理事が任務を怠って法人に損害を与えたとき、その賠償責任は原則として免除できません。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法」)112条は、法人に対する損害賠償責任は総社員の同意がなければ免除できないと定めているからです。ただし、法は例外として3つの軽減ルートを用意しています。社員総会の決議による一部免除(法113条)、定款の定めに基づく理事会等の決議による一部免除(法114条)、そして責任限定契約(法115条)です。
この記事では、4つの道の要件と限度額の考え方を条文に沿って整理します。理事のなり手が見つからない、監事を頼みたいが責任が心配だと言われた、という場面で使える知識です。
前提|免除の対象になるのはどの責任か
ここで扱うのは、法111条1項の責任です。理事、監事、会計監査人(法はまとめて「役員等」と呼びます)がその任務を怠ったときに、法人に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う、という規定です。あくまで法人に対する責任であり、取引先や利用者など第三者に対する責任(法117条)は、この免除制度の対象ではありません。
第三者に対する責任は、役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときに生じます(法117条1項)。法人の中で「免除します」と決議しても、外部の第三者が持つ請求権が消えるわけではありません。ここを取り違えると、免除の決議をしたから安心だ、という誤解につながります。
また、利益相反取引が絡むときは推定規定が働きます。法111条2項は、法84条1項1号の取引(理事が自己または第三者のために法人と取引する場合)に違反したときは、理事や第三者が得た利益の額を損害の額と推定すると定めます。同条3項は、間接取引などで法人に損害が生じたとき、取引をした理事・決定した理事・理事会で賛成した理事は任務を怠ったものと推定すると定めます。
ルート1|全部免除は総社員の同意(法112条)
法112条は一文だけの条文です。「前条第一項の責任は、総社員の同意がなければ、免除することができない」。総社員ですから、社員1人でも反対すれば免除できません。総会に出席した社員の多数ではなく、社員全員の同意が要ります。
社員が数人の小さな法人であれば現実的な方法ですが、社員が数十人・数百人いる法人ではまず成立しません。そこで実際には、次に説明する一部免除のルートを検討することになります。
同意の取り方について条文は形式を定めていませんが、後で争いにならないよう書面で残すのが実務です。誰のどの責任を、いくら免除するのかを特定し、社員全員の署名または記名押印をそろえておきます。
ルート2|社員総会の決議による一部免除(法113条)
法113条は、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときに限り、賠償の責任を負う額から最低責任限度額を控除して得た額を限度として、社員総会の決議で免除できると定めます。言い換えると、最低責任限度額の部分はどうやっても残るということです。
最低責任限度額は、その役員等が在職中に法人から職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額(法務省令で定める方法により算定)に、次の数を掛けて計算します(法113条1項2号)。
| 区分 | 掛ける数 |
|---|---|
| 代表理事 | 6 |
| 代表理事以外の理事で、理事会の決議によって業務を執行する理事として選定された者 | 4 |
| 業務を執行した理事、法人の使用人である理事 | 4 |
| 上記以外の理事、監事、会計監査人 | 2 |
たとえば報酬が年120万円の代表理事であれば、最低責任限度額は720万円です。損害が1000万円なら、免除できるのは差額の280万円までということになります。報酬をまったく受けていない無報酬の理事であれば、1年間当たりの額はゼロですので、計算上は最低責任限度額もゼロとなり、全額を免除の対象にできる、という整理になります。
手続にも決まりがあります。理事は、免除の議案を出す社員総会で次の3つを開示しなければなりません(法113条2項)。①責任の原因となった事実および賠償の責任を負う額、②免除できる額の限度およびその算定の根拠、③責任を免除すべき理由および免除額です。数字と理由を社員の前に出させることで、身内でこっそり免除することを防いでいます。
さらに、監事設置一般社団法人では、理事の責任の免除に関する議案を社員総会に提出するには、監事全員の同意を得なければなりません(法113条3項)。監事が2人以上いる場合は、各監事の同意が必要です。
免除の決議をした後に、その役員等へ退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、あらためて社員総会の承認が必要です(法113条4項)。免除しておいて別の名目で払い戻す、という抜け道をふさぐ規定です。
ルート3|定款の定めによる免除(法114条)
毎回社員総会を開くのが難しい場合に備えて、法114条は定款にあらかじめ定めておく方法を用意しています。これを使えるのは監事設置一般社団法人で、理事が2人以上いる場合に限られます。
定款には、責任の原因となった事実の内容、その役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときに、法113条1項で免除できる額を限度として、理事(責任を負う理事を除く)の過半数の同意、理事会設置法人であれば理事会の決議によって免除できる旨を定めます。この場合も、善意でかつ重大な過失がないことが前提です。
ただし社員の関与がなくなるわけではありません。定款の定めに基づいて免除の同意(理事会設置法人では理事会の決議)を行ったときは、理事は遅滞なく、法113条2項各号の事項と、異議があれば一定の期間内に述べるべき旨を社員に通知しなければなりません(法114条3項)。この期間は1か月を下ることができません。
そして、責任を負う役員等を除いた総社員の議決権の10分の1以上(定款で下回る割合を定めればその割合)を持つ社員が期間内に異議を述べたときは、法人は免除をしてはなりません(法114条4項)。社員に事後的な拒否権を残すことで、理事会だけで完結しないようにしているのです。
ルート4|責任限定契約(法115条)
責任限定契約は、あらかじめ責任の上限を決めておく契約です。結べる相手は非業務執行理事等に限られます。具体的には、業務執行理事(代表理事、理事会の決議で業務を執行する理事として選定された者、実際に業務を執行したその他の理事)でも使用人でもない理事、監事、会計監査人です。現場を動かしている理事は対象外で、外部から迎えた非常勤の理事や監事を想定した制度だと理解すると分かりやすいでしょう。
使うには定款の定めが必要です。契約で定められる限度は、定款で定めた額の範囲内であらかじめ法人が定めた額と、最低責任限度額とのいずれか高い額です。つまり、最低責任限度額を下回る上限を設定することはできません。
注意したいのは、契約を結んだ非業務執行理事等がその法人の業務執行理事や使用人に就任したときです。この場合、責任限定契約は将来に向かってその効力を失います(法115条2項)。非常勤だった理事が代表理事になった、事務局長を兼ねることになった、という変化があれば、契約は使えなくなります。
また、契約の相手方である非業務執行理事等が任務を怠ったことにより法人が損害を受けたと知ったときは、法人はその後最初に招集される社員総会で、責任の内容や契約を締結した理由、賠償責任を負わないとされた額などを開示しなければなりません(法115条4項)。
| ルート | 根拠 | 決める人 | 限度 | 主な条件 |
|---|---|---|---|---|
| 全部免除 | 法112条 | 総社員の同意 | 制限なし | 社員全員の同意 |
| 一部免除 | 法113条 | 社員総会の決議 | 最低責任限度額まで | 善意・無重過失/監事全員の同意/3項目の開示 |
| 一部免除 | 法114条 | 理事の過半数または理事会 | 最低責任限度額まで | 定款の定め/監事設置かつ理事2人以上/社員へ通知し1か月以上の異議期間 |
| 責任限定契約 | 法115条 | 契約 | 定めた額と最低責任限度額の高い方 | 定款の定め/非業務執行理事等に限る |
よくある誤解|「保険に入っているから免除は不要」ではない
役員賠償責任保険は、責任が生じたときに保険会社が保険金を支払う仕組みで、責任そのものを消す制度ではありません。免責金額や保険期間、故意による行為の除外など、契約ごとの条件もあります。免除の制度と保険は役割が違うので、どちらか一方があれば足りるという関係ではありません。
もう一つの誤解が、定款に「理事は責任を負わない」と書けば足りる、というものです。法113条から115条までの枠を超えて責任を消す定款の定めは効力を持ちません。定款に書けるのは、あくまで法114条の免除の定めと、法115条の責任限定契約を結べる旨です。
なお、責任の免除はすでに発生した責任を対象にする制度で、責任限定契約はこれから生じる責任に備える制度です。時間の向きが逆である点を押さえておくと、どちらを使う場面なのか迷いません。
実務|定款と議事録に何を残すか
第一に、定款です。法114条の免除を使うなら「理事会の決議によって、法令の限度において役員等の責任を免除することができる」旨の条項を、法115条の責任限定契約を使うなら「非業務執行理事等との間で責任限定契約を締結することができる」旨の条項を置きます。定款を変更してこれらの定めを新設する議案を社員総会に出すときは、監事全員の同意が必要です(法114条2項・115条3項が法113条3項を準用)。
第二に、議事録です。免除の決議をした社員総会や理事会の議事録には、開示した3つの事項と、計算した最低責任限度額、その算定の根拠となった報酬額を残しておきます。後から「いくらまで免除したのか分からない」となると、免除の効力そのものが争いの種になります。
第三に、通知の記録です。法114条のルートでは、社員への通知と1か月以上の異議期間が要件になります。いつ、どの方法で、誰に通知したのかを残しておかないと、要件を満たしたことを説明できません。
第四に、就任状況の管理です。責任限定契約は、相手が業務執行理事や使用人になった時点で将来に向かって失効します。役員の役割が変わったときに契約を見直す運用にしておかないと、効いていない契約を頼りにしてしまいます。
よくある質問
A. いいえ。法113条の決議で免除できるのは最低責任限度額を超える部分だけです。全部免除には総社員の同意が必要です(法112条)。
A. 最低責任限度額は報酬等の1年間当たりの額を基礎に計算しますので、報酬がなければ計算上はゼロになります。実際の算定は法務省令の方法によりますので、専門家に確認してください。
A. 結べません。対象は非業務執行理事等(業務執行理事でも使用人でもない理事、監事、会計監査人)に限られます(法115条1項)。
A. 法113条から115条までのルートはいずれも善意でかつ重大な過失がないことが前提です。重過失があるときは、総社員の同意による免除しか残りません。
A. 止まりません。ここで扱うのは法人に対する責任の免除です。第三者に対する責任(法117条)は別の制度です。
まとめ
一般社団法人の役員等が法人に対して負う損害賠償責任は、原則として総社員の同意がなければ免除できません。例外として、社員総会の決議による一部免除、定款の定めに基づく理事会等による一部免除、責任限定契約の3つがありますが、いずれも善意でかつ重大な過失がないことが前提で、最低責任限度額は残ります。
実務では、理事や監事を引き受けてもらう段階で、定款に法114条・法115条の根拠条項があるかを確認しておくことが大切です。条項がなければ、いざというときに使えるのは総社員の同意だけになります。具体的な金額の算定や、個別の事案での可否については、弁護士や司法書士にご相談ください。
📖 参考にした公的機関の情報


