総会の案内が一部の社員に届いていなかった。
定款に書いていない方法で議決を取ってしまった。
そもそも総会を開いていないのに、議事録だけができている。
こうした場面で、いったん成立したように見える決議をあとから覆せるのかという問題が出てきます。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律は、社員総会の決議を争う方法を3つ用意しています。
この記事では、取消し・無効の確認・不存在の確認という3つの訴えを、条文に沿って整理します。
決議を争う方法は3つある
まず全体像を押さえます。
社員総会の決議に問題があるとき、法律上の争い方は次の3つです。
1つめが決議の取消しの訴え、2つめが決議の無効の確認の訴え、3つめが決議の不存在の確認の訴えです。
この3つは「何がおかしいのか」によって使い分けます。
手続きのやり方がおかしいのか、決めた中身がおかしいのか、それともそもそも決議と呼べるものが無いのか、という区別です。
順番に見ていきます。
決議の取消しの訴え|期限は決議の日から3か月
法266条1項が定めているのが、決議の取消しの訴えです。
条文は、社員等は社員総会等の決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができると定めています。
取消しを請求できるのは、次の3つの場合です。
1つめは、総会の招集の手続きまたは決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なときです。
案内を出していない社員がいた、法定の期間より短い通知だった、議決権のない人に投票させた、といった場面がここに入ります。
2つめは、決議の内容が定款に違反するときです。
定款で「理事は5名以内」と定めているのに6名を選任した、といった場合が典型です。
3つめは、その決議について特別の利害関係を有する社員が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたときです。
自分に有利な取引を自分の票で通した、というような場面を想定した規定です。
注意したいのは期限です。3か月を過ぎると、この訴えはもう起こせません。
決議に納得がいかないまま様子を見ているうちに期限が過ぎてしまう、というのが最も多い失敗です。
手続きに違反があっても取り消されないことがある
違反があれば必ず取り消されるわけではありません。
法266条2項は、裁判所が請求を棄却できる場合を定めています。
招集の手続きや決議の方法が法令・定款に違反していても、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないと認められるときは、裁判所は請求を棄却することができます。
たとえば、招集通知が1日遅れたけれども全員が出席して全員が賛成した、というような場合です。
結論が変わらないと判断されれば、形式的な違反だけでは決議はひっくり返りません。
逆にいえば、決議の結果を左右しうる違反かどうかが分かれ目になります。
決議の無効・不存在の確認の訴え|期間の制限はない
法265条が定めるのが、確認の訴えです。
同条1項は、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができると定めています。
総会を実際には開いていないのに議事録だけが作られている、というような場合がこれにあたります。
同条2項は、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を請求できると定めています。
定款違反ではなく法令違反である点が、取消しの訴えとの違いです。
そしてこの2つには、取消しの訴えのような3か月という期間の制限がありません。
ただし、期限がないからといって放置してよいわけではありません。
時間が経つほど当時の事情を証明することが難しくなり、その決議を前提に積み上がった手続きも増えていきます。
3つの訴えの違いを表で整理する
| 何を争うか | 代表的な場面 | 期間の制限 | |
|---|---|---|---|
| 決議の取消し(266条) | 手続きの違反・定款違反・著しく不当な決議 | 招集漏れ、通知期間不足、定款違反の選任 | 決議の日から3か月 |
| 決議の無効の確認(265条2項) | 決議の内容が法令に違反すること | 法律で認められない内容を決議した | 制限なし |
| 決議の不存在の確認(265条1項) | 決議そのものが存在しないこと | 総会を開いていないのに議事録がある | 制限なし |
訴える相手と、どこの裁判所か
被告になるのは、決議をした法人そのものです。
法269条4号・5号が、決議の不存在・無効の確認の訴えと取消しの訴えについて、当該一般社団法人等を被告とすると定めています。
理事個人を訴えるのではない、という点は間違えやすいところです。
管轄については、法270条が被告となる法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄と定めています。
簡易裁判所ではなく地方裁判所です。
また、法271条は担保提供命令を定めています。
社員が起こした訴えについて、被告の申立てがあり、かつ訴えの提起が悪意によるものであることが疎明されたときは、裁判所は相当の担保を立てるよう命じることができます。
ただし、その社員が理事・監事・清算人であるときは、この担保提供命令の対象になりません。
争いになる前に確認しておきたいこと
実際には、訴訟まで進む前に手当てできる場面がほとんどです。
総会を開く側として最低限そろえておきたいのは、次の3つです。
1つめは、定款に書かれた招集の手続きどおりに通知しているかどうかです。
通知の方法・期間・宛先は、法律だけでなく定款でも定められていることが多く、定款のほうが厳しい場合は定款が優先します。
2つめは、社員名簿が最新かどうかです。
名簿が古いままだと、通知を出すべき相手を落としてしまいます。
3つめは、議事録に決議の方法まで書かれているかどうかです。
誰が議長で、何人が出席し、どの議案に何票入ったのかが残っていれば、あとから手続きの適法性を説明できます。
逆にいえば、議事録が薄いこと自体が争いの火種になります。
なお、訴訟の代理人になれるのは弁護士です。実際に訴えを起こす段階になったら、早めに弁護士へ相談してください。
Q. 総会の決議はいつまで争えますか?
A. 手続きの違反や定款違反を理由とする「決議の取消しの訴え」は、決議の日から3か月以内に起こす必要があります(法266条1項)。決議の内容が法令に違反する場合の無効確認と、決議が存在しない場合の不存在確認には期間の制限がありません(法265条)。
Q. 招集通知が1人に届いていませんでした。決議は取り消されますか?
A. 招集手続の法令・定款違反にあたり得ますが、必ず取り消されるわけではありません。法266条2項により、違反が重大でなく決議に影響を及ぼさないと裁判所が認めれば、請求は棄却されることがあります。
Q. 誰を相手に訴えるのですか?
A. 法人そのものが被告になります(法269条4号・5号)。理事個人を被告とするものではありません。
Q. どこの裁判所に訴えますか?
A. 被告となる法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(法270条)。
Q. 社員が訴えると費用の担保を求められることがありますか?
A. あります。被告の申立てにより、訴えの提起が悪意によるものであることが疎明されたときは、裁判所が相当の担保を立てるよう命じることができます(法271条)。ただしその社員が理事・監事・清算人であるときは対象外です。
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