活動拠点を法人名義で買いたい。
会員から建物を寄付したいと言われた。
そんなとき、一般社団法人は不動産を持てるのかが問題になります。
結論から言えば持てますが、購入の決議・利益相反・課税の三つで実務上のつまずきが起きます。
この記事では、取得から保有・活用・売却までの注意点を整理します。
一般社団法人は不動産を持てる
法律は、一般社団法人及び一般財団法人は法人とする、と定めています。
法人であるということは、法人そのものが権利義務の主体になれるということです。
つまり、代表理事個人ではなく、法人の名義で不動産を持てます。
登記の名義も法人名になり、代表理事が交代しても所有者は変わりません。
これは任意団体との決定的な違いです。
法人格のない任意団体は、団体名義で登記ができません。
そのため、代表者個人の名義や、複数人の共有名義にせざるを得ませんでした。
代表者が亡くなれば相続の対象になり、団体の財産なのに遺産分割に巻き込まれる。
この不安定さを解消できることが、法人化の大きな実益の一つです。
任意団体との違いは、別記事でも詳しく比較しています。
どうやって取得を決めるか
不動産の購入は、法人にとって大きな支出です。
誰が決めるかは、機関設計によって変わります。
理事会を置いていない法人では、業務の決定は理事が行いますが、金額が大きい取引は社員総会に諮るのが安全です。
理事会設置法人では、重要な財産の処分及び譲受けは理事会で決定しなければならず、各理事に委任できません。
不動産の購入や売却は、通常この重要な財産にあたります。
定款で総会の決議事項としている法人もあるため、まず定款を確認してください。
決議は議事録に残します。
物件の所在・面積・価格・資金の出どころを具体的に書いてください。
金融機関や司法書士から議事録の提出を求められる場面があり、記載が曖昧だと手続きが止まります。
機関設計ごとの決め方は、機関設計の記事で整理しています。
理事から買う・借りるときは利益相反
もっとも事故が起きやすいのが、この場面です。
理事が所有する土地を法人が買う。理事のビルを事務所として借りる。
これらは利益相反取引にあたり、重要な事実を開示したうえで社員総会(理事会設置法人では理事会)の承認が必要です。
承認を取らずに進めると、取引の効力を争われたり、損害が出た場合に理事の責任が推定されたりします。
当事者となる理事は、その決議に加わることができません。
価格の妥当性も問われます。
相場から離れた高値で理事から買えば、承認があっても善管注意義務や税務の問題が残ります。
不動産鑑定や複数の査定を取り、根拠を残しておいてください。
利益相反取引の手続きは、専用の記事で詳しく解説しています。
保有中にかかる税金
不動産を持てば、維持のコストがかかります。
まず固定資産税・都市計画税です。
公益社団法人などが一定の用途に直接使う場合の非課税措置はありますが、対象は法人の種類と用途で限定されています。
一般社団法人が持つ不動産は、原則として課税されると考えてください。
非営利型であっても、固定資産税が自動的に免除されるわけではありません。
取得の段階では、不動産取得税と登録免許税がかかります。
これらにも軽減や非課税の特例がありますが、適用は限定的です。
購入前に、年間の固定資産税と取得時の諸費用を試算しておきましょう。
想定より重く、活動費を圧迫する例が少なくありません。
個別の税額や特例の可否は、市区町村の窓口と税理士に確認してください。
貸すと「収益事業」になる
もっとも見落とされやすいのが、この論点です。
法人税法上の収益事業には不動産貸付業が含まれています。
法人が持つ建物や土地を他人に貸して賃料を得れば、原則としてこの不動産貸付業に該当します。
非営利型の一般社団法人であっても、収益事業から生じた所得には法人税がかかります。
非営利型だから全部非課税、という理解は誤りです。
空いている部屋を会員以外に貸す、駐車場として貸す、イベント用に有償で貸し出す。
いずれも該当し得ます。
該当すれば、収益事業の開始の届出や、区分経理も必要になります。
自分たちの活動に使うだけなのか、賃料を得るのかで、税務の扱いが大きく変わります。
判断に迷う場合は、貸す前に税理士へ相談してください。
非営利型と普通型の税金の違いは、税金の記事で詳しく解説しています。
相続税対策の道具にはしない
一般社団法人と不動産の話になると、相続対策の文脈が出てくることがあります。
持分がない法人に財産を移せば相続税がかからない、という発想です。
しかし、この使い方にはすでに税制上の手当てがされています。
同族的に支配されている一般社団法人については、理事の死亡時に法人へ相続税が課される仕組みが設けられています。
「持分がないから相続税と無関係」という時代ではありません。
そもそも一般社団法人は、公益的な活動や共同の目的のために作る器です。
節税だけを目的にした設立と不動産の移転は、税務上も社会的にも危うい選択です。
適正な運営を前提にしたうえで、結果として財産の帰属が安定する。
この順序を守ってください。
税金と節税の考え方は、別記事でも中立に整理しています。
融資を受けて買うとき
自己資金だけで不動産を買える法人は多くありません。
金融機関から借り入れる場合、審査で見られるのは事業の継続性と返済原資です。
会費収入や事業収入がどれだけ安定しているかが問われます。
設立直後の法人が、実績なしに不動産融資を受けるのは容易ではありません。
代表理事個人の連帯保証を求められることもあります。
このとき注意したいのが、逆のパターンです。
理事個人の借入を法人が保証するのは、間接取引としての利益相反にあたります。
法人が理事の債務を保証するには、承認の手続きが必要です。
融資と資金調達の全体像は、融資の記事をご覧ください。
寄付で不動産をもらうとき
会員や支援者から、土地や建物の寄付を受ける場面があります。
ありがたい話ですが、受け取る前に確認すべきことがあります。
第一に、維持費です。固定資産税と管理費を負担し続けられるかを試算してください。
第二に、使い道です。活動に使わない不動産は、負債に近い存在になります。
第三に、権利関係です。抵当権が付いていないか、境界は確定しているか、共有者はいないか。
第四に、税務です。法人が財産をもらえば、原則として受贈益として認識されます。
非営利型かどうか、収益事業に属するかどうかで扱いが変わるため、事前に税理士へ相談してください。
断る勇気も必要です。
受け取ったあとで手放せずに苦しむ法人は、実際に存在します。
寄付の受け入れ方は、寄付金の記事でも整理しています。
売るとき・解散するとき
保有した不動産を売却することもできます。
重要な財産の処分にあたるため、理事会設置法人では理事会の決議が必要です。
売却益が出れば、収益事業に関連する場合など、課税関係の検討が必要になります。
より重要なのは、解散したときの残余財産です。
一般社団法人では、社員に残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは効力を有しません。
不動産を売って社員で分ける、という出口は制度上ありません。
非営利型の要件を満たしている法人では、残余財産を国や地方公共団体、公益的な法人に帰属させる定めが必要になります。
不動産を取得するときは、その出口まで見ておいてください。
残余財産の扱いは、専用の記事で解説しています。
登記の名義はどう書くか
不動産登記では、所有者として法人の名称と主たる事務所が記録されます。
「一般社団法人◯◯」という正式名称で記載され、代表者個人の名前は所有者欄には出ません。
登記を申請するときは、法人の登記事項証明書などで法人の存在と代表者を証明します。
注意したいのは、法人の登記内容が古いままだと不動産の手続きが止まることです。
役員変更登記を忘れていた、事務所移転の登記をしていない。
こうした状態だと、証明書の代表者と実際の代表者が食い違い、金融機関や登記の手続きで差し戻されます。
不動産を買うと決めたら、まず自分の法人の登記が最新かを確認してください。
登記の申請そのものは司法書士の業務ですので、具体的な手続きは司法書士にご依頼ください。
役員変更の登記については、別記事で解説しています。
事務所を「借りる」場合との比較
拠点が必要なだけなら、買わずに借りる選択もあります。
賃貸の利点は、初期費用が小さく、活動の縮小や移転にも対応しやすいことです。
購入の利点は、家賃が不要になり、資産として残ることです。
判断の目安は、活動の継続性と資金の余力です。
設立して間もない法人が、会費収入だけで数千万円の物件を買うのは現実的ではありません。
一方、10年以上活動が続き、毎月の家賃が固定費として重い法人なら、購入を検討する価値があります。
なお、自宅を主たる事務所にしている法人も多くあります。
登記上の住所と実際の活動拠点の考え方は、本店所在地の記事で整理しています。
不動産を持つかどうかは、活動の形が定まってから決めても遅くありません。
買う前のチェックリスト
最後に、購入を決める前に確認する項目をまとめます。
第一に、定款の目的の範囲内で使う物件か。活動と無関係な投資目的の取得は説明がつきません。
第二に、決議は正しく行ったか。理事会設置法人なら重要な財産の譲受けとして理事会の決議が要ります。
第三に、売主は理事や関係者ではないか。該当するなら利益相反の承認を先に取ります。
第四に、年間の固定資産税と修繕費を負担し続けられるか。
第五に、貸す予定があるか。あるなら収益事業として課税される前提で収支を組みます。
第六に、資金はどこから出すか。融資なら返済原資、寄付なら使途の制約を確認します。
第七に、出口はどうするか。解散時に社員へ分配できない財産だと理解したうえで買います。
この7点に答えられるなら、法人での不動産保有は活動の土台になります。
よくある質問
A. 買えます。一般社団法人は法人なので、法人名義で不動産を取得・登記できます。代表理事が交代しても所有者は法人のままです。理事会設置法人では重要な財産の譲受けとして理事会の決議が必要です。
A. 借りられますが、利益相反取引にあたるため、重要な事実を開示して社員総会(理事会設置法人では理事会)の承認を受け、議事録に残す必要があります。当事者の理事は決議に加われません。賃料が相場から離れていないかも確認してください。
A. 原則としてかかります。法人税法上の収益事業に不動産貸付業が含まれており、非営利型の一般社団法人でも収益事業から生じた所得は課税対象です。貸す前に税理士へご相談ください。
A. なりません。非課税の措置は法人の種類と用途で限定されており、一般社団法人が持つ不動産は原則として課税されます。個別の可否は物件所在地の市区町村と税理士に確認してください。
A. おすすめしません。同族的に支配されている一般社団法人には、理事の死亡時に法人へ相続税が課される仕組みが設けられています。節税だけを目的とした設立と財産移転は税務上のリスクが高く、法人の趣旨からも外れます。
A. 清算手続きの中で換価または引き継ぎの対象になります。社員に残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは効力を有しないため、売って社員で分けることはできません。非営利型では国や公益的な法人への帰属を定めておく必要があります。
📖 参考にした公的機関の情報


