公益法人の立入検査と勧告・命令|行政庁の監督は報告徴収→立入検査→勧告(公表)→命令→認定取消しの順に進む

公益法人
公益財団法人の事務局です。行政庁から「立入検査を行います」という連絡が来ました。
何を見られるのですか。断ることはできますか。何か問題が見つかったらどうなりますか。

公益法人は、公益認定を受けた代わりに行政庁の監督を受けます。ただし監督は無制限ではなく、認定法が「どこまで・どの順で」行えるかを決めています。報告徴収と立入検査(27条)→勧告と命令(28条)→公益認定の取消し(29条)という段階構造です。

根拠は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)の第三節「公益法人の監督」(27条〜31条)と、認定法施行規則(内閣府令)です。この記事では、立入検査で何を見られるのか、勧告を受けたら何が起きるのか、断るとどうなるのかを条文で整理します。取消しの後の財産の行方は公益認定の取消しの記事で扱っています。

監督は4段階 ― 全体の流れを先に押さえる

段階 行政庁ができること 公益法人側 条文
① 報告徴収 運営組織・事業活動の状況について報告を求める 報告書を提出する(様式・期限は行政庁が明示) 27条1項・規則63条
② 立入検査 職員が事務所に立ち入り、運営組織・事業活動・帳簿・書類その他の物件を検査し、関係者に質問する 拒めない。拒む・妨げる・忌避する・虚偽答弁=過料 27条1項・66条3号
③ 勧告 取消し事由(29条2項各号)に該当すると疑うに足りる相当な理由があれば、期限を定めて必要な措置を勧告。内容を公表 期限内に措置をとる。とらなければ次へ 28条1項・2項
④ 命令 正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったとき、措置をとるべきことを命令。その旨を公示 従わなければ取消し(必要的) 28条3項・4項・29条1項3号
⑤ 取消し 29条1項の事由なら取り消さなければならない、2項の事由なら取り消すことができる 名称は一般社団・財団法人へ戻る。公益目的取得財産残額を1か月以内に贈与 29条・30条
POINT 立入検査そのものは「悪いことをした法人」だけに来るものではありません。27条1項の要件は「事業の適正な運営を確保するために必要な限度」であり、定期的な検査として回ってくるものです。一方、勧告から先は取消し事由の疑いが前提で、ここから公表・公示という形で外に出ます。

報告徴収(27条1項前段)― 報告書の様式と期限は行政庁が明示する

行政庁は、公益法人に対し「運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告」を求めることができます。施行規則63条は、報告を求められた公益法人は報告書を提出しなければならないとし、行政庁は報告書の様式と提出期限その他必要な事項を明示すると定めています。

つまり、報告徴収は「何をいつまでに出すか」が行政庁側から示される手続きです。定期提出書類(21条・22条)を出したあとに、その内容について追加の説明を求められる形が典型です。報告をしない・虚偽の報告をすると、理事・監事に50万円以下の過料が科されます(66条3号)。

立入検査(27条1項後段)― 何を見られ、何を断れないか

行政庁は職員に、公益法人の事務所に立ち入らせ、運営組織及び事業活動の状況、帳簿、書類その他の物件を検査させ、関係者に質問させることができます。対象は帳簿と書類に限らず「その他の物件」まで含み、質問の相手も役員に限らず「関係者」です。

見られるもの(典型) 確認される観点 関係する基準
定款・登記事項証明書 認定時の定款どおりか。変更届出が出ているか 13条・5条19〜21号
理事会・社員総会・評議員会の議事録 実際に開催され、決議されているか。報酬の決め方 5条14号・一般法人法
会計帳簿・計算書類・財産目録 公益目的事業会計と収益事業等会計の区分。中期的収支均衡・公益目的事業比率・使途不特定財産額 14〜16条・19条
公益充実資金・予備財産の管理台帳 積立の根拠と目的が明細どおりか 規則23条・37条
役員・評議員の名簿と関係 特別利害関係者が3分の1を超えていないか。外部理事・外部監事の要件 5条10〜12号・15〜16号
寄附金・助成金の受入れと使途 特定の者に特別の利益を与えていないか 5条3〜4号
事業の実施記録(参加者名簿・成果物・広報物) 認定を受けた公益目的事業が実際に行われているか 5条1〜2号・11条

立入検査をする職員は身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があれば提示しなければなりません(27条2項)。来訪者が証明書を示せない場合は、応じる前に確認して構いません。

また、この立入検査の権限は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」とされています(27条3項)。行政監督のための検査であって、刑事手続きではありません。とはいえ、検査を拒む・妨げる・忌避する、質問に答えない・虚偽の答弁をすると、理事・監事に50万円以下の過料が科されます(66条3号)。正当な理由なく日程をずらし続けることも「忌避」と評価されるおそれがあります。

POINT 内閣総理大臣が行政庁の場合、27条1項の権限は公益認定等委員会に委任されています(59条1項)。実際に検査に来るのは内閣府の公益認定等委員会事務局(または都道府県の担当部局)の職員です。

立入検査の前に整えておくもの ― 書類は「備え置き」が前提

立入検査で見られる書類の多くは、認定法21条で主たる事務所に備え置くことが義務づけられているものです。事業計画書・収支予算書はその事業年度の末日まで、財産目録・役員等名簿・報酬等の支給基準・計算書類等は5年間です。検査当日に「クラウドにあるので後で送ります」では、備え置き義務(64条3号=30万円以下の罰金)の問題が別に立ちます。

検査前に事務局で確認すること

  • 定款の現行版と、直近の変更届出・変更認定の控えが揃っている
  • 直近5年分の財産目録・役員等名簿・報酬等の支給基準・計算書類等・事業報告が主たる事務所にある(21条2項)
  • 当該事業年度の事業計画書・収支予算書がある(21条1項)
  • 理事会・社員総会・評議員会の議事録が10年分ある(一般法人法97条・57条・193条)
  • 公益目的事業・収益事業等・法人運営の経理が区分して整理されている(19条)
  • 中期的収支均衡・公益目的事業比率・使途不特定財産額の計算明細が説明できる(規則46条)
  • 役員・評議員の親族関係と外部理事・外部監事の要件を一覧にしてある(5条10〜16号)
  • 定期提出書類の控えと、行政庁からの照会への回答の控えを時系列で綴じてある

勧告(28条1項・2項)― 期限つきで、内容は公表される

行政庁は、公益法人について29条2項各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合、期限を定めて、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができます(28条1項)。

29条2項の事由(勧告の前提)
1号 5条の認定基準のいずれかに適合しなくなった 公益目的事業比率が50%を割った。特別利害関係の理事が3分の1を超えた。外部理事がいなくなった
2号 第二節(14〜26条)の規定を守っていない 定期提出書類を出していない。使途不特定財産額の上限を超えている。19条の経理の区分をしていない
3号 法令や行政機関の処分に違反した 事業に必要な許認可を失った。税務上の重加算税

勧告には「期限」が付きます。そして勧告をしたときは、行政庁はその勧告の内容を公表しなければなりません(28条2項)。ここが勧告の重さです。勧告の内容が内閣府や都道府県のサイトで公開され、寄附者・取引先・会員が見られる状態になります。

勧告と命令をしようとするとき、行政庁は事由の区分に応じて関係機関の意見を聴くことができます(28条5項)。許認可が必要な事業なら許認可等行政機関、暴力団関係の欠格事由なら警察庁長官等、国税の滞納なら国税庁長官等です。取消しの場面でも同じ意見聴取が準用されます(29条3項)。

命令(28条3項・4項)― 正当な理由なく勧告に従わなかったとき

勧告を受けた公益法人が正当な理由がなく、勧告に係る措置をとらなかったときは、行政庁はその措置をとるべきことを命令できます(28条3項)。命令をしたときは、その旨を公示します(28条4項)。

「正当な理由」があれば命令には進みません。期限内に措置を終えられない事情(役員改選のための総会が期限後にしか開けない、など)があるなら、期限の前に行政庁へ説明し、記録に残すことが「正当な理由」の主張につながります。黙って期限を過ぎるのが最も不利です。

命令に正当な理由なく従わなかった場合は、29条1項3号により行政庁は公益認定を取り消さなければなりません。勧告の段階は「取り消すことができる」でしたが、命令違反は必要的取消しです。

取消し(29条)― 「取り消さなければならない」と「取り消すことができる」

区分 事由 条文
必要的取消し(取り消さなければならない) 欠格事由(6条各号・2号を除く)に該当した/偽りその他不正の手段で公益認定・変更認定・認可を受けた/正当な理由なく28条3項の命令に従わない/公益法人から取消しの申請があった 29条1項
裁量的取消し(取り消すことができる) 認定基準(5条各号)に適合しなくなった/第二節(14〜26条)を守っていない/法令・行政処分に違反した 29条2項

取消しがあると、名称中の「公益社団法人」「公益財団法人」は「一般社団法人」「一般財団法人」に変更する定款変更をしたものとみなされ(29条5項)、行政庁はその旨を公示します(29条4項)。取消しの日から1か月以内に公益目的取得財産残額に相当する財産を贈与する契約が成立しないときは、国または都道府県へ贈与する契約が成立したものとみなされます(30条)。

POINT 取消しは「勧告→命令」を経ずに、29条2項の事由が認められれば直接行うこともできます。勧告は取消しの前に必ず置かれる手続きではなく、行政庁が使える手段の一つです。ただし実務上は、是正の機会を与える勧告が先に来ることが通常です。

罰則の整理 ― 監督に関わるもの

行為 罰則 条文
報告をしない・虚偽の報告 理事・監事・清算人に50万円以下の過料 66条3号
立入検査を拒む・妨げる・忌避する 同上 66条3号
質問に答えない・虚偽の答弁 同上 66条3号
書類を備え置かない・虚偽記載 30万円以下の罰金(法人にも) 64条3号・65条
定期提出書類を出さない 50万円以下の過料 66条2号
命令に正当な理由なく従わない 公益認定の取消し(必要的) 29条1項3号

66条の過料の名宛人は理事、監事又は清算人です。法人ではなく役員個人に科されます。事務局が対応を誤ると、役員が過料を負う構造だということです。

この記事の位置づけ

本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。

  • 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。

勧告を受けたときの動き方

順番 やること 理由
勧告書の期限指摘事由(29条2項のどの号か)を特定する 措置の内容と証明の仕方が号ごとに違う
理事会を招集し、勧告の内容と対応方針を決議する。議事録に残す 「措置をとった」ことの証拠になる
期限内に終えられない部分があれば、期限前に行政庁へ事情と見込みを書面で説明する 28条3項の「正当な理由」を作る
措置を実施し、実施した事実を示す書類(改定した規程・議事録・修正した計算書類など)を提出する 勧告の解除・命令回避
公表された勧告内容への対外説明(会員・寄附者・取引先)を準備する 28条2項で公表されるため
再発防止として定期提出書類・経理の区分・役員構成の点検を年間スケジュールに組み込む 29条2項2号の再指摘を防ぐ

勧告の多くは、定期提出書類の不備や財務基準の逸脱といった書類で直せる事由です。期限内に直して証拠を出せば命令には進みません。逆に、役員構成や特別の利益のように事実を変えないと直らない事由は、総会・評議員会の開催が要るので、最初の理事会で日程まで決めてしまうことが要点です。

よくある質問

Q. 公益法人の立入検査は断れますか?

A. 断れません。認定法27条1項の立入検査を拒み、妨げ、または忌避すると、理事・監事・清算人に50万円以下の過料が科されます(66条3号)。職員は身分証明書を携帯しており、請求すれば提示されます(27条2項)。

Q. 立入検査では何を見られますか?

A. 運営組織と事業活動の状況、帳簿、書類その他の物件で、関係者への質問もあります(27条1項)。定款・議事録・会計帳簿・計算書類・財産目録・役員名簿・資金の管理台帳・事業の実施記録などが対象になります。

Q. 立入検査は問題のある法人だけに来るのですか?

A. いいえ。27条1項の要件は「事業の適正な運営を確保するために必要な限度」で、取消し事由の疑いは要件ではありません。勧告(28条)から先は、取消し事由に該当すると疑うに足りる相当な理由が前提です。

Q. 勧告を受けると公表されますか?

A. 公表されます。行政庁は勧告をしたときにその内容を公表しなければなりません(28条2項)。命令をしたときはその旨を公示します(同4項)。

Q. 勧告の期限に間に合わない場合はどうなりますか?

A. 正当な理由がなく措置をとらなかったときは命令に進みます(28条3項)。期限前に事情と見込みを行政庁に書面で説明し、記録に残しておくことが正当な理由の主張につながります。命令に正当な理由なく従わなければ公益認定は必ず取り消されます(29条1項3号)。

Q. 報告を求められたときの様式や期限はどう決まりますか?

A. 行政庁が報告書の様式と提出期限その他必要な事項を明示します(規則63条2項)。公益法人は報告書を提出しなければならず(同1項)、報告をしない・虚偽の報告をすると50万円以下の過料です(66条3号)。

Q. 内閣府と都道府県のどちらが検査に来ますか?

A. 行政庁が内閣総理大臣の法人は、27条1項の権限が公益認定等委員会に委任されているため(59条1項)、内閣府の委員会事務局の職員です。都道府県知事が行政庁の法人は都道府県の担当部局です。

Q. 過料は法人が払うのですか?

A. 66条の過料は理事、監事または清算人に科されます。法人ではなく役員個人が名宛人です。備え置き義務違反の罰金(64条3号)は法人にも科されます(65条)。

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