役員の任期が切れているのに、登記を出していない。
総会は開いたが、議事録も計算書類も作っていない。
一般社団法人の運営でよくあるこうした状態には、100万円以下の過料という制裁が用意されています。
根拠は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律342条です。
この条文は、過料の対象となる行為を22の号に分けて具体的に列挙しています。
この記事では、条文に沿って、どんな行為が過料の対象になるのか、誰が科されるのかを整理します。
一般社団法人の過料とは|法342条が定める制裁
法342条は、過料に処すべき行為という見出しが付けられた条文です。
冒頭で対象となる人を列挙し、その人が各号のいずれかに該当する場合には100万円以下の過料に処する、という形をとっています。
100万円以下という上限は、行為の内容にかかわらず共通です。
ただし、実際にいくらになるかは事案によって異なります。
重要なのは、この条文が法人の運営でうっかり起きがちなことを広く拾っている点です。
登記を出し忘れた、書類を備え置いていない、閲覧請求を断った、といった行為が並んでいます。
悪意のある不正だけを対象にした条文ではありません。
日常の事務が滞っているだけでも該当し得るという理解が必要です。
科されるのは法人ではなく個人
ここは誤解が多いところです。
法342条が対象として挙げているのは、設立時社員、設立者、設立時理事、設立時監事、設立時評議員、理事、監事、評議員、会計監査人またはその職務を行うべき社員、清算人です。
さらに、民事保全法56条に規定する仮処分命令により選任された理事等の職務を代行する者、一時理事等の職務を行うべき者、一時清算人等の職務を行うべき者、一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役も含まれます。
並んでいるのはすべて自然人としての役職者であって、法人そのものではありません。
つまり、過料は法人の経費として処理される罰金のようなものではなく、その立場にある個人が負担するものです。
登記を出していない状態が続けば、代表理事個人に通知が届くことになります。
役員を引き受けるときは、この点を理解しておく必要があります。
名前だけ貸すつもりで理事に就任した人が、思わぬ形で当事者になることがあります。
刑罰との関係|「刑を科すべきときは、この限りでない」
法342条の柱書の末尾には、ただし書が置かれています。
ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでないという一文です。
同じ行為について刑罰が科される場合には、重ねて過料は科されないという趣旨です。
条文がこう書いていること自体が、過料と刑罰が別のものとして整理されていることを示しています。
法律の中では、法341条までに罰則の規定が置かれ、その後に過料の規定が続く構成になっています。
実務上気をつけたいのは、過料だからといって軽く見てよいわけではないという点です。
金額は100万円以下と定められており、個人が負担するものである以上、無視できる金額ではありません。
また、通知が届いた時点で、法人の運営が長く放置されていた事実が明らかになります。
1号 登記を怠ったとき|実務でいちばん多い
法342条1号は、この法律の規定による登記をすることを怠ったときと定めています。
抽象的な書き方ですが、対象は広く、設立から清算までのすべての登記が含まれます。
実務で圧倒的に多いのは、役員に関する登記の出し忘れです。
一般社団法人の理事の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までです。
同じ人が続けて理事を務める場合でも、任期が満了すればいったん退任し、あらためて選任されたことになります。
この重任についても、登記をしなければなりません。
人が変わっていないので登記も要らないだろう、という思い込みが、そのまま懈怠につながります。
数期分をまとめて放置していた、という相談は珍しくありません。
変更の登記は「2週間以内」
登記の期限を定めているのは法303条です。
一般社団法人等において法301条2項各号または法302条2項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その主たる事務所の所在地において変更の登記をしなければならない、と定めています。
起算点は、変更が生じたときです。
役員であれば、定時社員総会で選任された日が起算点になります。
法301条2項に並んでいる登記事項は、目的、名称、主たる事務所および従たる事務所の所在場所、理事の氏名、代表理事の氏名および住所、理事会設置法人である旨、監事設置法人である旨と監事の氏名などです。
公告方法や、電子提供措置をとる旨の定款の定めも登記事項に含まれます。
これらのどれかが変わったのに2週間以内に登記していなければ、そのすべてが1号の対象になり得ます。
事務所を移転したのに登記していない、という形でも同じことが起きます。
登記の放置は「みなし解散」にもつながる
登記を放置した場合の影響は、過料だけではありません。
法149条1項は、休眠一般社団法人のみなし解散を定めています。
休眠一般社団法人とは、その法人に関する登記が最後にあった日から5年を経過したものをいいます。
法務大臣が官報で公告し、2か月以内に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を求めたにもかかわらず届出をしないときは、その期間の満了の時に解散したものとみなされます。
ただし、その期間内にその法人に関する登記がされたときは、この限りでないという但し書きが付いています。
株式会社のみなし解散は最後の登記から12年ですが、一般社団法人は5年です。
この年数を取り違えると、まだ大丈夫だという誤った判断につながります。
登記を出していれば起算点がリセットされるという意味でも、期限内の登記は重要です。
2号・3号 公告・通知・開示を怠ったとき
法342条2号は、この法律の規定による公告もしくは通知をすることを怠ったとき、または不正の公告もしくは通知をしたときを対象にしています。
公告には、貸借対照表の公告や、解散・合併の際の債権者に対する公告などが含まれます。
公告方法そのものが法301条2項14号の登記事項であることからも、軽い扱いではないことが分かります。
通知には、社員総会の招集通知が含まれます。
3号は、この法律の規定による開示をすることを怠ったときです。
作るだけでなく、求められたときに見せるところまでが義務だという構造になっています。
公告を官報でするか電子公告でするかは法人が定款で選べますが、選んだ方法で実際に行わなければ意味がありません。
電子公告を選んだ場合は、22号の電子公告調査に関する規定にも注意が必要です。
4号 閲覧・謄写の請求を正当な理由なく拒んだとき
法342条4号は、この法律の規定に違反して、正当な理由がないのに閲覧や謄写、謄本や抄本の交付などを拒んだときを対象としています。
一般社団法人には、定款、社員名簿、議事録、計算書類などについて、社員や債権者からの閲覧請求に応じる仕組みがあります。
内部の書類だから見せたくない、という理由だけで断ると、この号に該当し得ます。
もっとも、条文は正当な理由がないのにと限定しています。
法律が定める拒絶事由に当たる場合は、当然ながら断ることができます。
実務では、断る根拠を条文で説明できるかどうかが分かれ目になります。
感情的に断るのではなく、請求の趣旨を確認し、応じる範囲を検討する姿勢が必要です。
5号は、この法律の規定による調査を妨げたときで、これも同じ発想の規定です。
7号 書類に書くべきことを書かなかった・虚偽の記載をしたとき
法342条7号は、対象となる書類を長い列挙で示しています。
定款、社員名簿、議事録、財産目録、会計帳簿、貸借対照表、損益計算書、事業報告、事務報告、附属明細書、監査報告、会計監査報告、決算報告などです。
これらに記載しまたは記録すべき事項を記載せず、もしくは記録せず、または虚偽の記載もしくは記録をしたときが対象です。
つまり、作っていないだけでなく、中身が足りない場合も含まれます。
総会は開いたが議事録を作っていない、というのは典型的な例です。
決算をしていない、計算書類を作っていないという状態も同じです。
会計帳簿が挙がっている点にも注意が必要です。
非営利型か普通型か、収益事業があるかどうかで作るべき書類の中身は変わりますが、作らなくてよいということにはなりません。
8号 帳簿や書類を備え置かなかったとき
法342条8号は、備置き義務の違反を対象にしています。
条文は法14条1項、法32条1項、法129条1項などの条番号を列挙し、これらに違反して帳簿または書類もしくは電磁的記録を備え置かなかったときとしています。
備置きとは、事務所に置いて閲覧できる状態にしておくことです。
定款は主たる事務所と従たる事務所に、社員名簿は主たる事務所に置くのが基本です。
計算書類等についても、定時社員総会の日の前から一定期間、備え置く仕組みになっています。
データで持っているから大丈夫、と考えるのは早計です。
条文は電磁的記録も対象に含めており、形式ではなく、置いて見られる状態にあるかどうかが問われます。
事務所を借りずに代表者の自宅を主たる事務所にしている法人ほど、この点があいまいになりがちです。
10号の2・13号・14号 見落としやすい類型
法342条には、比較的新しい、あるいは気づきにくい類型も含まれています。
10号の2は、法47条の3第1項の規定に違反して電子提供措置をとらなかったときです。
社員総会資料の電子提供措置を定款で導入した法人が、実際には掲載しなかった場合が該当します。
13号は、理事、監事、評議員または会計監査人がこの法律または定款で定めた員数を欠くこととなった場合に、その選任の手続をすることを怠ったときです。
理事が辞任して定款の定める人数を割ったまま補充していない、という状態がこれにあたります。
14号は、法92条2項などに違反して理事会に報告せず、または虚偽の報告をしたときです。
法92条2項は、競業や利益相反にあたる取引をした理事に、取引後遅滞なく重要な事実を理事会に報告するよう求めています。
取引の承認を得ていても、事後の報告を忘れれば別途この号の問題になります。
15号から22号|基金・破産・清算・合併に関する類型
後半の号は、特定の場面に限られたものが並びます。
15号は、法142条1項に違反して自己を債務者とする基金の返還に係る債権を取得したとき、または同条2項に違反してその債権を相当の時期に他に譲渡することを怠ったときです。
16号は、法144条1項に違反して代替基金を計上せず、または同条2項に違反して代替基金を取り崩したときです。
基金制度を使っている法人は、返還と代替基金の扱いに注意が必要です。
17号は、法215条1項に違反して破産手続開始の申立てを怠ったときです。
18号から20号は清算に関するもので、清算の結了を遅延させる目的で期間を不当に定めたときや、法234条1項に違反して債務の弁済をしたとき、法237条に違反して清算法人の財産を引き渡したときが対象です。
21号は合併の手続に関するもの、22号は電子公告について会社法941条の準用による調査を求めなかったときです。
自分の法人に関係する場面だけを押さえておけば足りますが、解散や合併を決めたときには必ず読み直すべき部分です。
過料を避けるための実務
やるべきことは、複雑ではありません。
第一に、役員の任期の満了日を一覧にして管理することです。
任期は事業年度と定時社員総会に紐づくため、カレンダーではなく決算期を基準に管理すると間違えにくくなります。
第二に、定時社員総会が終わったら、その場で登記の要否を確認することです。
役員が同じ顔ぶれでも重任の登記が要るという点を、毎回の確認事項にしておきます。
第三に、議事録、計算書類、会計帳簿、社員名簿を、総会のたびにそろえて事務所に備え置くことです。
第四に、事務所を移転したとき、名称や目的を変えたときは、2週間という期限を先にカレンダーへ書き込むことです。
どれも、忘れなければ費用のかからない対策ばかりです。
| 号 | 対象となる行為 | 起きやすい場面 |
|---|---|---|
| 1号 | 登記を怠ったとき | 役員の重任登記、事務所移転の登記 |
| 2号 | 公告・通知を怠った、不正な公告・通知をしたとき | 決算公告、社員総会の招集通知 |
| 3号 | 開示を怠ったとき | 請求されたのに見せない |
| 4号 | 正当な理由なく閲覧・謄写等を拒んだとき | 社員からの議事録・計算書類の閲覧請求 |
| 7号 | 書類に記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をしたとき | 議事録を作っていない、計算書類が未作成 |
| 8号 | 帳簿・書類を備え置かなかったとき | 定款・社員名簿・計算書類の備置き漏れ |
| 10号の2 | 電子提供措置をとらなかったとき | 導入したのに掲載していない |
| 13号 | 員数を欠いたのに選任の手続を怠ったとき | 理事が辞任したまま補充していない |
| 14号 | 理事会に報告せず、または虚偽の報告をしたとき | 競業・利益相反取引の事後報告漏れ |
そのほかのよくある質問
A. 個人です。法342条が対象として挙げているのは、理事、監事、清算人、設立時社員、検査役などの自然人であり、法人そのものは含まれていません。法人の経費として処理する性質のものではなく、その立場にある個人が負担することになります。
A. 必要です。理事の任期が満了すればいったん退任し、あらためて選任されたことになりますので、重任の登記をしなければなりません。人が変わっていないから登記も不要という理解は誤りで、法342条1号の登記懈怠にあたります。
A. 法303条により、登記事項に変更が生じたときから2週間以内です。役員であれば、定時社員総会で選任された日が起算点になります。主たる事務所の所在地において変更の登記をする必要があります。
A. 過料の対象になるほか、法149条1項のみなし解散の問題が生じます。登記が最後にあった日から5年を経過すると休眠一般社団法人にあたり、法務大臣の官報公告に対して2か月以内に届出をしなければ、解散したものとみなされます。株式会社の12年と混同しないよう注意してください。
A. 法342条は100万円以下の過料と定めており、上限だけが示されています。実際の金額は事案の内容によって異なります。上限が示されているだけで、必ず100万円になるわけではありません。
A. なり得ます。法342条7号は、議事録を含む書類に記載すべき事項を記載しなかった場合を対象としています。総会や理事会を開いたのに議事録を作っていない状態は、この号に該当する可能性があります。
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