備える方法はありますか?
あります。理事が任務を怠って財団に損害を与えたときは、その理事が個人として財団に賠償する責任を負います(一般法人法198条で準用する111条1項)。法人の債務ではなく、理事個人の債務です。
そして一般財団法人には、一般社団法人にない特徴があります。評議員も同じ責任を負うことです。社団の社員は法人に対して損害賠償責任を負いませんが、財団の評議員は負います。
この記事では、一般財団法人の理事などが負う責任の範囲、免除できる3つのルート、第三者に対する責任、そして補償契約と保険という備え方までを条文つきで整理します。
財団では評議員も責任を負う ―「役員等」の範囲が社団と違う
198条は、一般社団法人の損害賠償責任の規定(第3章第3節第8款)を財団に準用したうえで、111条1項の「役員等」の読み替えを次のように定めています。
| 立場 | 一般社団法人 | 一般財団法人 |
|---|---|---|
| 理事 | 責任を負う | 責任を負う |
| 監事 | 責任を負う | 責任を負う |
| 会計監査人 | 責任を負う | 責任を負う |
| 社員 / 評議員 | 社員は負わない | 評議員は負う |
| 責任の免除に同意する主体 | 総社員 | 総評議員 |
| 一部免除を決議する機関 | 社員総会 | 評議員会(3分の2以上) |
任務を怠ったときの責任(198条で準用する111条1項)
条文は「その任務を怠ったときは、一般財団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。いわゆる任務懈怠責任です。
理事と財団の関係は委任です(172条1項)。委任を受けた者として、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務があり(民法644条)、これを尽くさなかったときが「任務を怠った」に当たります。
- 法令や定款に違反する決議に賛成した(忠実義務=197条で準用する83条)
- 他の理事の職務執行を監督せず、不正を見過ごした(197条で準用する90条2項2号)
- 理事会の承認を得ずに利益相反取引を行った(197条で読み替えた84条1項)
- 定款で維持を定めた基本財産を、事業の妨げになる形で処分した(172条2項)
- 評議員会の決議が必要な事項を、理事会だけで決めた
ただし「結果が悪かった」だけでは責任になりません。十分な情報を集め、合理的な過程で判断していれば、結果として損失が出ても任務懈怠とは評価されにくいと考えられています。議事録に検討の経過を残すことが、そのまま防御になります。
利益相反取引をすると、損害額も任務懈怠も推定される
111条2項・3項は、立証の負担を理事側に移す規定です。財団では197条により、84条1項の承認機関が理事会になります。
| 取引の種類 | 推定される内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 競業取引(84条1項1号)を承認なしに行った | 理事または第三者が得た利益の額が、財団の損害額と推定される | 198条で準用する111条2項 |
| 直接取引・間接取引(84条1項2号・3号)で財団に損害が出た | 関与した理事は任務を怠ったものと推定される | 同111条3項 |
3項で任務懈怠が推定されるのは、次の3者です。
- 取引をした理事本人
- 財団がその取引をすることを決定した理事
- その取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事
3つ目に注意してください。自分が取引の当事者でなくても、承認に賛成しただけで推定の対象になります。しかも理事会議事録に異議をとどめていなければ、賛成したものと推定されます(197条で準用する95条5項)。議事録の書き方が責任に直結するのはこのためです。
全部免除は総評議員の同意 ― 1人でも反対したらできない
198条で準用する112条は、任務懈怠の責任は総評議員の同意がなければ免除できないと定めています。「過半数」でも「3分の2」でもなく、全員です。
財団の評議員は3人以上ですから、少なくとも3人全員の同意が必要です。評議員会の決議ではなく個々の評議員の同意なので、評議員会を開いて多数決で決めても足りません。
一部免除は評議員会の3分の2以上 ― 限度は報酬の6年・4年・2年分
198条で準用する113条1項は、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときに限り、評議員会の決議で責任を一部免除できると定めています。この決議は特別多数で、議決に加わることができる評議員の3分の2以上が必要です(189条2項2号)。
免除できるのは「賠償責任を負う額」から最低責任限度額を引いた部分です。最低責任限度額は、在職中に受けた職務執行の対価の1年間当たりの額に、次の倍数を掛けて計算します。
| 区分 | 倍数 | 報酬が年120万円のときの最低責任限度額 |
|---|---|---|
| 代表理事 | 6 | 720万円 |
| 業務執行理事(理事会で選定された理事・実際に業務を執行した理事) | 4 | 480万円 |
| それ以外の理事・監事・会計監査人 | 2 | 240万円 |
つまり、最低責任限度額より下には下げられません。報酬を受けていない無報酬の理事であっても、法務省令の定める方法で算定した額が基準になります。
評議員自身の責任を免除するときも、同じ113条が適用されます。対象となる評議員は特別の利害関係を有するため、その決議の議決に加わることができません(189条3項)。
定款に定めれば、理事会の決議で免除できる(114条)
114条1項は、一定の要件を満たす法人が定款で定めておけば、理事会の決議によって責任を一部免除できる、という制度です。
| 要件 | 一般社団法人の場合 | 一般財団法人の場合 |
|---|---|---|
| 監事を置いていること | 監事設置の法人に限る | 常に満たす(監事は必置=170条1項) |
| 理事が2人以上いること | 理事1人の法人は使えない | 常に満たす(理事は3人以上) |
| 定款の定め | 必要 | 必要 |
| 決議する機関 | 理事の過半数の同意または理事会の決議 | 理事会の決議(理事会は必置) |
| 免除される役員の扱い | 当該理事を除いて決議 | 同じ |
一般財団法人は監事必置・理事3人以上なので、2つの要件を最初から満たしています。定款に定めを置くかどうかだけが判断になります。
ただし条件があります。善意かつ重大な過失がないことに加え、「責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるとき」に限られます(114条1項)。免除できる額の上限は113条と同じです。
免除の同意を得たときは、理事は遅滞なく必要な事項を公告または通知しなければならず、総評議員の10分の1以上の評議員が異議を述べたときは免除できません(198条で読み替えた114条3項・4項)。
責任限定契約が結べるのは「非業務執行理事等」だけ(115条)
115条は、あらかじめ責任の上限を決めておく契約です。これも定款の定めが必要です。
- 相手は非業務執行理事等=業務執行理事でも使用人でもない理事、監事、会計監査人
- 代表理事や業務執行理事とは結べない
- 善意でかつ重大な過失がないときに限って効力がある
- 限度額は「定款で定めた額の範囲内であらかじめ定めた額」と「最低責任限度額」のいずれか高い額
- 契約後にその人が業務執行理事や使用人に就任すると、契約は将来に向かって効力を失う(2項)
外部から招いた理事や監事に就任を打診するとき、この契約があるかどうかは受諾の判断材料になります。公益認定を目指す財団は外部理事・外部監事を置く必要が出てくるため、定款の整備とあわせて検討することになります。
第三者に対する責任は「悪意または重大な過失」があったとき
ここまでは財団に対する責任でした。198条で準用する117条1項は、職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、それによって第三者に生じた損害も賠償する責任を負うと定めています。
軽い過失では第三者への責任は生じません。取引先や寄附者が理事個人を訴えるには、悪意または重過失を主張・立証する必要があります。
ただし117条2項は、次の行為については理事の側が「注意を怠らなかったこと」を証明しなければ責任を免れないとしています。立証責任が逆になる場面です。
| 行為 | 財団での扱い |
|---|---|
| 計算書類・事業報告・附属明細書の重要な事項についての虚偽の記載・記録 | 対象になる |
| 基金を引き受ける者の募集に関する虚偽の通知など | 対象外(198条が明文で除いている) |
| 虚偽の登記 | 対象になる |
| 虚偽の公告 | 対象になる |
2行目が財団に固有の点です。基金は一般社団法人の制度で財団には存在しないため、198条は「第117条第2項第1号ロを除く」と明記して準用の対象から外しています。
なお、複数の役員等が同じ損害について責任を負うときは、連帯債務になります(198条で準用する118条)。被害者はどの理事にも全額を請求できます。
補償契約と役員等賠償責任保険は理事会の決議で導入する
198条の2は、第3章第3節第9款(補償契約・保険契約)を財団に準用しています。このとき「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」は一律に「理事会」と読み替えられます。財団は理事会が必置なので、決議機関は常に理事会です。
| 制度 | 内容 | 決議機関 |
|---|---|---|
| 補償契約(118条の2) | 法令違反が疑われたり責任追及の請求を受けたときの対処費用、第三者への賠償による損失・和解金を法人が補償する契約 | 理事会 |
| 役員等賠償責任保険(118条の3) | 役員等を被保険者として、職務執行に関する責任や請求による損害を保険者が塡補する契約 | 理事会 |
補償契約には補償できない範囲があります(118条の2第2項)。
- 対処費用のうち通常要する費用の額を超える部分
- 第三者への賠償のうち、財団に対して任務懈怠責任を負う部分
- 役員等に悪意または重大な過失があったことにより第三者への責任を負う場合は、その損失の全部
さらに、不正な利益を図る目的や財団に損害を加える目的で職務を執行していたと後で判明したときは、補償した金額の返還を請求できます(118条の2第3項)。補償をした理事と受けた理事は、遅滞なく重要な事実を理事会に報告します(同4項)。
本記事は、制度を一般的に説明したものです。個別の事案についての判断や手続きの代行を行うものではありません。
- 設立登記など登記申請の手続きは司法書士が取り扱う業務です。ご自身で法務局へ申請することもできます。
よくある質問
A. 負います。報酬の有無は責任の有無に影響しません。財団と理事の関係は委任であり(172条1項)、無償の委任でも善管注意義務は生じます(民法644条)。報酬額が関係するのは、一部免除のときの最低責任限度額の計算だけです。
A. 評議員も198条で準用する111条1項の「役員等」に含まれるため、任務を怠って財団に損害を与えたときに責任を負います。評議員会の権限は法律と定款が定めた事項に限られますが(178条2項)、その範囲で漫然と決議した場合などが問題になり得ます。
A. 議事録に反対したことが残っていれば、賛成した理事としての推定は働きません。決議に参加して議事録に異議をとどめない理事は賛成したものと推定されるため(197条で準用する95条5項)、反対の意思は必ず議事録に記載してもらってください。
A. 議決に加わることができる評議員の3分の2以上です(189条2項2号)。普通決議(過半数)では足りません。なお免除の対象になる評議員自身は、特別の利害関係を有するため議決に加われません(189条3項)。
A. 結べません。115条1項が対象を「非業務執行理事等」に限っており、代表理事、理事会の決議で業務を執行する理事として選定された理事、実際に業務を執行した理事は除かれます。契約後に業務執行理事になった場合も、契約は将来に向かって効力を失います。
A. 不要です。責任限定契約(115条)と114条の理事会免除には定款の定めが要りますが、補償契約(118条の2)と役員等賠償責任保険(118条の3)は理事会の決議だけで導入できます(198条の2による準用)。
A. なくなりません。在任中の任務懈怠についての責任は、退任後も残ります。免除するには総評議員の同意(112条)か、評議員会の3分の2以上の決議による一部免除(113条)が必要です。
A. 法人の債務をそのまま個人が負うことはありません。理事が個人で負うのは、任務懈怠によって財団に生じさせた損害(111条1項)と、悪意または重大な過失によって第三者に生じさせた損害(117条1項)に限られます。


