公証役場とは、法務大臣が任命した公証人が、公正証書の作成や書類の認証を行う事務所です(公証人法11条・18条)。市役所や法務局のような役所に見えますが、公証人は国家公務員ではなく、手数料収入で独立して執務する公務員という独特の立場にあります。
一般社団法人・一般財団法人をつくる人にとって、公証役場は設立手続きで必ず一度は通る場所です。設立時の定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じないと条文に書かれているからです(一般法人法13条・155条)。逆に、NPO法人をつくる人は公証役場に行きません。同じ「非営利の法人」でも、ここで道が分かれます。
この記事では、公証役場が何をする場所なのか、どこの役場へ行けばよいのか、いくらかかるのか、当日は何を持っていくのかを、公証人法と公証人手数料令の条文に沿って順に整理します。公証人法は2025年10月1日の改正で条文番号が大きく動いたので、番号は改正後の現行のもので示します。
公証役場とは ― 公証人が「後で争いにならない書類」をつくる事務所
公証役場は、公証人が執務するために法務大臣の指定した地に設ける事務所です(公証人法18条1項)。公証人は原則としてこの役場で職務を行います(同条2項)。全国の公証役場は日本公証人連合会がまとめており、どの役場も法務局または地方法務局のいずれかに所属しています。
公証人になれるのは、一定の試験に合格して6か月以上の実地修習を経た人ですが、裁判官・検察官・弁護士の資格を持つ人は試験と修習を経ずに任命されます(公証人法12条・13条)。任命するのは法務大臣で、同時にどの法務局に所属するかを指定します(同法11条)。定年にあたる定めもあり、70歳に達したときは法務大臣が免ずることができるとされています(同法15条1項3号)。
公証人が受け取れるのは手数料・送達料金・登記手数料相当額・日当・旅費だけで、それ以外の名目で報酬を受けることはできません(公証人法7条)。金額は政令である公証人手数料令で全国一律に決まっているため、役場によって値段が変わることはありません。
なお、日本公証人連合会は、公証業務に関する相談は無料であると案内しています。定款のドラフトを事前にメールで送って直してもらう、という進め方が実務では一般的です。
公証役場でできること ― 大きく4種類
公証人の権限は公証人法1条に列挙されています。大きく分けると、公正証書の作成、私署証書の認証、定款の認証、電磁的記録の認証の4つです。これに確定日付の付与が加わります。
法人設立で関係するのは3つ目の定款認証ですが、法人の運営が始まったあとも、金銭消費貸借契約を公正証書にする、海外へ出す書類に認証をもらう、契約書にその日に存在したことの証明(確定日付)をもらう、といった場面で公証役場を使うことがあります。
| 公証役場でできること | 内容 | 費用の目安と根拠 |
|---|---|---|
| 公正証書の作成 | 遺言・金銭消費貸借・任意後見契約などを公証人が作成する。強制執行が可能な債務名義になるものもある | 目的の価額に応じて3,000円〜(手数料令9条別表) |
| 私署証書の認証 | 自分でつくった書類の署名や押印が本人のものであることを公証人が証明する | 1万1,000円(同34条1項)。外国語のときは6,000円加算(同条3項) |
| 定款の認証 | 株式会社・一般社団法人・一般財団法人などの設立時の定款を認証する | 一般社団・一般財団は5万円(同35条3号) |
| 電磁的記録の認証(電子定款など) | PDFの定款に電子署名をして認証を受ける。法務大臣が指定した「指定公証人」が扱う | 定款は書面と同じ(公証人法59条1項) |
| 確定日付の付与 | その文書がその日に存在したことを証明する | 700円(手数料令37条) |
一般社団法人・一般財団法人は定款認証が必須、NPO法人は不要
一般社団法人の設立時の定款は、公証人の認証を受けなければその効力を生じません(一般法人法13条)。一般財団法人も同じで、155条が同じ定めを置いています。認証を受けていない定款では設立登記が通らないため、事実上の必須手続きです。
ここで混同しやすいのがNPO法人です。NPO法人の設立にも「認証」という言葉が出てきますが、これは所轄庁(都道府県知事など)が行う設立の認証であって、公証人の定款認証とはまったく別の制度です。公証人法1条3号と57条が定款認証の対象として挙げているのは会社法30条1項と一般法人法13条・155条だけで、NPO法は入っていません。
つまり、NPO法人をつくる人が公証役場へ行く場面はないということです。同じ非営利の法人格でも、設立の入口が違います。
もうひとつよく聞かれるのが「定款を変更したらまた認証が必要か」です。公証人の認証が必要なのは設立当初の定款(原始定款)だけで、成立後に社員総会の決議で定款を変更したときに、あらためて認証を受ける必要はありません。
| 法人格 | 設立時の定款に公証人の認証が必要か | 根拠 |
|---|---|---|
| 一般社団法人 | 必要 | 一般法人法13条 |
| 一般財団法人 | 必要 | 一般法人法155条 |
| 株式会社 | 必要 | 会社法30条1項 |
| NPO法人(特定非営利活動法人) | 不要(所轄庁の設立認証は別に必要) | 公証人法1条3号・57条に掲げられていない |
| 合同会社・合名会社・合資会社 | 不要 | 同上 |
| 公益社団法人・公益財団法人 | 一般法人として設立する段階で必要 | 一般法人法13条・155条 |
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
どこの公証役場へ行くのか ― 主たる事務所の所在地で決まる
公証役場は好きなところを選べません。定款認証の事務は、法人の本店または主たる事務所の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人が取り扱うと定められています(公証人法57条)。公証人の職務執行区域が、その所属する法務局の管轄区域に限られているためです(同法17条)。
実務上は都道府県単位で考えれば足りることがほとんどです。名古屋市に主たる事務所を置く一般社団法人であれば愛知県内の公証役場、横浜市であれば神奈川県内の公証役場、という具合です。県内であれば、その中のどの役場を選んでも構いません。
日本公証人連合会は、管轄区域外の公証人がした定款認証は無効になると注意を促しています。設立の登記まで進んでから気づくと取り返しがつかないので、事務所の住所を決めたら、先に管轄を確認してください。
なお、設立時の定款を認証したあとで主たる事務所を別の法務局の管内へ移した場合は、あらためてその地の公証人の認証を受ける必要が出てきます。住所が固まる前に急いで認証を受けない、というのが安全な順序です。
費用 ― 一般社団法人・一般財団法人は一律5万円
定款認証の手数料は公証人手数料令35条が定めています。1号と2号は株式会社・特定目的会社を資本金の額で区切ったもので、3号が「前2号に掲げる場合以外の場合」として5万円です。一般社団法人と一般財団法人には資本金がないため、必ず3号にあたり、規模にかかわらず5万円になります。
「定款認証は3万円から5万円」という説明を見かけますが、それは株式会社の話です。資本金100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円という階層で、さらに発起人が3人以下の自然人だけで取締役会を置かないなどの要件をすべて満たす小規模な株式会社は1万5,000円まで下がります(同条1号)。一般社団法人にこの階層は適用されません。
これに謄本の交付手数料が加わります。定款の謄本は1枚250円で(手数料令40条2項)、設立登記に添付する分として通常1通を請求します。ページ数にもよりますが、2,000円前後を見ておけば足ります。
よく質問されるのが収入印紙です。一般社団法人・一般財団法人の定款には、紙で作成しても収入印紙は不要です。印紙税法の別表第一第6号文書が課税の対象としているのは「会社」の設立のときに作成される定款の原本に限られているためで、そもそも課税文書に当たりません。したがって、電子定款にしても4万円の節約が生じるという話は一般社団法人には当てはまりません。
| 項目 | 一般社団法人・一般財団法人 | 株式会社 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 定款認証の手数料 | 5万円(一律) | 3万円/4万円/5万円(資本金の額等による。要件を満たす小規模な会社は1万5,000円) | 公証人手数料令35条 |
| 謄本の交付手数料 | 1枚250円 | 1枚250円 | 同40条2項 |
| 定款に貼る収入印紙 | 不要(紙でも課税文書でない) | 紙の定款は4万円。電子定款なら不要 | 印紙税法 別表第一 第6号文書 |
| 設立登記の登録免許税 | 1件につき6万円 | 資本金の1000分の7(15万円に満たないときは15万円) | 登録免許税法 別表第一 24号(一)ロ・イ |
当日の持ち物と流れ ― 定款は2通、印鑑証明書は3か月以内
書面の定款で認証を受けるときは、定款2通を提出します(公証人法58条1項)。公証人が認証をしたうえで1通を役場の保存用として保管し、もう1通を返してくれる仕組みです(同条3項)。実務では、これに登記申請用の謄本を加えて3通分を用意します。
本人確認のため、設立時社員(一般財団法人では設立者)全員の印鑑登録証明書が必要です。発行後3か月以内のものに限られます。設立時社員が法人であるときは、その代表者の印鑑登録証明書に加えて、法人の登記事項証明書も求められます。
設立時社員が全員で出向くのが難しいときは、委任状を用意して代理人が行くことができます。委任状には実印を押し、印鑑登録証明書を添えます。
さらに、定款認証のときは法人の成立時に実質的支配者となるべき者の氏名・住居・生年月日を申告しなければなりません(公証人法施行規則46条1項)。あわせて、その人が暴力団員などに該当するかどうかも申告します。マネー・ロンダリング対策として2018年に入った手続きで、多くの一般社団法人では代表理事に就く予定の人がこれにあたります。
- 定款 2通(袋とじまたは各葉に契印。設立時社員全員が署名または記名押印)+登記申請用に1通
- 設立時社員(設立者)全員の印鑑登録証明書(発行後3か月以内)
- 代理人が行くときは委任状(実印を押印)と代理人の本人確認書類
- 実質的支配者となるべき者の申告書(役場の書式。事前にメールでやり取りすることが多い)
- 手数料 5万円+謄本代(現金またはクレジットカード)
- 訂正に備えた設立時社員の実印(捨印があると当日の直しが早い)
いきなり訪ねるのではなく、先に電話かメールで連絡し、定款の案をデータで送って点検してもらってから訪問日を決めるのが通常の流れです。公証人の点検で直しが入ることは珍しくないので、登記の予定日から逆算して10日ほどの余裕を見ておくと安心です。
2025年10月1日から ― 公正証書のデジタル化と、役場に行かずに済む手続き
公証人法は2025年(令和7年)10月1日に改正法が施行され、法務大臣が指定する公証人が作成する公正証書は、原則として電磁的記録で作成されることになりました。従来は紙に署名押印したものが原本でしたが、PDFの電磁的記録に列席者が電子サインを付し、公証人が電子署名を付したものが原本になります。
この改正で、公正証書は嘱託人の申出があり公証人が相当と認めれば、ウェブ会議で作成できるようになりました。認証についても、公証人と列席者が映像と音声の送受信で互いの状態を認識しながら通話する方法で手続きができると定められています(公証人法52条2項、定款認証には58条4項が準用)。このとき公証人は、通話者が誰かと、その人のいる場所の状況が手続きに適しているかを確認します(公証人法施行規則38条)。
電子定款の認証は、これとは別に以前から可能です。PDFで作成した定款に電子署名を付し、電子情報処理組織を使って指定公証人に提供する方法で嘱託します(公証人法59条1項、同施行規則47条1項)。ただし電子署名にはマイナンバーカードの署名用電子証明書などが必要で、個人で用意するとかえって手間がかかることもあります。
また日本公証人連合会は、東京都・福岡県の公証役場で、同会の定款作成支援ツールを使った場合に48時間以内に認証手続を完了させる試行を行っていると案内しています。対象は小規模でシンプルな株式会社ですが、定款認証の期間短縮が進んでいる方向は読み取れます。
公証役場は全国284か所 ― 数え方と分布
日本公証人連合会の「公証役場一覧」を47都道府県分すべて集計すると、公証役場は全国で284か所ありました(2026年9月11日時点の同会サイトの掲載に基づく筆者集計)。役場の統廃合があるため数は変動します。
内訳を見ると、東京都が45か所と突出しており、神奈川県15か所、北海道13か所と続きます。愛知県・大阪府・福岡県がそれぞれ11か所です。いっぽうで徳島県と高知県は1か所しかなく、秋田県・山梨県・奈良県・島根県・香川県・佐賀県・沖縄県は2か所です。
公証役場が1か所しかない県では、県内のどこに主たる事務所を置いてもその役場へ行くことになります。移動距離が読めるので、認証の日程は早めに押さえておきたいところです。
| 区分 | 都道府県 | 役場数 |
|---|---|---|
| 多い | 東京 | 45 |
| 神奈川 | 15 | |
| 北海道 | 13 | |
| 愛知・大阪・福岡 | 各11 | |
| 千葉・埼玉・兵庫 | 各10 | |
| 少ない | 徳島・高知 | 各1 |
| 秋田・山梨・奈良・島根・香川・佐賀・沖縄 | 各2 | |
| 全国計 | 47都道府県 | 284 |
公証役場についてよくある質問
A. はい。公正証書の作成や書類の認証は、嘱託(依頼)があれば誰でも利用できます。公証業務に関する相談は無料であると日本公証人連合会が案内しています。ただし定款認証など一部の手続きには管轄の定めがあります(公証人法57条)。
A. 一律5万円です(公証人手数料令35条3号)。一般社団法人・一般財団法人には資本金がないため、株式会社のような資本金による階層は適用されません。これに謄本代が1枚250円かかります(同40条2項)。
A. 受けられません。法人の主たる事務所の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人が取り扱います(公証人法57条)。管轄区域外の公証人がした認証は無効になると日本公証人連合会が注意を促しています。
A. 行きません。公証人が認証する定款として公証人法1条3号・57条が挙げているのは会社法30条1項と一般法人法13条・155条だけで、NPO法は含まれていません。NPO法人の「認証」は所轄庁が行う設立の認証で、別の制度です。
A. 必要ありません。印紙税法の別表第一第6号文書が課税対象としているのは「会社」の設立のときに作成される定款の原本に限られるため、一般社団法人の定款は紙で作成しても課税文書に当たりません。したがって電子定款にしても印紙代の節約は生じません。
A. 不要です。公証人の認証が必要なのは設立当初の定款だけで、成立後に社員総会の決議で定款を変更したときにあらためて認証を受ける必要はありません。
A. ウェブ会議による方法が認められています。嘱託人からの申出があり、公証人が相当と認めるときは、公証人と列席者が映像と音声の送受信で互いの状態を認識しながら通話する方法で認証ができます(公証人法52条2項、定款認証には58条4項が準用)。可否と段取りは認証を受ける公証役場に確認してください。
A. 日本公証人連合会の公証役場一覧を47都道府県分集計すると、2026年9月11日時点で284か所です。最多は東京都の45か所、最少は徳島県と高知県の各1か所です。統廃合により数は変わります。
📖 参考にした公的機関の情報

