NPO法人が職員を雇うとき|社会保険は1人から・有償ボランティアの線引き

NPO法人
NPO法人でも、労働基準法も社会保険もそのまま適用されます。

活動が広がり、有給のスタッフを置くことになった。

ボランティアに交通費以上のお金を渡すようになった。

この段階で、NPO法人には雇う側としての義務が発生します。

非営利だから、小さな団体だから、という理由で免除される制度はありません。

この記事では、雇用に伴う手続きと、NPO法人でとくに問題になりやすいボランティアとの線引きを解説します。

POINT 結論:NPO法人にも労働基準法がそのまま適用されます。労災保険は労働者を1人でも使用すれば適用事業になり、健康保険・厚生年金は法人であれば人数を問わず強制適用です。雇用保険は週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みが基準。就業規則は常時10人以上で作成・届出の義務が生じます。

非営利でも労働法は同じように適用される

まず前提を確認します。

労働基準法は、事業の目的が営利か非営利かで適用を分けていません。

人を雇えば、株式会社と同じルールが適用されます

最低賃金を下回る賃金は違法ですし、残業には割増賃金が必要です。

「志ある活動だから」「みんなで支え合っているから」という理由は、法律上の言い訳になりません。

むしろ、社会的な信頼を看板にする団体だからこそ、労務の適正さは活動そのものの土台になります。

職員から労働基準監督署に相談が入れば、団体の評判に直結します。

設立当初から形を整えておくのが、結局いちばん安全です。

雇う前に決めること・渡すもの

採用が決まったら、条件を書面で示します。

労働基準法は、労働契約の締結に際して賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。

賃金や労働時間などの重要な事項は、書面などの定められた方法で明示する必要があります。

実務では労働条件通知書または雇用契約書を作成し、双方が保管します。

書くべき主な項目は次のとおりです。

契約期間(有期か無期か、更新の有無と判断基準)。

就業の場所と従事する業務。

始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇。

賃金の決定・計算・支払方法、締切日と支払日。

退職に関する事項(解雇の事由を含む)。

NPO法人では、助成金の期間に合わせた有期契約が多くなります。

更新の有無と判断基準を曖昧にしたまま採用すると、期間満了時にトラブルになりやすいので注意してください。

保険の手続き|どれが必要か

制度 適用の基準 窓口
労災保険 労働者を使用する事業に適用(1人でも)。保険料は全額事業主負担 労働基準監督署
雇用保険 週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み ハローワーク
健康保険・厚生年金 法人は人数を問わず強制適用(常時従業員を使用するもの) 年金事務所

とくに誤解が多いのが健康保険と厚生年金です。

個人事業では業種と人数(常時5人以上)で判定しますが、法人の場合は別の号で定められています。

国、地方公共団体または法人の事業所であって、常時従業員を使用するものが適用事業所です。

つまりNPO法人は、職員が1人でも強制適用の対象になり得ます。

「うちは小さいから社会保険には入れない」という思い込みは、この条文で崩れます。

代表者ひとりに役員報酬を払っている場合も、その報酬の有無や勤務実態によって加入対象になることがあります。

判断に迷う場合は年金事務所に確認してください。

設立後の届出全般は、専用の記事で一覧にしています。

就業規則は10人から

職員が増えてきたら、就業規則を意識します。

労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則を作成して行政官庁に届け出る義務を課しています。

この10人にはパートやアルバイトも含まれます。

10人未満なら義務はありませんが、作ってはいけないわけではありません。

5人前後の段階で作っておくと、休暇や服務のルールを口約束で運用せずに済みます。

記載しなければならない事項は、始業終業の時刻・休憩・休日・休暇、賃金の決定と支払、退職に関する事項などです。

退職手当や賞与の定めを置く場合も、その内容を記載します。

作成や変更のときは、労働者の過半数代表の意見を聴く手続きが必要です。

ひな形をそのまま使うと実態と合わなくなるため、自団体の運用に合わせて調整してください。

有給休暇は非常勤にもある

見落とされやすいのが年次有給休暇です。

雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10労働日の有給休暇を与えなければなりません。

その後は継続勤務年数に応じて日数が加算されます。

重要なのは、週2日勤務のパートにも比例して有給が発生するという点です。

所定労働日数が少ない人には、日数を按分した有給が与えられます。

「非常勤だから有給はない」という運用は誤りです。

また、年10日以上の有給が付与される労働者には、年5日を確実に取得させる義務があります。

小規模な団体ほど、有給の管理台帳が存在しないことが多いのが実情です。

入職日と付与日を一覧にした簡単な表を、最初の1人を雇った時点で作ってください。

NPO特有の論点|ボランティアとの線引き

ここがNPO法人でいちばん難しい部分です。

ボランティアは労働者ではないため、労働基準法も社会保険も適用されません。

しかし、実態が労働者なら、呼び名がボランティアでも労働者として扱われます

判断は名称ではなく実態で行われ、おおむね次のような点が見られます。

第一に、仕事の依頼を断る自由があるか。

第二に、業務の内容や進め方について具体的な指揮命令を受けているか。

第三に、勤務の場所と時間が拘束されているか。

第四に、報酬が労働の対価としての性格を持っているか。

シフトを組まれ、時間で拘束され、時給に近い形で謝礼が支払われている。

この状態は、名称がボランティアでも労働者と評価される可能性が高くなります。

いわゆる有償ボランティアは、この線の上を歩いている存在です。

有償ボランティアを安全に運用するには

では、どう整理すればよいのでしょうか。

第一に、実費弁償の範囲にとどめることです。

交通費や食事代の実費相当を支給する形なら、対価性は薄くなります。

第二に、金額を時間比例にしないことです。

時給◯円という決め方は、労働の対価という性格を強めます。

第三に、参加の自由度を確保することです。

来られる日に来てもらう、断っても不利益がない、という運用にします。

第四に、募集の文書で位置づけを明示することです。

「雇用ではなくボランティアとしての参加であること」「支給は実費相当であること」を書面で示します。

第五に、ボランティア活動保険に加入することです。

労災保険は労働者にしか適用されないため、ボランティアの事故には別の備えが必要になります。

⚠️それでも実態が労働なら労働者と判断される点は変わりません。

常時の戦力として組み込むなら、最初から雇用として整えるほうが結果的に安全です。

雇ったあとに毎月・毎年やること

雇用が始まると、定期的な事務が発生します。

毎月:給与計算、源泉徴収、社会保険料の控除と納付、労働時間の把握。

毎年:労働保険の年度更新(原則6月1日から7月10日まで)、社会保険の算定基礎届(7月)、年末調整(12月)、法定調書と給与支払報告書(1月)。

随時:入退職の手続き、住所や扶養の変更届。

このうち労働時間の把握は法律上の義務で、記録の保存も求められます。

タイムカードでも勤怠アプリでも構いませんが、自己申告のみに頼らない形にしてください。

源泉徴収の実務は、専用の記事で詳しく解説しています。

職員が数人を超えたら、社会保険労務士に外注することも検討してください。

手続きの漏れは、後から遡って求められると団体の資金を直撃します。

助成金で人を雇うときの注意

人件費を助成金でまかなう団体は多くあります。

このとき注意したいのが、契約期間と助成期間の関係です。

助成が1年で終わる可能性があるのに期間の定めのない契約で採用すると、資金が切れても簡単には辞めてもらえません。

解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で、資金難だけを理由にした解雇は認められないことがあります。

有期契約にする場合も、更新の期待を持たせる言動には注意してください。

何度も更新した後の雇止めは、実質的に解雇と同様に扱われることがあります。

募集の段階で、財源と契約期間の関係を正直に説明しておくのが誠実であり、団体を守ることにもなります。

また、助成金の対象経費に社会保険料の事業主負担分が含まれるかどうかも、申請前に確認してください。

人件費だけを見て予算を組み、法定福利費で足が出る例がよくあります。

役員が働く場合の扱い

理事が実際の業務も担っている団体は珍しくありません。

このとき、支払うお金の性格を整理しておく必要があります。

役員としての職務に対するものは役員報酬で、労働の対価ではありません。

一方、職員として勤務している実態があれば、その部分は使用人兼務的な扱いとなり、給与として整理されます。

労働者性が認められれば、労働時間の管理や有給休暇の対象にもなります。

また、NPO法には報酬を受ける役員の人数について制限があり、役員総数の3分の1以下とされています。

ここでいう報酬は役員としての報酬を指し、職員としての給与とは区別して考えます。

区別が曖昧なまま支払いを続けると、税務でも所轄庁への報告でも説明ができなくなります。

職務内容・勤務時間・支給額を書面で分けておいてください。

役員報酬の3分の1ルールは、専用の記事で詳しく解説しています。

最初の1人を雇うときの手順

最後に、最初の職員を雇うときの流れをまとめます。

第一に、労働条件を決めて労働条件通知書または雇用契約書を作成します。

第二に、労働基準監督署で労働保険関係成立届などの手続きを行います。

第三に、ハローワークで雇用保険の適用と資格取得の手続きを行います(週20時間以上かつ31日以上の見込みがある場合)。

第四に、年金事務所で健康保険・厚生年金の新規適用と資格取得の手続きを行います。

第五に、税務署へ給与支払事務所等の開設届出書を提出します。

第六に、賃金台帳・労働者名簿・出勤簿を整備します。この3つは法定帳簿です。

第七に、給与計算の仕組みを作ります。源泉徴収と社会保険料の控除が毎月発生します。

ここまでを最初の1人でやり切っておけば、2人目以降は同じ型を回すだけです。

不安があれば、最初の設定だけ社会保険労務士に依頼するという使い方もあります。

よくある質問

Q. NPO法人にも労働基準法は適用されますか?

A. 適用されます。労働基準法は事業の目的が営利か非営利かで適用を分けていません。最低賃金、割増賃金、有給休暇などのルールは株式会社と同じように適用されます。

Q. 職員1人でも社会保険に入る必要がありますか?

A. 法人の事業所であって常時従業員を使用するものは、人数を問わず健康保険・厚生年金の強制適用事業所とされています。個人事業のような「常時5人以上」という基準は法人には適用されません。判断に迷う場合は年金事務所に確認してください。

Q. 週2日のパートにも有給休暇は必要ですか?

A. 必要です。6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤していれば有給が発生し、所定労働日数が少ない場合は日数を比例付与します。「非常勤だから有給なし」という運用は誤りです。

Q. 就業規則はいつから必要ですか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する場合に、作成と行政官庁への届出が義務になります。パートやアルバイトも人数に含みます。10人未満でも、ルールを明確にするために作成しておくことをおすすめします。

Q. 有償ボランティアは労働者になりますか?

A. 名称ではなく実態で判断されます。依頼を断る自由がなく、指揮命令を受け、時間で拘束され、報酬が労働の対価と評価できる場合は労働者と扱われる可能性が高くなります。実費弁償の範囲にとどめ、参加の自由度を確保してください。

Q. ボランティアの事故は労災保険で補償されますか?

A. 労災保険は労働者を対象とする制度なので、労働者でないボランティアには適用されません。社会福祉協議会などが扱うボランティア活動保険への加入を検討してください。


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