NPO法人を作るとき、事業年度をいつからいつまでにするか。
深く考えずに「4月1日から3月31日」にしてしまう団体が多くあります。
しかし、事業年度はその後の決算・総会・提出の時期をすべて決めてしまう設定です。
一度決めても変更はできますが、変更の手続きにも決まりがあります。
この記事では、決め方の考え方と、変更するときの手続きを条文にそって解説します。
事業年度は定款の必須記載事項
特定非営利活動促進法は、定款に記載しなければならない事項を14項目挙げています。
その10番目が事業年度です。
目的、名称、活動の種類、事務所の所在地などと並ぶ、絶対に書かなければならない事項です。
書き忘れた定款は、そもそも設立の認証を受けられません。
記載の仕方は「当法人の事業年度は、毎年4月1日に始まり翌年3月31日に終わる」といった一文で足ります。
法律には、期間の長さや開始月についての制限がありません。
1年でなくてもよく、設立初年度は登記の日から最初の年度末までの短い期間になります。
つまり、いつを起点にするかは団体の自由です。
自由だからこそ、決め方に理屈が要ります。
定款の記載事項の全体像は、NPO法人の設立要件の記事で整理しています。
決算のあとに何が待っているか
事業年度を決めるということは、毎年の作業の時期を決めるということです。
年度が終わると、次の流れが動き出します。
第一に、決算です。会計を締めて、活動計算書や貸借対照表などの計算書類を作ります。
第二に、監事の監査です。
第三に、社員総会です。事業報告と決算の承認を得ます。
第四に、所轄庁への事業報告書等の提出です。法律は毎事業年度1回の提出を義務づけています。
提出期限は条例で定められ、事業年度終了後3か月以内としている自治体が一般的です。
第五に、貸借対照表の公告です。かつて毎事業年度必要だった「資産の総額」の変更登記は2018年10月1日に廃止され、これに置き換わりました(NPO法28条の2)。
第六に、税務署や自治体への申告です。
∴ 年度末から約3か月は実務が集中する繁忙期になります。
年間の流れは、年間スケジュールの記事で詳しく整理しています。
決め方の考え方
では、何を基準に決めればよいのでしょうか。
第一に、活動の繁忙期と重ねないことです。
夏に大きなイベントをする団体が、6月末決算にすると、準備の山と決算の山が重なります。
第二に、社員が集まりやすい時期に総会を置けるかです。
年度末から3か月以内に総会と提出を済ませる必要があるため、逆算して考えます。
学生が中心の団体なら、試験期間や長期休暇の位置も効いてきます。
第三に、助成金の年度です。
多くの助成金が国や自治体の年度に合わせて動くため、4月から3月にしておくと報告書の期間が揃って楽になります。
第四に、関係する他団体との整合です。
第五に、繁忙期の分散です。3月決算は税理士も自治体の窓口も混み合います。
あえて9月や12月に決算を置き、丁寧に見てもらうという選び方もあります。
よくある選び方のパターン
| 事業年度 | 総会・提出の時期 | 向いている団体 |
|---|---|---|
| 4月〜翌3月 | 5〜6月に総会/6月末までに提出 | 助成金や行政の年度と揃えたい団体 |
| 1月〜12月 | 2〜3月に総会/3月末までに提出 | 暦年で活動を区切る団体・国際交流系 |
| 10月〜翌9月 | 11〜12月に総会/12月末までに提出 | 春から夏が繁忙期の団体 |
| 7月〜翌6月 | 8〜9月に総会/9月末までに提出 | 年末年始に活動が集中する団体 |
どれが正解ということはありません。
団体の活動の山と、人が集まれる時期の二つで決めてください。
設立の相談で多いのは、単に「会社と同じ3月にしておこう」という決め方です。
それ自体は間違いではありませんが、理由をもって選んだかどうかが、数年後の運営の楽さを変えます。
設立初年度の事業年度
設立の年は、少し特殊です。
法人が成立するのは設立の登記をした日です。
したがって初年度は、登記の日から定款で定めた年度末までの期間になります。
4月から3月の年度で、1月に登記したなら、初年度は1月から3月までの3か月です。
この短い期間でも、決算と総会と提出は必要です。
設立してすぐに決算が来ることになるため、負担に感じる団体もあります。
認証と登記の時期がある程度読めるなら、年度末の直後に登記できるよう逆算するという考え方もあります。
ただし所轄庁の審査期間があるため、狙いどおりにいくとは限りません。
設立1年目にやることは、専用の記事で解説しています。
事業年度を変更したいとき
活動を続けるうちに、年度が合わなくなることがあります。
変更はできます。手順は次のとおりです。
第一に、社員総会で定款変更を議決します。
定款変更の議決は、社員総数の2分の1以上が出席し、その出席者の4分の3以上の多数が原則です。
定款に特別の定めがあれば、それによります。
第二に、所轄庁への手続きです。
ここが重要なポイントです。
法律は、認証が必要な定款変更の事項を限定列挙していますが、事業年度はその列挙に含まれていません。
目的や名称、活動の種類などを変えるときは認証が必要ですが、事業年度の変更は認証を要しません。
認証が不要な変更をしたときは、遅滞なく、社員総会の議事録の謄本と変更後の定款を添えて所轄庁に届け出ることになります。
第三に、登記です。事業年度は登記事項ではないため、この変更自体で登記は生じません。
定款変更の全体像は、定款変更の記事で整理しています。
変更した年は事業年度が短くなる
変更で見落とされやすいのが、移行期の扱いです。
例えば4月から3月の年度を、1月から12月に変えるとします。
この場合、変更を挟む年度は4月から12月までの9か月になります。
1年に満たない変則的な年度が1回発生するということです。
この短い年度についても、決算・監査・総会・提出の一式が必要です。
税務の申告も、この期間で行います。
会費を年額で集めている場合、その年だけ会費の対象期間をどうするかという実務も出てきます。
規約や総会資料で、移行年度の扱いを明示しておいてください。
変更のタイミングは、繁忙期を避け、会計担当が余裕を持てる時期を選ぶのが無難です。
一般社団法人との違い
同じ非営利の法人でも、一般社団法人とは手続きの重さが違います。
一般社団法人の事業年度も定款で定めますが、変更は社員総会の特別決議で完結します。
所轄庁という監督官庁が存在しないため、届出の相手がいないのです。
NPO法人には所轄庁への届出という一段階が加わります。
毎年の事業報告書等の提出義務も、NPO法人に特有のものです。
提出した書類は所轄庁で公開され、誰でも閲覧を請求できます。
この透明性の高さが、NPO法人の信用の源でもあります。
手続きが多いぶん、外から見える法人になっているということです。
一般社団法人の事業年度の考え方は、一般社団法人の事業年度の記事で解説しています。
「事業年度」「会計年度」「決算期」は何が違うか
書類によって呼び名が変わるため、混乱しやすいところです。
法律が定款の記載事項として使っている言葉は事業年度です。
会計年度は会計の期間を指す一般的な言い方で、実務上は事業年度と同じ意味で使われます。
決算期や決算月は、事業年度の末日がいつかを指す言い方です。3月31日で終わるなら3月決算です。
税務署の届出書では事業年度の欄に開始日と終了日を書きます。所轄庁の様式でも事業年度で統一されています。
定款に書くときは、法律の言葉に合わせて事業年度と書いておけば間違いありません。
団体内の会話では決算期と呼んでも構いませんが、書類は法律の言葉で揃えてください。
年度末からの実務の順番
年度末を迎えたら、次の順で進めます。
第一に、会計の締めです。未払いの経費や未収の会費を整理し、帳簿を確定させます。
第二に、計算書類の作成です。活動計算書、貸借対照表、財産目録を作ります。
第三に、事業報告書の作成です。1年の活動を文章でまとめます。
第四に、監事の監査です。監事に書類を渡し、監査報告を受けます。
第五に、理事会での承認と総会の招集です。
第六に、社員総会での承認です。
第七に、所轄庁への事業報告書等の提出と、貸借対照表の公告です。
第八に、税務の申告です。
この順番のうち、監査を飛ばして総会に進んでしまう団体が少なくありません。監事の監査は総会の前に済ませておく必要があります。
届出のときにそろえる書類
事業年度を変更したときの届出は、書類さえそろえば難しくありません。
典型的な提出物は三つです。
第一に、定款変更届出書です。所轄庁の様式を使います。
第二に、その定款変更を議決した社員総会の議事録の謄本です。
第三に、変更後の定款です。
議事録には、出席した社員数と賛成数を書き、4分の3以上の要件を満たしたことが読み取れるようにしてください。
「全員賛成で可決」とだけ書いた議事録では、要件の充足を確認できません。
提出の期限は遅滞なくとされており、総会後すみやかに出すのが原則です。
様式や部数は都道府県・指定都市の条例によって異なるため、所轄庁のウェブサイトで確認してください。
認定NPO法人を目指すなら年度の意味が増す
将来的に認定NPO法人を目指す場合、事業年度の設定はさらに重みを持ちます。
認定の審査では、直前の事業年度までの実績が判定の対象になるためです。
寄付者の数や寄付金額といった基準は、事業年度という単位で数えます。
事業年度を途中で変更すると、変則的な短い年度が実績の判定に絡むことになります。
認定の申請を近い将来に考えているなら、年度の変更は申請の前後どちらで行うかを慎重に決めてください。
所轄庁に相談したうえで判断するのが確実です。
認定を目指す道筋は、認定NPO法人を目指す道筋の記事で解説しています。
よくある質問
A. 法律上の制限はありません。開始月も期間も自由に決められます。ただし事業年度は定款の必須記載事項なので、必ず定款に書く必要があります。決算後3か月以内に所轄庁へ事業報告書等を提出する自治体が一般的なので、総会を開ける時期から逆算して決めてください。
A. いいえ。暦年(1月〜12月)でも、10月〜翌9月でも構いません。助成金や行政の年度と揃えたい場合は4月開始が便利ですが、活動の繁忙期と決算が重なるなら別の月にする選択も合理的です。
A. 必要ありません。法律が認証を必要とする定款変更の事項に事業年度は含まれていないため、社員総会で定款変更を議決したうえで、遅滞なく議事録の謄本と変更後の定款を添えて所轄庁に届け出れば足ります。
A. 原則として、社員総数の2分の1以上が出席し、その出席者の4分の3以上の多数が必要です。定款に特別の定めがある場合はそれによります。通常の議決より重い要件なので、出席予定を事前に確認してください。
A. 1年に満たない変則的な年度が1回発生します。その短い期間についても決算・監査・総会・所轄庁への提出が必要で、税務申告もその期間で行います。会費の対象期間の扱いも決めておいてください。
A. 事業年度は登記事項ではないため、この変更だけでは登記は生じません。ただし同じ総会で目的や名称など登記事項も変更した場合は、その部分について登記が必要です。
📖 参考にした公的機関の情報


