れから2週間で退職できます(民法627条1項)。

退職した労働者が請求すれば、使用期間や業務の種類などの証明書を遅滞なく交付します(労基法22条1項)。

退職者から請求があれば、7日以内に賃金を支払い、労働者の金品を返還します(労基法23条1項)。

1
退職の申出・解雇の予告
解雇なら30日前の予告か予告手当(労基法20条)
▼
2
最終の賃金を確定して支払う
請求があれば7日以内(23条)
▼
3
社会保険・雇用保険の資格喪失の手続
事業主が届け出る(離職票の交付など)
▼
4
源泉徴収票を交付する
税務上の書類として退職者に渡す
▼
5
退職証明書を交付する
請求があったとき(22条)
▼
6
労働者名簿に退職日と事由を記入する
帳簿は経過措置により当分の間3年保存

雇う前に法人の中で決めておくこと

職員の採用は、法人の業務執行として決めます。

理事会設置法人では、重要な使用人の選任及び解任は理事会で決めなければなりません(一般法人法90条4項3号)。

事務局長のような重要な職員を雇うときは、理事会の決議を経ておきます。

人件費は毎年続く支出なので、事業計画と予算に入れておきます。

補助金や委託費で人件費をまかなう場合は、対象期間が終わった後の雇用をどうするかも決めておきます。

採用前の確認リスト

  • 理事会の決議が必要な採用か(重要な使用人の選任)
  • 予算に人件費(給与・社会保険料の法人負担分)が入っているか
  • 雇用か業務委託か、働き方の実態に合った契約の形か
  • 労働条件通知書の内容(就業場所・業務の変更の範囲を含む)を決めたか
  • 社会保険・雇用保険の加入要件に当たるかを確かめたか
  • 労働者名簿・賃金台帳・出勤記録の管理方法を決めたか

事務局の作り方は事務局とは?役割・作り方・運営のポイントで説明しています。

よくある誤解

誤解1:非営利の法人だから労働基準法は関係ない。労働者の定義に法人の目的は関係なく、雇えば適用されます(労基法9条)。

誤解2:職員が5人未満なら社会保険に入らなくてよい。

5人以上の条件は個人の事業所の話で、法人の事業所は常時従業員を使用すれば適用されます(健康保険法3条3項2号)。

誤解3:就業規則がなければ残業させてもよい。

法定労働時間を超える残業には、就業規則とは別に36協定の締結と届出が必要です(労基法36条1項)。

誤解4:パートには有給休暇がない。所定労働日数に比例した有給休暇があります(労基法39条3項)。

誤解5:ボランティアに謝礼を払えば問題ない。

指揮命令を受けて働き、謝礼が労働の対償と評価されれば、労働者として扱われ得ます(労基法9条・11条)。

一般社団法人の労務管理についてよくある質問

Q. 一般社団法人で1人だけ職員を雇う場合も社会保険に加入しますか?

A. 法人の事業所で常時従業員を使用すれば、健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります(健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号)。短時間の職員は所定労働時間などの要件で判断します。具体的な手続は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

Q. 就業規則は必ず作らなければなりませんか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する場合に、作成と労働基準監督署への届出の義務があります(労基法89条)。10人未満なら義務はありません。

Q. 労働条件は口頭で伝えるだけでもよいですか?

A. 契約期間・就業場所と業務・労働時間・賃金・退職などは書面の交付で明示する必要があります(労基法15条1項・同法施行規則5条3項・4項)。労働者が希望すれば電子メールなども使えます。

Q. 残業代の割増率はいくらですか?

A. 時間外労働は2割5分以上、月60時間を超える部分は5割以上、法定休日の労働は3割5分以上、深夜労働は2割5分以上です(労基法37条1項・4項、割増賃金令)。

Q. 理事にも労働基準法が適用されますか?

A. 理事と法人の関係は委任とされ(一般法人法64条)、原則として労働者ではありません。ただし実態として指揮命令を受けて賃金を受ける働き方をしていれば、労働者に当たるかが問題になります(労基法9条)。

Q. 労働者名簿や賃金台帳は何年保存しますか?

A. 労基法109条は5年と定めていますが、当分の間は3年とする経過措置があります(附則143条1項)。

Q. 有期契約の職員を何度も更新するとどうなりますか?

A. 通算の契約期間が5年を超えると、労働者の申込みにより期間の定めのない契約に転換されます(労働契約法18条1項)。

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