権利能力なき社団とは?4つの要件と任意団体との関係|財産は「総有」・不動産は代表者個人名義・構成員は責任を負わないを判例で整理

一般社団法人法
自治会や同窓会、サークルのように、登記をしていない団体でも、お金や備品を持ち、契約を結んでいます。こうした団体は法律上どう扱われるのでしょうか。キーワードは「権利能力なき社団」です。

結論から申し上げます。権利能力なき社団とは、法人格はないものの、団体としての実体をそなえた団体のことです。

法律にこの言葉の定義はありません。最高裁判所の判例がつくった概念です。条文では「法人でない社団」(民事訴訟法29条)や「人格のない社団等」(法人税法2条8号)と表現されます。

当てはまると、団体の財産は構成員全員の「総有」になり、構成員は団体の借金について個人の責任を負わないとされます。いっぽうで、不動産を団体の名前で登記することはできません。

この記事では、要件、財産、登記、責任、裁判、税金、そして法人化の判断までを、判例と条文の順に整理します。

なぜ「権利能力なき社団」という考え方が必要なのか

民法33条1項は「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない」と定めています。

つまり、法律に従って登記や認可を受けない限り、団体は法人になれません。法人でなければ、権利や義務の主体(権利能力)になれないのが原則です。

しかし現実には、自治会、同窓会、PTA、サークル、業界の連絡会など、法人格のない団体が数多く活動しています。会費を集め、備品を買い、会場を借りています。

これらをすべて「個人の集まりにすぎない」と扱うと、代表者が替わるたびに財産の帰属が揺らぎ、構成員の一人が抜けるたびに持分の清算が必要になってしまいます。

そこで判例は、実体が法人と変わらない団体には、法人に近い扱いを認める道を開きました。それが権利能力なき社団です。

4つの要件 ― 最高裁昭和39年10月15日判決

要件を示したのは、最高裁昭和39年10月15日判決(民集18巻8号1671頁)です。

判決は、権利能力のない社団といえるためには、次の点が必要だとしました。

①団体としての組織をそなえていること。②多数決の原則が行われていること。③構成員が変わっても団体そのものが存続すること。④代表の方法、総会の運営、財産の管理その他、団体としての主要な点が確定していること。

実務で見られるのは、規約(会則)があり、総会で物事を決め、代表者と会計が決まっているかです。

仲の良い数人が集まって費用を出し合っているだけの集まりは、組織も多数決もないため、通常は当てはまりません。その場合は民法の「組合」として扱われる余地があります。

要件 確認の目安
①団体としての組織 代表者・会計などの役割が決まっている
②多数決の原則 総会や役員会で多数決により決めている
③構成員の変更にかかわらず存続 入会・退会があっても団体は続く
④主要な点の確定 規約で代表の方法・総会・財産管理を定めている
POINT 4要件の中心は規約(会則)です。規約に代表・総会・財産管理の定めがあるかが、判断の出発点になります。

任意団体・民法上の組合との違い

「任意団体」は法律用語ではありません。法人格のない団体を広く指す日常の言葉です。

その任意団体のうち、4要件を満たすものが権利能力なき社団です。満たさないものは、民法667条以下の組合や、単なる個人の集まりとして扱われます。

違いがはっきり出るのは、財産と責任の場面です。組合の財産は組合員の共有で、組合の債務について組合員は個人として責任を負う場面があります。

権利能力なき社団では、財産は総有、構成員は個人の責任を負わないと扱われます。同じ「任意団体」でも、結論が大きく違うのです。

権利能力なき社団 民法上の組合 法人(一般社団法人など)
根拠 判例(最判昭39.10.15) 民法667条以下 法律(一般法人法など)
財産の帰属 構成員全員の総有 組合員の共有 法人そのもの
持分の払戻し 原則なし 脱退時に払戻しあり なし
債務の責任 社団の財産のみ 組合員も責任を負う場面がある 法人の財産のみ
不動産の登記名義 代表者個人など 組合員など 法人名義
訴訟の当事者 なれる(民訴法29条) 判例上なれる場合がある なれる

財産は「総有」― 抜けても持分は返ってこない

権利能力なき社団の財産は、構成員全員に総有的に帰属するとされます。

最高裁昭和32年11月14日判決(民集11巻12号1943頁)は、総有の廃止その他財産の処分に関する定めがない限り、現在の構成員も元の構成員も、当然には共有の持分権や分割請求権を持たないと判断しました。

つまり、会を辞める人が「自分が払った会費の分を返してほしい」と求めても、規約に定めがなければ、原則として応じる義務はありません。

逆にいえば、解散時に残った財産をどうするかは、規約の定めや総会の決議で決めておく必要があります。定めがないと、分け方をめぐって争いになりやすい部分です。

規約に書いておきたい財産の定め

  • 会費・入会金は退会しても返還しないこと
  • 財産の管理者(会計)と管理の方法
  • 通帳・印鑑を誰が保管するか
  • 解散時に残った財産の帰属先
  • 不動産や高額の備品を取得するときの決議の方法

不動産は団体名義で登記できない ― 最高裁昭和47年6月2日判決

権利能力なき社団がもっとも困るのが、不動産の登記です。

最高裁昭和47年6月2日判決(民集26巻5号957頁)は、社団の資産である不動産について、社団名義の登記も、代表者の肩書を付けた登記もできないとしました。

代表者は、構成員全員の受託者の立場で、個人名義で登記することになります。構成員全員の共有名義で登記する方法もあります。

さらに最高裁平成6年5月31日判決(民集48巻4号1065頁)は、規約などで定められた手続により登記名義人とされた構成員であれば、代表者でなくても個人名義で登記できるとしています。

いずれにしても、登記簿上は「個人の不動産」に見えます。これが次のトラブルの原因になります。

名義人が亡くなったとき ― 平成26年判決で団体が訴えられるようになった

登記名義人が亡くなると、登記簿上はその相続人が権利を持っているように見えます。団体の財産が、名義人の相続の手続に巻き込まれてしまうのです。

最高裁平成26年2月27日判決(民集68巻2号192頁)は、この場面を扱いました。構成員数人の共有名義だった土地建物のうち、一人の名義が相続で孫に移っていた事案です。

判決は、権利能力のない社団は、構成員全員に総有的に帰属する不動産について、代表者の個人名義に移転登記をするよう求める訴訟の原告になれるとしました。

ただし、社団自身の名義に登記できるようになったわけではありません。移転先はあくまで代表者の個人名義です。

代表者が替わるたびに名義の書き換えが必要になり、名義人の死亡や離脱のたびに同じ問題が起こり得ます。不動産を持つ団体が法人化を考える大きな理由です。

POINT 判例が認めたのは「社団が原告として訴えられる」ことまで。登記名義は代表者個人のままです。

構成員は団体の借金を払わなくてよい ― 最高裁昭和48年10月9日判決

権利能力なき社団が取引で負った債務について、構成員は個人として責任を負うのでしょうか。

最高裁昭和48年10月9日判決(民集27巻9号1129頁)は、社団の代表者が社団の名において行った取引の債務は、構成員全員に総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産になるとしました。

構成員各自は、取引の相手方に対して直接には個人的な債務や責任を負わない、というのが判決の結論です。

ただし、これは社団と認められることが前提です。4要件を満たさない集まりだと判断されれば、組合として構成員の責任が問われる余地があります。

また、代表者が自分の名前で契約を結んだり、保証人になったりしていれば、その代表者は契約上の責任を負います。「団体の契約だから個人は関係ない」と言い切れない場面は、実務では少なくありません。

裁判の当事者にはなれる ― 民事訴訟法29条

民事訴訟法29条は、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる」と定めています。

つまり、代表者の定めがあれば、団体の名前で裁判を起こし、また訴えられることができます。これを当事者能力といいます。

会費を払わない会員への請求や、会場の貸主との紛争などで、代表者個人ではなく団体が当事者になれるということです。

同じ条文は「財団」も対象にしています。財産を中心にまとまった団体でも、管理人の定めがあれば当事者になれます。

税金では「人格のない社団等」として法人とみなされる

法人税法は、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを「人格のない社団等」と定義しています(法人税法2条8号)。

そのうえで、人格のない社団等は法人とみなして法人税法を適用するとしています(3条)。

ただし、納税義務があるのは、収益事業を行う場合などに限られます(4条1項ただし書)。収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものです(2条13号)。

会費だけで親睦活動をしている団体と、物品販売や請負を継続して行っている団体とでは、扱いが変わります。どの活動が収益事業に当たるかは、事業の実態によって判断が分かれます。

具体的な判定は、税理士または所轄の税務署に確認してください。

自治会・町内会には「認可地縁団体」という道がある

自治会・町内会のように地域の住民で構成する団体は、市町村長の認可を受けると、規約に定める目的の範囲内で権利を有し、義務を負うことができます(地方自治法260条の2第1項)。これを認可地縁団体といいます。

認可の要件は、地域的な共同活動を目的として現に活動していること、区域が客観的に明らかなこと、区域の住民すべてが構成員になれて相当数が現に構成員であること、規約を定めていることです(同条2項)。

規約には、目的、名称、区域、主たる事務所の所在地、構成員の資格、代表者に関する事項などを定めます(同条3項)。

認可を受ければ、集会所などの不動産を団体の名義で登記できます。自治会館の名義問題を抱える自治会では、一般社団法人より先に検討される選択肢です。

権利能力なき社団のままでよいか ― 法人化を考える目安

権利能力なき社団のままでも、日々の活動に大きな支障がない団体は多くあります。

一方で、次のような場面では法人格の有無が効いてきます。不動産を持つ、長期の賃貸借契約を結ぶ、職員を雇う、補助金・委託事業を受ける、取引先から法人であることを求められる、といった場面です。

一般社団法人は、2008年施行の一般法人法により、社員2人以上で定款を作り、公証人の認証と登記で設立できるようになりました。行政の許可や認証は要りません。

NPO法人は所轄庁の認証が必要ですが、税制や社会的信用の面で選ばれることがあります。団体の目的と活動に合わせて選んでください。

見直しのきっかけ 権利能力なき社団のままだと
不動産を持っている・持ちたい 代表者個人名義。相続や交代のたびに名義変更の問題
職員を雇う 雇用契約・社会保険の主体があいまいになりやすい
銀行口座 「団体名+代表者名」の口座になり、規約や議事録の提出を求められることが多い
委託事業・補助金 法人格を要件とするものに申し込めない
代表者の負担 契約や保証を代表者個人が引き受けがち
権利能力なき社団として運営するときの確認リスト

  • 規約(会則)に、目的・名称・代表の方法・総会・財産管理が書かれているか
  • 総会の議事録を残しているか(多数決の実績になる)
  • 会計報告を毎年総会に出しているか
  • 不動産・口座の名義人と、交代時の手続を決めているか
  • 退会時に会費を返さないこと、解散時の財産の帰属を定めているか
  • 収益事業に当たる活動をしていないか

権利能力なき社団についてよくある質問

Q. 権利能力なき社団とは何ですか?

A. 法人格はないものの、団体としての組織をそなえ、多数決で運営され、構成員が変わっても存続し、代表・総会・財産管理などの主要な点が確定している団体です(最判昭和39年10月15日)。

Q. 任意団体と権利能力なき社団は同じですか?

A. 任意団体は法人格のない団体を広く指す日常語です。そのうち4つの要件を満たすものが権利能力なき社団です。満たさないものは民法上の組合などとして扱われます。

Q. 人格なき社団とは違うのですか?

A. 法人税法では「人格のない社団等」(2条8号)と呼び、代表者又は管理人の定めがある法人でない社団又は財団を指します。場面によって呼び方が違うだけで、指している団体はほぼ重なります。

Q. 退会した会員に会費を返す必要はありますか?

A. 財産は構成員全員の総有とされ、定めがない限り元の構成員に持分の払戻請求権はありません(最判昭和32年11月14日)。規約に不返還を明記しておくと確実です。

Q. 団体名で不動産を登記できますか?

A. できません。代表者の個人名義か構成員全員の共有名義で登記します(最判昭和47年6月2日)。自治会は認可地縁団体になれば団体名義で登記できます(地方自治法260条の2)。

Q. 団体の借金を会員が払う必要はありますか?

A. 社団の債務は社団の総有財産だけが責任財産となり、構成員は個人的な責任を負わないとされています(最判昭和48年10月9日)。ただし代表者が個人で契約・保証していれば、その代表者は責任を負います。

Q. 権利能力なき社団は裁判を起こせますか?

A. 代表者又は管理人の定めがあれば、団体の名で訴え、訴えられることができます(民事訴訟法29条)。

Q. 税金はかかりますか?

A. 法人税法上は法人とみなされますが、納税義務は収益事業を行う場合などに限られます(法人税法3条・4条1項)。個別の判定は税理士または税務署に確認してください。


この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
  • 税務の取扱いは、収入の性質や事業の実態によって結論が変わります。具体的な判定や税額の計算については、税理士または所轄の税務署へご確認ください。

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