一般社団法人の理事が欠けたら?権利義務役員・一時役員・補欠選任を解説

一般社団法人法
理事が辞めて人数が足りない。この瞬間、法律は答えを用意しています。

理事が急に辞任した。任期が切れたのに改選を忘れていた。

一般社団法人の運営では、理事の欠員は珍しいトラブルではありません。

このとき法人はどうなるのか、誰が職務を続けるのか、何をいつまでにすべきなのか。

法律には、欠員の場面ごとの答えが用意されています。

この記事では、権利義務役員・一時役員・補欠選任という三つの仕組みと、実際の対応手順を解説します。

POINT 結論:任期満了か辞任で欠員が出た場合は、退任した理事が後任の就任まで「権利義務役員」として職務を続けます。死亡や解任の場合はこの仕組みが働かないため、速やかに後任を選ぶ必要があります。放置は過料の対象になり、後任決定後の変更登記は2週間以内です。

理事は何人必要か|員数のルール

まず、そもそも何人必要なのかを確認します。

理事会を置かない一般社団法人では、理事は1人以上いれば足ります。

理事会設置一般社団法人では、理事は3人以上が法律上の最低ラインです。

あわせて、理事会設置法人では監事も必ず置かなければなりません。

さらに、定款で「理事5名以内」「理事3名以上7名以下」のように独自の員数を定めている法人が多くあります。

法律の最低ラインを満たしていても、定款の下限を割れば、それも欠員です。

欠員かどうかの判定は、法律と定款の両方で行う。これが出発点です。

自分の法人の定款の役員条項を、まず確認してください。

欠員が生じる場面

欠員が生じる原因は、大きく五つあります。

第一に、任期満了です。理事の任期は原則2年で、改選を忘れると全員が同時に任期切れになります。

第二に、辞任です。理事と法人の関係は委任なので、理事はいつでも辞任の意思表示ができます。

第三に、死亡です。

第四に、解任です。社員総会の決議によって、理事はいつでも解任され得ます。

第五に、欠格事由への該当です。法律の定める欠格事由にあたると、その時点で理事の資格を失います。

このうちどの原因で欠けたかによって、次に説明する「権利義務役員」の仕組みが働くかどうかが変わります。

ここが、欠員対応でいちばん誤解の多いポイントです。

任期満了・辞任なら「権利義務役員」で職務が続く

法律は、任期の満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有すると定めています。

これがいわゆる権利義務役員です。

理事が辞任届を出しても、それで欠員になる場合には、後任が決まるまで理事としての職務と責任が続くということです。

法人の運営に空白を作らないための仕組みです。

注意すべき点が二つあります。

一つ目は、権利義務役員は「辞めたのに責任だけ残る」状態だという点です。

善管注意義務も損害賠償責任も、在任中と同じように負い続けます。

二つ目は、登記です。

権利義務役員である間は、退任の登記だけを先にすることができません。

後任が就任してはじめて、退任と就任をあわせて登記することになります。

「辞任届を出したのに登記が消えない」という相談の答えは、たいていここにあります。

死亡・解任のときは権利義務が生じない

権利義務役員の仕組みが働くのは、任期満了と辞任の場合だけです。

死亡や解任で欠けた場合には、権利義務役員は生じません

亡くなった理事に職務を続けさせることはできず、解任した理事に続けさせるのは制度の趣旨に反するからです。

つまり、死亡や解任で員数を割った瞬間から、法人には本当の空白が生まれます。

この場合は、速やかに社員総会を開いて後任を選ぶのが原則です。

急ぐ場面では、後で説明する書面決議(決議の省略)が役に立ちます。

代表理事が亡くなった場合は特に急務です。

契約の締結も、銀行の手続きも、法人を代表する人がいなければ止まってしまいます。

理事会設置法人なら理事会で新しい代表理事を選定し、非設置法人では定款の定めに従って選びます。

裁判所が選ぶ「一時役員」という最終手段

後任がすぐに決められない場合の備えも、法律にはあります。

必要があると認めるときは、裁判所が利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任できます。

実務で仮理事とも呼ばれる仕組みです。

社員同士の対立で総会が開けない、社員が誰もいなくなった、といった行き詰まりの場面で使われます。

申立てができる利害関係人には、社員や債権者などが含まれます。

裁判所が一時役員を選任した場合、法人がその人に支払う報酬の額も裁判所が定めることができます。

弁護士などの専門家が選任されるのが通例で、費用の負担は軽くありません。

あくまで最終手段であり、ここに至る前に後任選びを済ませるのが本筋です。

あらかじめ「補欠役員」を選んでおける

欠員への備えとして、法律は補欠役員の制度も用意しています。

役員が欠けた場合に備えて、補欠の役員をあらかじめ選任しておくことができるのです。

選び方は通常の役員と同じで、社員総会の決議によります。

欠員が出たら、その補欠者が就任し、改めて総会を開く必要がありません。

高齢の理事が多い法人や、任期途中の退任が続いている法人では、検討する価値があります。

補欠として選ばれただけの段階では、理事ではありません。

登記もされず、責任も負いません。

実際に欠員が生じ、就任の承諾をしたときから理事になります。

決議の際は、誰の補欠か、複数いる場合の優先順位、選任の効力がいつまで続くかを明確にしておきましょう。

後任を選ぶ手続き

後任理事の選任は、社員総会の決議で行います。

議決権の過半数を持つ社員が出席し、その過半数の賛成で決まる普通決議です。

急ぎの場合や社員が集まりにくい場合は、書面決議(決議の省略)が使えます。

社員全員が提案に書面やメールで同意すれば、総会を開かずに選任できます。

選ばれた人の就任承諾も忘れずに取ってください。

選任決議と就任承諾がそろって、はじめて理事に就任したことになります。

議事録には、選任の決議と就任承諾の事実を記録します。

この議事録が、次の登記の添付書類になります。

変更登記は2週間以内

役員が交代したら、2週間以内に主たる事務所の所在地で変更の登記をしなければなりません。

期限の起算点は、後任理事の就任日です。

権利義務役員が続いていた場合は、前任者の退任と後任者の就任を同時に申請します。

登記を怠ると、代表者個人が100万円以下の過料の対象になります。

そしてもう一つ、見落とされがちな過料があります。

員数が欠けたのに選任の手続きそのものを怠った場合も、過料の対象と定められているのです。

「登記さえ気をつければよい」のではなく、「後任を選ぶこと自体が義務」だと考えてください。

役員変更登記の具体的な手順と書類は、別記事で解説しています。

欠員を防ぐ日常の管理

欠員対応より大事なのは、欠員を作らないことです。

ポイントは三つあります。

第一に、任期の管理です。

理事の任期は原則2年。改選期の定時社員総会を任期管理の起点にして、カレンダーに固定してください。

任期満了に伴う再任でも、重任の登記が必要です。

第二に、辞任の申し出は早めに共有してもらうことです。

後任探しには時間がかかります。辞めたい人を引き止めるより、引き継ぎの期間を確保するほうが現実的です。

第三に、最低ラインぎりぎりの人数で運営しないことです。

理事会設置法人で理事3人ちょうどの体制は、1人欠けただけで法律違反の状態になります。

余裕を持った員数と補欠選任の併用が、いちばんの保険になります。

監事・会計監査人が欠けたとき

欠員の仕組みは、理事だけの話ではありません。

監事についても、任期満了・辞任で欠員となる場合は権利義務役員の仕組みが同じように働きます。

理事会設置法人では監事は必置なので、欠けたままの放置はできません。

会計監査人には、別のルールがあります。

会計監査人が欠けて遅滞なく選任されないときは、監事が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならないと定められています。

裁判所ではなく監事の義務とされている点が、役員の場合との違いです。

会計監査人を置くのは大規模法人が中心ですが、該当する法人では監事の職務として覚えておく必要があります。

監事の職務全般は、監事の解説記事をご覧ください。

ケース別対応の早見表

欠員の原因 前任者の職務 とるべき対応
任期満了 権利義務役員として継続 総会で改選→退任・就任を同時登記
辞任 権利義務役員として継続 後任選任→同時登記(欠員にならなければ単独で退任登記可)
死亡 継続しない(空白発生) 死亡の退任登記+速やかに後任選任
解任 継続しない(空白発生) 解任登記+速やかに後任選任
後任が決められない 裁判所へ一時役員の選任を申立て

迷ったら、この表で自分の法人がどの行にいるかを確認してください。

どの行でも共通するのは、後任の選任を先送りしないことです。

NPO法人の欠員ルールとの違い

同じ非営利の法人でも、NPO法人の欠員ルールは別の法律で決まっています。

NPO法人は、理事3人以上・監事1人以上が法律上の定数です。

そして、理事または監事の定数の3分の1を超える欠員が出たときは、遅滞なく補充しなければならないと明文で定められています。

一般社団法人には、この「3分の1」という基準はありません。

員数を欠いた時点で選任義務が生じる、というのが一般社団法人側の建て付けです。

NPO法人と一般社団法人の両方を運営している場合は、それぞれの物差しを混同しないでください。

NPO法人側の欠員対応は、NPO法人の役員定数の記事で解説しています。

よくある質問

Q. 理事が辞任したら、すぐに退任登記できますか?

A. 欠員が生じる場合はできません。任期満了・辞任で退任した理事は、後任が就任するまで権利義務役員として職務を続け、退任の登記は後任の就任登記と同時に行います。員数に余裕があり欠員にならない辞任であれば、単独で退任登記ができます。

Q. 権利義務役員の間も責任を負いますか?

A. 負います。権利義務役員は役員としての権利義務をそのまま有するため、善管注意義務や損害賠償責任も在任中と同じです。早く外れたければ、後任の選任を進めるしかありません。

Q. 理事が死亡した場合も前任者が職務を続けるのですか?

A. いいえ。権利義務役員の仕組みが働くのは任期満了と辞任の場合だけで、死亡や解任では生じません。速やかに後任を選任してください。死亡の場合の退任登記は、死亡を証する書面を添えて単独で申請できます。

Q. 後任がどうしても見つからないときは?

A. 裁判所に一時役員(仮理事)の選任を申し立てる方法があります。利害関係人の申立てにより、裁判所が職務を行うべき者を選任し、報酬額も裁判所が定め得ます。費用と時間がかかるため、まずは補欠選任や員数の見直しで予防するのが現実的です。

Q. 理事会設置法人で理事が2人になってしまいました。理事会は開けますか?

A. 法律上は理事3人以上が必要な状態を欠いています。任期満了・辞任による欠員なら退任者が権利義務役員として理事会の構成員にとどまるため、その人を含めて運営しつつ、速やかに後任を選任してください。選任手続きの放置自体が過料の対象です。

Q. 補欠役員はいつまで有効ですか?

A. 法律上の一律の期限はなく、選任決議で定めた内容によります。実務では、次の定時社員総会の開始時までなどと期限を区切って選任する例が多く、決議の際に有効期間を明記しておくのが安全です。


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