一般社団法人の社員の除名|正当な事由・特別決議・弁明の機会を解説

一般社団法人法
除名は最後の手段です。手続きを一つでも飛ばすと、決議ごと無効になりかねません。

会費を何年も払わない社員がいる。

法人の活動を妨害する社員がいる。

そんなとき、法律は社員の除名という手続きを用意しています。

ただし、多数決で簡単に追い出せる制度ではありません。

この記事では、除名が認められる条件、通知と弁明の機会、社員総会の決議要件までを、条文にそって解説します。

POINT 結論:社員の除名は「正当な事由があるとき」に限られ、社員総会の特別決議(総社員の半数以上かつ総社員の議決権の3分の2以上)が必要です。さらに、総会の1週間前までに本人へ通知し、総会で弁明の機会を与えなければなりません。除名後は本人に通知しないと、その効力を本人に主張できません。

社員の除名とは

除名とは、法人の意思で社員の地位を失わせることです。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の第30条に定められています。

条文は正当な事由があるときに限り、社員総会の決議によってすることができると書いています。

ここでいう社員は、従業員ではありません。

社員総会で議決権を持つ、法人の構成員のことです。

除名は、その人の議決権と地位を一方的に奪う行為です。

だからこそ、要件と手続きが厳格に定められています。

「気に入らないから」「方針が合わないから」では通りません。

社員の地位については、社員とは何かの記事もあわせてご覧ください。

退社との違い|社員がいなくなる4つの経路

社員でなくなる経路は、除名だけではありません。

第一に、任意退社です。社員はいつでも退社できます。定款で別段の定めを置くことはできますが、やむを得ない事由があるときはやはりいつでも退社できます。

第二に、定款で定めた事由の発生です。会費を一定期間滞納したら退社とする、といった定めが典型です。

第三に、総社員の同意です。

第四に、死亡または解散です。法人が社員である場合は解散が該当します。

そして、これらと並ぶ最後の経路が除名です。

順序として大切なのは、除名の前に他の経路がないかを確認することです。

会費未納なら、定款に「◯年滞納で資格喪失」と定めておけば、除名という重い手続きを踏まずに整理できます。

入会と退会のルール設計は、別記事で詳しく解説しています。

「正当な事由」とは何か

条文は正当な事由を具体的に列挙していません。

個別の事情によって判断されるため、一律の線引きはできない領域です。

一般に、除名がやむを得ないと評価されやすいのは次のような場合です。

長期にわたる会費の滞納で、督促にも応じない場合。

法人の財産を私的に使うなど、信頼関係を壊す行為があった場合。

法人の名誉や信用を著しく傷つける行為を繰り返した場合。

法人の運営を妨害し、活動の継続が困難になっている場合。

逆に、単に意見が対立している、理事のやり方に批判的である、といった理由は正当な事由になりにくいと考えられます。

反対派の社員を除名して議決権を減らすという使い方は、制度の趣旨から外れます。

争いになったとき、法人の側が正当な事由を説明できるかが問われます。

判断に迷う事案は、決議の前に弁護士に相談してください。

手続き① 総会の1週間前までに通知する

除名を議題にするときは、通常の招集手続きに加えて、本人への通知が必要です。

法律は、当該社員総会の日から1週間前までにその旨を通知しなければならないと定めています。

通知すべき内容は、除名が議題になっていること、その理由、総会の日時と場所です。

理由を書かずに「あなたの件を議題にします」とだけ伝えるのでは、次の弁明の準備ができません。

通知の方法に法律上の指定はありませんが、実務では配達記録の残る方法を使います。

特定記録郵便や書留であれば、いつ出していつ届いたかを証明できます。

定款で招集通知の期間を短縮している法人でも、この1週間前は除名固有の要件です。

短縮できるものではないと考えて、日程を逆算してください。

手続き② 弁明の機会を与える

次に、社員総会において弁明する機会を与えなければなりません。

これは形式ではなく、実質的に意見を述べられる場を用意するという意味です。

本人が出席して発言できる時間を確保してください。

本人が出席しない場合や、書面での意見提出を希望する場合の扱いも決めておきます。

本人が来ないからといって、機会を与えなかったことにはなりません。

与えた事実を議事録に残すことが重要です。

弁明を聞いたうえで、決議に進みます。

順序を逆にして、決議のあとに言い分を聞くのでは要件を満たしません。

この通知と弁明の機会は、除名の決議を有効にするための土台です。

どちらか一つでも欠けていれば、決議の効力を争われる余地が生まれます。

手続き③ 社員総会の特別決議

除名の決議は、普通決議ではありません。

法律は、除名の社員総会を特別決議の対象に挙げています。

必要なのは、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数です。

定款でこれを上回る割合を定めている場合は、その割合によります。

注意したいのは、分母が「出席した社員」ではなく「総社員」である点です。

普通決議は出席者の過半数で足りますが、特別決議は欠席者も分母に入ります。

社員が10名なら、5名以上の賛成かつ議決権の3分の2以上が必要です。

欠席が多いと、出席者が全員賛成しても可決できません。

委任状や書面による議決権行使を活用し、必要な数を先に読んでおいてください。

社員総会の決議要件の全体像は、決議事項の記事で整理しています。

手続き④ 本人へ除名を通知する

決議が成立しても、そこで終わりではありません。

法律は、除名は、除名した社員に通知しなければ、これをもって当該社員に対抗することができないと定めています。

通知して初めて、法人はその人に対して「あなたはもう社員ではない」と主張できるということです。

通知を忘れたまま次の総会を開き、本人を呼ばなかった場合、招集手続きの瑕疵を主張される危険があります。

決議後は速やかに、書面で通知してください。

記載するのは、決議の日、除名された事実、決議の内容です。

これも配達記録の残る方法で送り、控えを保存します。

4つの手続きは、通知・弁明・決議・通知という順序で一本につながっています。

除名後にやること

除名が確定したら、実務の後始末があります。

第一に、社員名簿の更新です。現在の社員から外し、除名の日付と理由を記録として残します。

第二に、議決権の再計算です。総社員数が変わるため、次の総会の定足数や特別決議の必要数が変わります。

第三に、会費の扱いです。未納分をどこまで請求するか、前納分を返すかは、定款や会員規約の定めによります。

第四に、基金を拠出している社員だった場合の扱いです。基金の返還は法律と定款のルールに従います。

なお、社員の除名で登記が必要になることはありません

社員は登記事項ではないためです。

理事を兼ねていた人を除名した場合は、理事の地位が当然に失われるわけではない点にも注意してください。

社員の地位と役員の地位は別物で、理事を辞めさせるには理事の解任という別の手続きが必要です。

争いを防ぐための記録

除名は、法人が起こす行為の中でもとくに争いになりやすいものです。

訴訟で決議の無効を主張された場合、法人の側が手続きの適正を示す必要があります。

残しておくべき記録は次のとおりです。

督促や注意をした経緯の記録。いきなり除名ではなく、段階を踏んだ事実が正当性を支えます。

1週間前までに通知した事実(発送記録と控え)。

弁明の機会を与えた事実と、本人の発言または欠席の事実(議事録)。

決議の結果と、賛成数・総社員数の内訳(議事録)。

除名の通知を発送した記録。

このうち議事録が中心になります。

「出席者の過半数で可決」とだけ書かれた議事録では、特別決議の要件を満たしたか読み取れません。

総社員数、議決権の総数、賛成した社員数を数字で書いてください。

NPO法人の除名との違い

同じ非営利の法人でも、NPO法人の除名は建て付けが違います。

NPO法人では、社員の除名について定款に定めた事由と手続きによるのが基本です。

除名の要件や手続きを定款で設計する余地が大きく、その定款は所轄庁の認証を受けています。

一般社団法人のように、法律が「正当な事由」「1週間前の通知」「弁明の機会」まで直接定めている構造とは異なります。

両方の法人を運営している場合、手続きを混同しないでください。

NPO法人側の退会と除名の実務は、別記事で解説しています。

手続きの流れと必要日数

除名は、思い立ってすぐにできる手続きではありません。

逆算すると、最短でも次の日数がかかります。

第一に、督促や注意の段階です。ここを飛ばすと正当性が弱くなるため、数週間から数か月かかることもあります。

第二に、理事会または招集権者による総会招集の決定です。

第三に、社員全員への招集通知と、本人への除名通知です。招集通知は原則1週間前まで、本人への除名の議題通知も1週間前までです。

第四に、社員総会の開催と弁明の聴取、特別決議です。

第五に、本人への除名通知の発送です。

∴ 招集を決めてから決議まで最低でも1週間強、督促の経緯づくりを含めれば数か月を見込むのが現実的です。

急いで期間を詰めるほど、手続きの瑕疵を突かれるリスクが上がります。

議事録の記載例

議事録の書き方が、そのまま法人を守る証拠になります。

記載例を示します。

「第1号議案 社員Aの除名の件 議長は、社員Aについて、2024年度から2026年度までの会費が未納であり、書面による督促を3回行ったが応答がない旨を説明した。」

「本議案について、当法人は2026年9月1日付書面により社員Aへ通知し、本総会において弁明の機会を与えた。社員Aは本総会を欠席し、書面による意見の提出もなかった。」

「議長が採決に付したところ、総社員12名・総社員の議決権12個のうち、賛成10名(議決権10個)により、本議案は特別決議の要件を満たして可決された。」

ポイントは三つです。

第一に、正当な事由の中身を事実で書くこと。

第二に、通知と弁明の機会を与えた事実を書くこと。

第三に、総社員数と賛成数を数字で書き、特別決議の要件を満たしたことが読み取れるようにすることです。

よくある質問

Q. 会費を滞納している社員を除名できますか?

A. 長期の滞納で督促にも応じない場合は正当な事由になり得ますが、いきなり除名するのではなく督促の経緯を残してください。定款に「◯年滞納で資格を失う」と定めておけば、除名の手続きを踏まずに整理できます。

Q. 除名の決議は普通決議でできますか?

A. できません。除名は特別決議の対象で、総社員の半数以上かつ総社員の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。分母が出席者ではなく総社員である点に注意してください。

Q. 本人が総会に来ない場合はどうなりますか?

A. 機会を与えた事実があれば手続きは満たされます。1週間前までに理由を含めて通知し、弁明の機会を設けたことを議事録に残してください。欠席や書面での意見提出があった場合もその事実を記録します。

Q. 除名した社員に通知しないとどうなりますか?

A. 除名を本人に対抗できません。つまり法人側から「もう社員ではない」と主張できず、その後の総会の招集手続きに瑕疵があると争われる危険が残ります。決議後は速やかに書面で通知してください。

Q. 除名で登記は必要ですか?

A. 不要です。社員は登記事項ではありません。ただし社員名簿の更新は必要で、除名された人が理事も務めていた場合、理事の地位は当然には失われないため、必要なら理事の解任という別の手続きを行います。

Q. 方針が合わない社員を除名できますか?

A. 意見の対立だけでは正当な事由になりにくいと考えられます。反対派を除名して議決権を減らすような使い方は制度の趣旨から外れ、決議が無効と判断されるリスクがあります。判断に迷う事案は決議の前に弁護士へご相談ください。


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