出したお金は戻ってきますか?
いちばんの違いは、一般財団法人には出資者がいないことです。設立者が拠出した300万円以上の財産は、拠出した時点で法人のものになり、設立者に返ってきません。株式会社の株主が持つような権利は、財団のどこにも存在しません。
これは運用の問題ではなく、法律が正面から禁じている点です。一般法人法153条3項2号は、設立者に剰余金または残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは「その効力を有しない」と定めています。定款に書いても無効になる、ということです。
この記事では、一般財団法人と株式会社の違いを、出資・分配・持分・機関・費用・解散の6つの角度から条文つきで対比します。一般社団法人との違いは一般財団法人とはの記事で扱っています。
まず全体像 ― 6つの角度で並べる
| 一般財団法人 | 株式会社 | |
|---|---|---|
| 出資者 | いない(設立者は拠出後に権利を持たない) | 株主 |
| 設立時の財産 | 300万円以上の拠出が必須(153条2項) | 資本金1円から可能 |
| 利益の分配 | できない(153条3項2号) | 配当できる |
| 持分 | ない(売買・相続の対象にならない) | 株式として売買・相続できる |
| 最高の意思決定機関 | 評議員会(178条) | 株主総会 |
| 必要な人数 | 評議員3・理事3・監事1=最低7人 | 取締役1人から |
| 設立の登録免許税 | 一律6万円 | 資本金×7/1000(最低15万円) |
| 解散の特則 | 純資産300万円未満が2期連続で解散(202条2項) | なし |
| 登記の放置 | 最後の登記から5年でみなし解散(203条1項) | 12年(会社法472条1項) |
拠出した財産は戻ってこない
一般財団法人を設立するには、設立者が合計300万円以上の財産を拠出しなければなりません(一般法人法153条2項)。定款の認証を受けたあと、遅滞なくその財産を全額払い込むか給付します(157条1項)。
株式会社の出資は、株式という見返りを受け取る取引です。ところが財団の拠出には見返りがありません。拠出は、財産を法人に移して目的に縛りつける行為であって、投資ではないからです。
| 場面 | 一般財団法人の設立者 | 株式会社の株主 |
|---|---|---|
| 財産を出したときに受け取るもの | 何もない | 株式 |
| 毎年の利益から受け取れるもの | なし | 配当 |
| 法人を解散したときに受け取れるもの | なし(定款で定めても無効) | 残余財産の分配 |
| 地位を他人に譲れるか | 譲れない | 株式を譲渡できる |
| 相続の対象になるか | ならない | なる |
設立者が理事や評議員に就任して法人の運営に関わることはできます。ただしそれは「財産を出したから」ではなく、選任されたからです。設立者であることと、機関の地位は切り離されています。
利益は配れない ― ただし事業で稼ぐことはできる
誤解が多いところですが、一般財団法人が収益事業を行って利益を出すこと自体は自由です。禁じられているのは、その利益を設立者や関係者に分配することだけです。
- 事業を行って利益を出す → できる
- 職員に給与を払う → できる
- 理事・監事・評議員に報酬を払う → できる(定款や評議員会で定める)
- 設立者に配当を出す → できない(153条3項2号)
- 解散時に残った財産を設立者に返す → できない(定款に書いても無効)
出た利益は、翌年以降の事業に使うか、法人の中に積み立てます。外に配る出口がないので、財産は法人の中にとどまり続けます。これが「財産を目的に縛りつける」という財団の設計です。
解散したときの残余財産は、定款で定めた者に帰属します。定款に定めがなければ最終的に国庫に帰属します。詳しくは解散と清算の記事で扱っています。
意思決定するのは株主総会ではなく評議員会
株式会社では、会社の所有者である株主が株主総会で最終的な意思決定をします。財団には所有者がいないので、代わりに評議員会が置かれます(170条1項・178条)。
ただし評議員会は株主総会と同じものではありません。株主総会が会社に関する一切の事項を決議できるのに対し、評議員会は、法律に規定する事項と定款で定めた事項に限って決議できます(178条2項)。万能の機関ではないということです。
| 株主総会 | 評議員会 | |
|---|---|---|
| 構成員 | 株主(出資額に応じた議決権) | 評議員(1人1議決権・3人以上) |
| 決議できる範囲 | 会社に関する一切の事項 | 法律と定款が定めた事項に限る(178条2項) |
| 代理出席 | できる | できない |
| 書面投票 | できる | できない |
| 構成員になる方法 | 株式を取得する | 定款で定めた方法で選任される(153条1項8号) |
| 理事・取締役の選任 | 株主総会が選ぶ | 評議員会が選ぶ(177条で準用する63条) |
3行目と4行目は運営に直結します。評議員は代理出席も書面投票もできないため、全員の予定を合わせる必要があります。詳しくは評議員会の記事で扱っています。
もう一つ、財団には強い制約があります。理事や理事会が評議員を選任・解任する旨の定款の定めは無効です(153条3項1号)。選ばれる側が選ぶ側を決められないようにして、監督の実効性を保つ仕組みです。
設立にかかるお金と人数
設立費用は、株式会社のほうが資本金次第で大きく変わります。一般財団法人は定額なので見積もりが立てやすい代わりに、300万円の拠出が最初に必要です。
| 項目 | 一般財団法人 | 株式会社 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 定款の認証手数料 | 一律5万円 | 資本金に応じて3万円・4万円・5万円の3段階(要件を満たせば1万5千円) | 公証人手数料令35条3号 |
| 定款の収入印紙(紙で作る場合) | 不要 | 4万円 | 印紙税法 別表第一 第6号文書は「会社」の定款が対象 |
| 設立の登録免許税 | 一律6万円 | 資本金×7/1000(15万円未満なら15万円) | 登録免許税法 別表第一24号(1)ロ・イ |
| 最低限の出資・拠出 | 300万円以上 | 1円から | 一般法人法153条2項 |
| 必要な人数 | 評議員3・理事3・監事1の計7人 | 取締役1人 | 一般法人法170条1項・173条3項ほか |
2行目は間違えられやすい点です。紙の定款に4万円の収入印紙が必要なのは会社の定款だけで、一般財団法人の定款は課税対象ではありません。したがって財団では、電子定款にしても印紙の分が節約になるという関係は生じません。
人数の要件も見落とされがちです。評議員は理事・監事・使用人を兼ねられないので(173条2項)、最低でも7人の別々の人を集める必要があります。1人で作れる株式会社との差はここが最も大きいところです。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
財団だけにある「純資産300万円で解散」
株式会社は債務超過になっても、それだけで解散することはありません。ところが一般財団法人には、財産が痩せたら自動的に消えるという規定があります。
決議は要りません。2期連続でラインを割った時点で、法律上当然に解散します。財産に法人格を与えている制度なので、その財産が一定の規模を割ったら制度の前提が崩れるという考え方です。
300万円ちょうどを拠出して収入のない財団は、維持費だけでこの状態に近づきます。拠出額を決める段階で、何年分の維持費を上乗せするかを考えておく必要があります。詳しくは維持費の記事で扱っています。
登記を放置したときの扱いも違う
登記を長期間しないまま放置すると、法務大臣の公告を経て解散したものとみなされます。この年数が、一般財団法人と株式会社では大きく違います。
| 一般財団法人 | 株式会社 | |
|---|---|---|
| 最後の登記からの年数 | 5年 | 12年 |
| 根拠 | 一般法人法203条1項 | 会社法472条1項 |
| 公告後の猶予 | 2か月以内に「事業を廃止していない旨の届出」 | 同じ |
| 期間内に登記をしたら | みなし解散にならない | 同じ |
財団の5年が短く感じられますが、理由があります。理事の任期は2年、監事は4年、評議員は原則4年なので、普通に運営していれば5年以内に必ず役員の変更登記が発生します。5年間まったく登記がないということは、実質的に活動が止まっているとみなされる、という設計です。
「12年」は株式会社の数字なので、財団の記事や案内文にそのまま持ち込まないよう注意します。
どちらを選ぶか
| やりたいこと | 向いている法人格 | 理由 |
|---|---|---|
| 事業のもうけを自分や出資者に返したい | 株式会社 | 財団は分配ができない |
| 1人で早く小さく始めたい | 株式会社 | 財団は7人と300万円が必要 |
| まとまった財産を特定の目的に永続的に充てたい | 一般財団法人 | 拠出財産が目的に縛られ、後から取り戻せない |
| 創立者個人と切り離して財産を管理したい | 一般財団法人 | 設立者に持分がなく、相続の対象にならない |
| 将来的に公益認定を受けたい | 一般財団法人 | 公益財団法人になる道がある |
| 会員を集めて活動したい | 一般社団法人 | 財団には社員(会員)という機関がない |
税金の扱いも判断材料になります。株式会社はすべての所得が法人税の対象になるのに対し、一般財団法人は非営利型の要件を満たせば、原則として収益事業から生じた所得が課税対象になります。ただし要件の判定は実態によって結論が変わるため、税金の記事で全体像を確認したうえで、個別の判定は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。
よくある質問
A. 返してもらえません。拠出した財産は法人のものになります。設立者に剰余金や残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは効力を有しないため(一般法人法153条3項2号)、定款に書いて返す仕組みを作ることもできません。
A. 営利事業を行うこと自体に制限はありません。「非営利」とは事業の中身ではなく、利益を構成員に分配しないという意味です。収益事業を行い、そのもうけを法人の目的のために使うことは制度の想定内です。
A. できません。一般法人法には株式会社から一般財団法人への組織変更の規定がありません。株式会社を残したまま別に一般財団法人を設立するか、株式会社を解散して財産を拠出する形になります。一般社団法人から一般財団法人への組織変更も同様にできません。
A. 財団はそのまま存続します。設立者に持分がないため、相続の対象になるものがないからです。これは株式会社の株主が亡くなると株式が相続され、支配関係が変わりうるのと対照的です。ただし設立者が理事だった場合は、理事の欠員として選任の手続きが必要になります。
A. 一般財団法人に「資本金」という概念はありません。必要なのは設立者が拠出する財産で、その合計額が300万円を下回ってはならないとされています(153条2項)。株式会社の資本金と違い、登記されるものでもありません。
A. 役割は似ていますが、選ぶ人が違います。取締役は株主総会が選び、一般財団法人の理事は評議員会が選びます(177条で準用する63条)。また財団は理事会が必置で理事3人以上が必要なのに対し、株式会社は取締役1人でも設立できます。
A. できません。株式に当たるものがないため、市場で売買される対象が存在しません。資金調達の方法は、拠出・寄附・借入れ・事業収入に限られます。
A. できます。同じ人が株式会社の代表取締役と一般財団法人の代表理事を兼ねることも可能です。ただし財団と理事個人(またはその関係する会社)との取引は利益相反取引に当たり、理事会の承認が必要です(197条で読み替えた84条1項)。
株式会社だけでなく医療法人との違いを知りたい方はこちらです(設立は知事の認可・理事長は原則として医師)。
株式会社との比較に加えて、法人格がない任意団体との違いを知りたい方はこちらです。
株主のいない一般財団法人では、実質的支配者の判定も株式会社と別の順序になります(施行規則11条2項3号・4号)。詳しくはこちら。
📖 参考にした公的機関の情報


