NPO法人の理事は、善良な管理者としての注意義務を負います。
職務を怠って損害が生じれば、賠償責任を問われることがあります。
ただし、通常の判断で結果が悪かっただけで責任を負うわけではありません。
この記事では、理事の責任の範囲と、備え方を解説します。
善良な管理者としての注意義務
理事は、法人との関係で委任に近い立場にあります。
そのため、善良な管理者としての注意義務を負います。
略して、善管注意義務と呼ばれます。
その立場にある人として、通常期待される注意を払う義務です。
専門家でなければ分からないことまで、求められるわけではありません。
ただし、必要な情報を集めずに決めるのは問題になります。
報告を受けず、確認もせずに承認するのは、注意を欠いた状態です。
理事会に出席せず、内容も把握していない場合も同様です。
名前だけの理事が危ないのは、この点にあります。
法人に対する責任
義務を怠って法人に損害を与えた場合、賠償責任を負うことがあります。
典型的なのは、明らかに不合理な支出を承認した場合です。
規程に反する取引を見過ごした場合も、問題になり得ます。
一方で、通常の業務判断で結果が悪かっただけでは責任は問われにくいものです。
事業がうまくいかず赤字になった、といった結果は判断の範囲です。
重要なのは、決めるまでの過程が適切だったかどうかです。
必要な情報を集め、理事会で議論し、記録を残していれば説明できます。
逆に、記録がまったくないと、経緯を証明する手段がありません。
議事録は、団体だけでなく理事自身を守るものです。
第三者に対する責任
理事は、第三者に対しても責任を負うことがあります。
ただし、要件は法人に対する場合より重くなっています。
職務を行うにあたって、悪意または重大な過失があった場合です。
悪意とは、知っていながらあえて行うことを指します。
重大な過失とは、著しく注意を欠いた状態です。
通常の過失であれば、第三者に対する責任は生じにくいと考えられます。
取引先への支払いが滞ったといった場面で、問題になり得ます。
資金の見通しが立たないのに契約を重ねると、危うくなります。
財政の状況を把握しておくことが、備えになります。
| 責任の相手 | 要件 | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| 法人に対して | 善管注意義務を怠ったこと | 不合理な支出の承認、規程違反の見過ごし |
| 第三者に対して | 悪意または重大な過失 | 見通しなく契約を重ねる |
| 過料(登記の懈怠) | 期限内に登記しなかったこと | 代表者個人に科される |
| 認証の取消し | 法令違反や報告の不提出 | 法人が対象(役員の責任も問われ得る) |
登記を怠ったときの過料
賠償責任とは別に、過料という制裁があります。
登記を期限内に行わなかった場合が、その代表です。
過料は、法人ではなく代表者個人に科されます。
代表理事の変更や、重任の登記が期限を過ぎた場合が典型です。
資産の総額の変更登記も、毎年の期限があります。
何年も放置していると、まとめて指摘されることがあります。
金額は事案によりますが、個人の負担になる点が重要です。
代表者を引き受けるなら、この点は理解しておきましょう。
年間の予定表に登記の時期を書き込むだけで、防げるものです。
責任を問われにくくする備え
理事の責任は、日ごろの運営で大きく変わります。
第一に、理事会に出席し、内容を把握することです。
欠席が続くと、把握していないこと自体が問題になります。
第二に、判断の材料をそろえてから決めることです。
資料が足りなければ、その場で決めずに次回に回します。
第三に、議事録に議論の経過を残すことです。
賛否の数だけでなく、どんな懸念が出たかも書きます。
第四に、反対した場合は、その旨を議事録に残すことです。
第五に、監事に見てもらう体制を保つことです。
この5つで、多くの場面は説明できるようになります。
- 理事会に出席し、議案の内容を理解する
- 判断に必要な資料を求める
- 疑問があれば、その場で質問する
- 反対や留保をした場合は議事録に残してもらう
- 定款と規程に目を通しておく
- 直近の事業報告書等を読んでおく
- 財政の状況を把握する
- 任期と登記の時期を把握する
名前だけの理事は危ない
頼まれて名前を貸しただけ、という理事は少なくありません。
しかし、法律上は他の理事と同じ責任を負います。
知らなかった、関わっていなかったという説明は通りにくいものです。
むしろ、把握していなかったこと自体が注意を欠いた状態とされます。
理事会に一度も出席していないなら、なおさらです。
就任を頼む側も、この点を説明する責任があります。
実際に関われない人に、無理に頼むのは避けましょう。
定数を埋めるためだけの就任は、双方にとって危険です。
関われないなら、賛助会員として応援してもらう形もあります。
監事の責任との違い
監事も、善管注意義務を負う点は理事と同じです。
違うのは、義務の中身です。
理事は業務の執行について、監事は監査について責任を負います。
監査を怠って不正を見逃した場合、責任を問われ得ます。
何も見ずに問題なしとするのが、いちばん危険な状態です。
実際に通帳と帳簿を確認し、記録を残しておきましょう。
監査報告を書面で作ることが、その証拠になります。
監事は理事や職員を兼ねられないため、独立した立場で見られます。
その独立性が、監事自身を守ることにもつながります。
保険という備え
役員賠償責任保険という備えもあります。
役員が賠償責任を負った場合に、補償を受けられる保険です。
事業の規模が大きいほど、検討する価値が高まります。
役員のなり手を探すときにも、材料になります。
責任が不安で断られる場面は、少なくありません。
ただし、保険料はほかの保険より高めに設定されています。
団体の財政に照らして、判断してください。
故意による行為は、保険の対象になりません。
保険は最後の備えであり、日ごろの運営が第一です。
就任を頼むときの説明
理事の就任を依頼するときは、正確に説明しましょう。
第一に、理事会の頻度と、1回あたりの時間を伝えます。
第二に、報酬の有無をはっきりさせます。
第三に、氏名と住所が公開されることを伝えます。
代表権を持つ理事なら、登記もされます。
第四に、善管注意義務を負うことを説明します。
過度に脅かす必要はありませんが、隠すのはよくありません。
第五に、任期が2年以内で、再任のたびに手続きがあることも伝えます。
定款と直近の事業報告書を渡すと、団体の姿がつかめます。
納得したうえでの就任が、長く続く関係を作ります。
利益相反になる場面
理事の責任で、意識しておきたいのが利益相反です。
理事個人と法人の利益が、ぶつかる場面を指します。
理事が経営する会社と、法人が取引する場合が典型です。
理事の所有する物件を、法人が借りる場合も同じです。
これらは、必ずしも禁止されているわけではありません。
ただし、価格の妥当性を説明できることが前提になります。
当事者である理事は、その議案の議決に加わらないのが適切です。
議事録には、その旨も記載しておきましょう。
相見積もりを取っておくと、説明がしやすくなります。
情報公開の対象になるため、外から見られる前提で判断してください。
報告を受ける立場としての責任
理事の多くは、日常の業務に関わっていません。
その場合、報告を受けて判断することになります。
ここで大切なのが、報告を鵜呑みにしないことです。
数字の裏づけを求める、資料を確認するといった姿勢が必要です。
疑問があれば、その場で質問しましょう。
質問しにくい雰囲気があるなら、それ自体が問題です。
事務局や理事長に、遠慮して聞かない状態は危険です。
結果として不正を見逃せば、責任を問われる側になります。
質問することは、団体を疑うことではありません。
確認する文化があること自体が、団体を守ります。
辞任しても責任は消えない
理事を辞めれば、その後の判断について責任は生じません。
しかし、在任中の行為についての責任は残ります。
辞任したから帳消しになる、という仕組みではありません。
問題に気づいて辞めるだけでは、解決にならないのです。
在任中に是正を求め、その記録を残すことが重要になります。
理事会で意見を述べ、議事録に残してもらいましょう。
それでも改まらない場合に、辞任という選択が出てきます。
辞任するときは、辞任届を出して記録を残します。
代表権のある理事なら、変更の登記も必要です。
登記が遅れると、責任を負う立場が続いて見えてしまいます。
情報公開が理事を守る
NPO法人には、事業報告書等を備え置く義務があります。
所轄庁への提出も、毎年必要です。
負担に感じられますが、理事を守る面もあります。
毎年決算をまとめ、外に出す前提があるからです。
不明な支出があれば、その過程で見つかります。
何年も放置されて発覚するより、はるかに軽く済みます。
外から見られることが、内部の緊張感につながります。
報告を出さない状態が続くと、認証の取消しもあり得ます。
その場合、役員の責任も問われる可能性が出てきます。
毎年の提出を守ることが、いちばん基本的な備えです。
理事の責任のまとめ
NPO法人の理事は、善良な管理者としての注意義務を負います。
怠って法人に損害を与えれば、賠償責任を負うことがあります。
第三者に対しては、悪意または重大な過失がある場合に責任が生じます。
通常の業務判断で結果が悪かっただけでは、責任は問われにくいものです。
重要なのは、判断の過程を議事録に残しておくことです。
登記を怠った場合の過料は、代表者個人に科されます。
名前だけの理事も同じ責任を負うため、就任前の説明が欠かせません。
辞任しても、在任中の行為についての責任は残ります。
毎年の事業報告書等の提出を守ることが、最も基本的な備えになります。
理事会に出席し、資料を確認し、記録を残す。この3つが土台です。
よくある質問
A. 法人に対して善良な管理者としての注意義務を負い、怠って損害を与えれば賠償責任を負い得ます。第三者に対しては、悪意または重大な過失がある場合に責任が生じます。
A. 通常の業務判断で結果が悪かっただけでは、責任は問われにくいものです。必要な情報を集め、理事会で議論し、記録を残していれば説明できます。
A. あります。法律上は他の理事と同じ責任を負い、把握していなかったこと自体が注意を欠いた状態とされます。関われない人に無理に頼むのは避けましょう。
A. 反対した旨を議事録に残しておくことが重要です。議論の経過とあわせて記録があれば、自分の立場を説明できます。
A. 登記を怠った場合の過料は、代表者個人に科されます。法人ではありません。年間の予定表に登記の時期を書き込むだけで防げます。
A. 役員賠償責任保険があります。事業の規模が大きいほど検討する価値があり、なり手を探すときの材料にもなります。ただし故意による行為は対象外です。
📖 参考にした公的機関の情報


