株主がいない法人なのに、誰を書けばいいのでしょうか。設立者の私ですか、それとも理事長ですか。
多くの一般財団法人では、実質的支配者は「法人を代表し、その業務を執行する自然人」=代表理事になります。株式会社のように「議決権の4分の1超を持つ株主」という物差しが使えないので、法令は財団のような法人のために別の判定順序を用意しています。設立者は、財産を拠出した時点でその財産を法人に手放しているため、それだけでは実質的支配者になりません。
この記事では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」)と同施行規則、公証人法施行規則、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)の条文で、一般財団法人の実質的支配者の判定順序、設立者・評議員・代表理事のどれが当たるか、定款認証と口座開設で何を申告するか、そして法務局の「実質的支配者リスト制度」が使えない理由を整理します。
- 実質的支配者とは ― 銀行と公証人が確認する「法人を実質的に支配する自然人」(犯収法4条1項4号)
- 判定は法人の種類で分かれる ― 一般財団法人は「資本多数決法人以外」(施行規則11条2項)
- 3号イ ― 「収益・財産の4分の1超の分配を受ける権利」を持つ人は、財団には通常いない
- 3号ロ ― 「出資・融資・取引その他の関係」で事業活動に支配的な影響力を持つ人がいるか
- 設立者・評議員会は実質的支配者か ― 機関と支配者は別(一般法人法153条・172条・177条)
- 多くの一般財団法人では代表理事が実質的支配者になる(施行規則11条2項4号)
- 国や地方公共団体が設立者のとき(施行規則11条4項)
- 定款認証のときに公証人へ申告する(公証人法施行規則46条)
- 口座開設・融資・不動産取引で申告する(犯収法4条・施行規則11条1項)
- 法務局の「実質的支配者リスト制度」は一般財団法人には使えない
- 一般社団法人との違い ― 判定の物差しは同じ、社員の有無だけが違う
- 申告前に確認するチェックリスト
- よくある質問
実質的支配者とは ― 銀行と公証人が確認する「法人を実質的に支配する自然人」(犯収法4条1項4号)
銀行・信用金庫・保険会社などの特定事業者は、法人と口座開設や融資などの取引をするとき、その法人について「その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者」がいれば、その者の本人特定事項(氏名・住居・生年月日)を確認しなければなりません(犯収法4条1項4号)。この「主務省令で定める者」が実質的支配者です(施行規則11条2項)。
確認の方法は、法人の代表者等から申告を受ける方法です(施行規則11条1項)。銀行が独自に調べるのではなく、法人側が「この人が実質的支配者です」と申告し、顧客等と代表者等はその申告を偽ってはならないとされています(犯収法4条6項)。だから、法人の側が正しく判定できることが前提になります。
判定は法人の種類で分かれる ― 一般財団法人は「資本多数決法人以外」(施行規則11条2項)
施行規則11条2項は、法人を「資本多数決法人」(株式の保有数に応じて議決権が与えられる株式会社など)と「資本多数決法人以外の法人」に分け、判定の物差しを変えています。
| 号 | 対象 | 実質的支配者になる自然人 |
|---|---|---|
| 1号 | 資本多数決法人(株式会社など) | 議決権総数の4分の1超を直接・間接に持つ自然人(他に2分の1超を持つ者がいる場合等を除く) |
| 2号 | 資本多数決法人で1号の者がいないもの | 出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有する自然人 |
| 3号 | 資本多数決法人以外の法人(一般財団法人・一般社団法人・NPO法人など) | イ 事業から生ずる収益または事業に係る財産の総額の4分の1超の配当・分配を受ける権利を有する自然人(他に2分の1超の者がいる場合等を除く) ロ 出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有する自然人 |
| 4号 | 1〜3号の者がいない法人 | 当該法人を代表し、その業務を執行する自然人 |
一般財団法人には株式も持分も議決権もありません。評議員会の議決は評議員1人1票で、財産の拠出額に応じて票が増える仕組みではないので、資本多数決法人ではありません。∴ 一般財団法人の判定は3号イ → 3号ロ → 4号の順で進めます。
3号イ ― 「収益・財産の4分の1超の分配を受ける権利」を持つ人は、財団には通常いない
3号イは、事業の収益や財産の4分の1超について配当・分配を受ける権利を持つ自然人を実質的支配者とします。持分のある団体(持分会社など)を想定した基準です。
一般財団法人には、剰余金を誰かに分配する仕組みがありません。一般法人法153条3項2号は「設立者に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない」と定め、残余財産の帰属は定款の定め、定款に定めがなければ評議員会の決議、それでも定まらなければ国庫という順です(239条)。日常の事業収益を特定の個人が分配として受け取る権利は、制度上存在しません。
したがって、3号イに当たる自然人は通常いません。例外的に検討が要るのは、定款で残余財産の帰属先を特定の個人にしている場合ですが、それも「事業から生ずる収益」の分配ではないので、実務上は3号ロ以下の判定に進むことになります。
3号ロ ― 「出資・融資・取引その他の関係」で事業活動に支配的な影響力を持つ人がいるか
3号ロは、議決権や分配権ではなく、事実上の支配力を見る基準です。一般財団法人でこれに当たり得るのは、次のような立場の自然人です。
| 立場 | 支配的な影響力があるとされ得る例 | 当たらない例 |
|---|---|---|
| 設立者 | 設立後も毎年の事業費の大半を寄附し続け、その資金提供を通じて事業内容を左右できる | 設立時に300万円以上を拠出しただけで、以後は法人運営に関与していない |
| 大口の寄附者・融資者 | 法人の主要な財源を一人で握り、その継続を条件に事業運営に影響を及ぼしている | 一度の寄附をした、通常の条件で融資したにとどまる |
| 主要な取引先の個人 | 法人の事業がその個人との取引に依存し、取引関係を通じて事業活動を左右できる | 通常の対価で継続的に取引しているだけ |
| 評議員・理事 | 機関としての権限を超えて、上記のような資金・取引関係を併せ持つ | 評議員・理事として法定の権限を行使しているだけ(次項) |
ロに当たる人がいれば、その人が実質的支配者で、4号(代表理事)には進みません。「設立者だから」「一番多く寄附しているから」ではなく、その関係を通じて事業活動を支配できるかで見ます。
設立者・評議員会は実質的支配者か ― 機関と支配者は別(一般法人法153条・172条・177条)
| 立場 | 法律上の位置 | 実質的支配者との関係 |
|---|---|---|
| 設立者 | 設立時に300万円以上の財産を拠出する(153条1項5号・2項)。拠出した財産は法人のものになり、剰余金・残余財産の分配を受ける定めは無効(153条3項2号)。設立後の権限は、定款に定めた評議員の選任方法などを通じた間接的なものにとどまる | 拠出したという事実だけでは当たらない。3号ロの「関係を通じた支配的な影響力」があるときだけ |
| 評議員・評議員会 | 法人と委任関係にある機関(172条1項)。理事・監事の選任・解任(177条で準用する63条)、定款変更、計算書類の承認などを決議する | 法定の権限を行使する機関であり、その地位だけでは実質的支配者ではない。個人として3号ロの関係があれば別 |
| 理事・理事会 | 業務執行の決定と理事の職務執行の監督をする機関 | 同上 |
| 代表理事 | 法人を代表し、業務を執行する(197条で準用する77条) | 1〜3号の者がいなければ4号で実質的支配者になる |
「評議員会が理事を選ぶのだから、評議員が支配者ではないか」という疑問はもっともですが、施行規則11条2項が見ているのは自然人個人の支配力です。3人以上の評議員(173条3項)が合議で決める評議員会の一票は、一人の自然人が法人の事業経営を実質的に支配できる関係とは評価されません。評議員のうち一人が資金や取引を通じて事実上すべてを決めている、という事情があれば、その人は3号ロで拾われます。
多くの一般財団法人では代表理事が実質的支配者になる(施行規則11条2項4号)
3号イ・ロに当たる自然人がいない法人では、「当該法人を代表し、その業務を執行する自然人」が実質的支配者です(4号)。一般財団法人では代表理事がこれに当たります。
| 状況 | 実質的支配者 | 注意点 |
|---|---|---|
| 代表理事が1人 | その代表理事 | 肩書きが「理事長」「会長」でも、法律上の地位は代表理事。登記されている代表理事で判定する |
| 代表理事が2人以上 | 各代表理事 | 「法人を代表し、業務を執行する自然人」に全員が当たる。1人に絞らない |
| 代表理事が交代した | 新しい代表理事 | 銀行には取引時確認の内容が変わったことを届け出る。登記も2週間以内(一般法人法303条) |
| 代表理事が法人格を持たない団体の代表を兼ねる | その自然人 | 判定は自然人単位。他団体での地位は関係ない |
代表理事の肩書きや登記の扱いは一般財団法人の肩書きの記事、変更登記は一般財団法人の登記事項の記事で整理しています。
国や地方公共団体が設立者のとき(施行規則11条4項)
施行規則11条4項は、国等(国・地方公共団体など)とその子会社は、実質的支配者の判定では自然人とみなすと定めています。地方公共団体が設立者となり、毎年の運営費を補助して事業活動に支配的な影響力を持っている一般財団法人では、その地方公共団体自体が3号ロの実質的支配者として申告の対象になります。
この場合、申告書には自然人の氏名・住居・生年月日の代わりに、その団体の名称・所在地を書きます。自治体が関与する財団の事務局が戸惑いやすい点なので、押さえておきます。
定款認証のときに公証人へ申告する(公証人法施行規則46条)
一般財団法人の定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません(一般法人法155条)。公証人法施行規則46条は、会社法30条1項並びに一般法人法13条及び155条の規定による定款の認証を行う場合に、嘱託人に次の事項を申告させると定めています。株式会社だけでなく、一般社団法人・一般財団法人も明文で対象です。
| 申告する事項 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 実質的支配者となるべき者の本人特定事項 | 法人の成立の時に実質的支配者(犯収法4条1項4号に規定する者)となるべき者の氏名・住居・生年月日 | 規則46条1項1号 |
| ② 反社会的勢力等への該当性 | その者が暴力団員、国際テロリスト(財産凍結等特別措置法で公告・指定された者)、大量破壊兵器関連計画等関係者に該当するか否か | 規則46条1項2号 |
| 該当のおそれがあるとき | 公証人は嘱託人または実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければならない | 規則46条2項 |
設立の段階では「法人の成立の時に」実質的支配者となるべき者を申告します。設立時代表理事が就任する前提なら、その人を4号で申告するのが通常です。設立者が設立後も資金提供を通じて事業を支配する計画なら、3号ロで設立者を申告することになります。公証役場には申告書の様式が用意されています。
口座開設・融資・不動産取引で申告する(犯収法4条・施行規則11条1項)
| 場面 | 誰が確認するか | 法人がすること |
|---|---|---|
| 預金口座の開設 | 銀行・信用金庫などの特定事業者 | 代表者等が実質的支配者の氏名・住居・生年月日を申告(施行規則11条1項) |
| 融資を受ける | 同上 | 同上 |
| 不動産の売買 | 宅地建物取引業者 | 同上 |
| 代表理事の交代・支配関係の変化 | — | 確認した内容が変わるので、取引先の金融機関に届け出る。次の取引時確認で新しい実質的支配者を申告する |
| 偽った申告 | — | 顧客等・代表者等は取引時確認の事項を偽ってはならない(犯収法4条6項) |
銀行の申告書には「議決権を25%超保有する個人」の欄が最初にあることが多く、一般財団法人の担当者はここで止まります。財団には該当者がいないので、「議決権のない法人」の欄(支配的な影響力を有する者/代表者)に進んで代表理事を書く、というのが実務の流れです。
法務局の「実質的支配者リスト制度」は一般財団法人には使えない
2022年1月31日から、商業登記所(法務局)が実質的支配者リストを保管し、その写しを交付する制度が始まっています。ただし法務省が明示しているとおり、この制度を利用できるのは資本多数決法人である株式会社(特例有限会社を含む)だけで、持分会社・一般社団法人・一般財団法人は対象外です。
したがって、一般財団法人は法務局発行の「実質的支配者情報一覧の写し」を銀行に出すことができません。実質的支配者の証明は、代表者等による申告書と、それを裏づける登記事項証明書(代表理事の記載)・定款・評議員名簿などで行います。「法務局で証明書を取ってきてください」と言われたら、この制度の対象外であることを説明します。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
一般社団法人との違い ― 判定の物差しは同じ、社員の有無だけが違う
一般社団法人も資本多数決法人ではないので、判定は同じ3号イ→ロ→4号です。違いは、社団には社員総会があり、社員が1人1票(定款で別段の定めも可)の議決権を持つ点です。社員が一人で法人を動かせるような構造(社員が1〜2人で、その人が資金も握っている等)なら3号ロで社員が拾われ、そうでなければ代表理事が4号で実質的支配者になります。
財団は社員がいない分、3号ロで検討する対象が設立者・大口寄附者・融資者に限られ、結論として代表理事に落ち着く割合が高くなります。一般社団法人の判定は一般社団法人の実質的支配者の記事で整理しています。
申告前に確認するチェックリスト
- 3号イ:事業の収益・財産の4分の1超の分配を受ける権利を持つ自然人がいないことを確認した(153条3項2号・239条=通常いない)
- 3号ロ:設立者・大口寄附者・融資者・主要取引先のうち、その関係を通じて事業活動に支配的な影響力を持つ自然人がいないか検討した
- 国・地方公共団体が設立者で支配的な影響力を持つなら、その団体自体を申告する(施行規則11条4項)
- いずれもいなければ、登記されている代表理事(複数なら全員)を4号で申告する
- 氏名・住居・生年月日を本人確認書類と突き合わせた(犯収法4条1項4号)
- 定款認証時は、暴力団員・国際テロリスト等に該当しないことも申告した(公証人法施行規則46条1項2号)
- 代表理事が交代したら、取引金融機関に届け出て次回の取引時確認で更新する
- 法務局の実質的支配者リストは取れないので、申告書+登記事項証明書+定款で説明する
よくある質問
A. 多くの場合、法人を代表し業務を執行する自然人である代表理事です(犯収法施行規則11条2項4号)。その前に、事業の収益・財産の4分の1超の分配を受ける権利を持つ自然人(3号イ・財団では通常いない)と、出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を持つ自然人(3号ロ)がいないかを確認します。
A. 拠出しただけでは当たりません。拠出した財産は法人のものになり、設立者に剰余金・残余財産を分配する定款の定めは無効です(一般法人法153条3項2号)。設立後も資金提供などの関係を通じて事業活動に支配的な影響力を持っている場合に限り、3号ロで実質的支配者になります。
A. なりません。実質的支配者は自然人個人の支配力で判定します。3人以上の評議員が合議で決議する機関としての権限は、一人の自然人が事業経営を実質的に支配できる関係とは評価されません。特定の評議員が資金や取引を通じて事実上すべてを決めているなら、その人が3号ロで当たります。
A. 各代表理事が実質的支配者です。4号の「当該法人を代表し、その業務を執行する自然人」に全員が当たるので、1人に絞らず全員を申告します。
A. 要ります。公証人法施行規則46条は、一般法人法155条による一般財団法人の定款認証のとき、法人成立時に実質的支配者となるべき者の氏名・住居・生年月日と、暴力団員・国際テロリスト等に該当するか否かを嘱託人に申告させると定めています。
A. 取れません。商業登記所の実質的支配者リスト制度は、資本多数決法人である株式会社(特例有限会社を含む)だけが対象で、一般財団法人は対象外と法務省が明示しています。申告書と登記事項証明書・定款で説明します。
A. 国・地方公共団体とその子会社は判定上自然人とみなされます(施行規則11条4項)。地方公共団体が補助金などを通じて事業活動に支配的な影響力を持っていれば、その地方公共団体自体を3号ロの実質的支配者として申告します。
A. 顧客等・代表者等は取引時確認の事項を偽ってはならないとされています(犯収法4条6項)。故意の虚偽は問題ですが、判定を誤っていたと気づいた場合は、取引先の金融機関に速やかに訂正を申し出ます。
📖 参考にした公的機関の情報


