定款のひな形に「会計監査人」という言葉が出てきた。
登記の相談で「会計監査人設置一般社団法人ですか」と聞かれた。
そこで初めて、会計監査人という機関を意識したという方は多いはずです。
監事とは何が違うのか、うちの法人にも必要なのか、置くとしたら誰に頼むのか。
この記事では、一般社団法人の会計監査人について、設置義務の条件から選任・任期・報酬・登記まで、条文に沿って整理します。
会計監査人とは|計算書類を監査する法律上の機関
会計監査人は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律が定める機関のひとつです。
社員総会・理事・理事会・監事と並ぶ、法律上の正式な機関にあたります。
その仕事は、法人の計算書類と附属明細書を監査し、会計監査報告を作成することです。
根拠は同法107条1項で、監査の結果を報告書という形でまとめるところまでが職務とされています。
会計帳簿の閲覧や謄写、理事や職員に対する会計に関する報告の請求も認められています。
必要があれば子法人に報告を求め、その業務や財産の状況を調べることもできます。
つまり、法人の内部から見るのではなく、外部の会計の専門家として数字の正しさを確かめる立場です。
任意に頼む税務顧問とは、法律上の位置づけがまったく違います。
置く義務があるのは「大規模一般社団法人」だけ
会計監査人の設置義務を定めているのは、法62条です。
条文は「大規模一般社団法人は、会計監査人を置かなければならない」と、ひと言だけ書いています。
では大規模一般社団法人とは何かというと、法2条2号に定義があります。
最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計が200億円以上の法人のことです。
収入や資産の額ではなく、負債の合計額が基準になっている点に注意してください。
200億円という水準は、地域の協会や職能団体、趣味の団体ではまず届きません。
実務で該当するのは、大規模な共済事業や金融的な事業を営むごく一部の法人に限られます。
設立したばかりの一般社団法人が、この義務にあたることはまずありません。
ほとんどの一般社団法人に設置義務はない
ここは誤解が生まれやすいところなので、はっきり書きます。
通常の規模の一般社団法人に、会計監査人を置く義務はありません。
売上が数千万円あっても、職員を何人か雇っていても、負債200億円という基準には届かないからです。
「法人なのだから会計士の監査が要るのでは」と心配する必要はありません。
定款のひな形に会計監査人の条項が入っているのは、置くこともできるという選択肢を示しているだけです。
実際、多くの一般社団法人は、社員総会と理事だけ、あるいはそこに監事を加えた機関設計で運営しています。
自分の法人がどの型なのかは、機関設計の記事で確認してください。
義務がないのに置くと、費用と手間だけが増えることになります。
任意で置くこともできる|定款の定めが必要
義務がない法人でも、会計監査人を置くことはできます。
法60条2項が、定款の定めによって理事会・監事・会計監査人を置くことができると定めているからです。
逆にいえば、定款に根拠がなければ置けません。
すでに運営している法人が新たに置く場合は、定款変更の手続きが先に必要になります。
定款変更は社員総会の特別決議によります。
任意で置く動機として多いのは、外部からの信用づけです。
行政からの受託事業や大口の寄付を受ける場面で、会計の適正さを対外的に示したいという理由があります。
ただし、監査には相応の報酬がかかるため、目的と費用が見合うかを先に検討してください。
会計監査人を置くなら監事も必ず必要
見落とされやすい連動ルールがあります。
法61条は、理事会設置一般社団法人と会計監査人設置一般社団法人は、監事を置かなければならないと定めています。
つまり、会計監査人だけを置いて監事を置かない、という機関設計は認められません。
会計監査人を入れると、監事の設置も自動的についてくると考えてください。
これは、会計監査人の選任や解任、報酬の決定に監事が関与する仕組みになっているためでもあります。
監事がいなければ、その仕組みが働きません。
任意で会計監査人を置くと決めたなら、監事の候補者もあわせて考える必要があります。
結果として、機関の数も運営の手間も増えることになります。
なれるのは公認会計士か監査法人だけ
会計監査人の資格は、法68条1項が限定しています。
公認会計士(外国公認会計士を含む)または監査法人でなければなりません。
税理士は、税務の専門家ではありますが、会計監査人にはなれません。
経理に詳しい社員や、簿記の資格を持つ理事も同様です。
監査法人が選任された場合は、その社員の中から実際に職務を行う者を選び、法人に通知することになっています。
顧問税理士に決算を見てもらうことと、会計監査人を置くことは、法律上まったく別の話です。
「うちは税理士に見てもらっているから会計監査人がいる」という理解は誤りです。
肩書きの似た役割が並ぶ分野なので、ここは正確に区別してください。
会計監査人になれない人|欠格事由
資格を満たしていても、なれない場合があります。
法68条3項が三つの類型を挙げています。
一つ目は、公認会計士法の規定により、その法人の計算書類について監査ができない者です。
二つ目は、その法人の子法人、あるいはその理事や監事から、公認会計士や監査法人の業務以外の業務で継続的に報酬を受けている者と、その配偶者です。
三つ目は、監査法人であって、その社員の半数以上が二つ目にあたる者であるものです。
要するに、監査される側と経済的につながっている人を排除する趣旨です。
監査の独立性を守るための仕組みだと理解しておけば足ります。
候補者を探すときは、他の契約関係がないかを先に確認してください。
選任の手続き|議案の内容は監事が決める
会計監査人を選ぶのは社員総会の決議です。
ただし、議案の中身を誰が決めるかに特別なルールがあります。
法73条1項は、監事設置一般社団法人においては、会計監査人の選任・解任・再任しないことに関する議案の内容は監事が決定すると定めています。
理事が勝手に候補者を決めて総会に出すことはできません。
監事が二人以上いる場合は、その過半数で決めます。
これも、監査する側が監査される側に選ばれてしまう構図を避けるための規定です。
実務では、監事が候補となる会計士や監査法人と面談し、条件を確認したうえで議案を固めます。
そのうえで社員総会に諮り、決議を経て就任という流れになります。
任期は1年|何もしなければ自動で再任
会計監査人の任期は、法69条1項が定めています。
選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までです。
理事の2年、監事の4年と比べると、かなり短い設定です。
ただし、毎年選び直す手間がかかるわけではありません。
法69条2項が、その定時社員総会で別段の決議がされなかったときは、再任されたものとみなすと定めているからです。
つまり、何も決議しなければ自動的に続きます。
変えたいときだけ、総会で別の決議をすればよいという設計です。
なお、会計監査人を置く旨の定款の定めを廃止したときは、その効力が生じた時に任期が満了します。
解任|社員総会と、監事による解任の二本立て
解任の方法は二つあります。
一つ目は、法70条1項による社員総会の決議です。
役員および会計監査人は、いつでも社員総会の決議で解任できます。
ただし、正当な理由がない解任だった場合、解任された側は損害の賠償を請求できます。
二つ目は、法71条による監事による解任です。
職務上の義務に違反したとき、職務を怠ったとき、ふさわしくない非行があったとき、心身の故障で職務に堪えないときに限られます。
監事が二人以上いる場合は、全員の同意が必要です。
この方法で解任したときは、解任後最初に招集される社員総会に、その旨と理由を報告しなければなりません。
報酬の決め方|監事の同意が要る
会計監査人の報酬は、理事が定めます。
ただし、法110条により、監事(監事が二人以上あるときはその過半数)の同意を得なければなりません。
報酬を握られると監査が甘くなる、という懸念に対応した規定です。
一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬についても、同じ扱いになります。
金額そのものに法律の基準はなく、法人の規模や取引の複雑さによって変わります。
監査の範囲や実施時期とあわせて、契約前に見積もりを取って比較してください。
報酬を決めた経緯は、理事会議事録や監事の同意書に残しておきます。
後から手続きの正しさを問われたときに、記録がないと説明できません。
会計監査人を置くと決算の手続きが変わる
会計監査人を置くと、決算の進み方にも影響があります。
通常、計算書類は定時社員総会の承認を受ける必要があります。
ところが法127条は、会計監査人設置一般社団法人について特則を置いています。
承認を受けた計算書類が、法令および定款に従い財産と損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令の要件にあたる場合、社員総会の承認は不要になるという扱いです。
この場合、理事は計算書類の内容を定時社員総会に報告すれば足ります。
承認から報告へ、総会での位置づけが変わるわけです。
決算公告や貸借対照表の公告の考え方は別の記事にまとめています。
会計監査人を入れるときは、この手続きの変化も含めて設計してください。
会計監査人は登記事項|置いたら登記が必要
会計監査人を置いた事実は、登記簿に載ります。
法301条2項9号が、会計監査人設置一般社団法人であるときはその旨および会計監査人の氏名または名称を登記事項として挙げているからです。
同項10号では、一時会計監査人の職務を行うべき者を置いたときも、その氏名または名称を登記するとされています。
つまり、定款を変えて会計監査人を置くと決めたら、登記の変更まで必要になります。
登記を怠ると、過料の対象になり得ます。
なお、登記申請の代理を業として行えるのは司法書士と弁護士です。
自分で申請することもできますが、書類の不備で補正になる例は少なくありません。
会計監査人の設置は、定款変更・選任・登記の三つがそろって完了すると考えてください。
監事・会計監査人・顧問税理士の違い
似た役割が並ぶので、三つの立場を並べて整理します。
監事は、理事の職務の執行を監査する法律上の機関です。
業務監査と会計監査の両方を行い、社員総会で選ばれ、登記もされます。
会計監査人は、計算書類の監査に特化した法律上の機関です。
公認会計士か監査法人に限られ、こちらも登記されます。
顧問税理士は、法律上の機関ではありません。
税務申告や記帳の相談を受ける契約上の相手方で、登記もされず、法律上の監査権限もありません。
監事と会計監査人は機関、顧問税理士は契約という線引きを覚えておくと混乱しません。
置くべきか迷ったときの判断のしかた
最後に、実務的な判断の順序をまとめます。
第一に、負債の合計が200億円以上かを確認してください。
該当するなら、選択の余地なく設置義務があります。
第二に、該当しないなら、置く目的をはっきりさせてください。
対外的な信用づけなのか、内部統制を強めたいのか、目的が曖昧なまま置くとコストだけが残ります。
第三に、費用の見積もりを取り、監事の設置と定款変更、登記の手間まで含めて比べてください。
第四に、目的が「会計をきちんとしたい」であれば、会計監査人ではなく、監事の実効性を高める、あるいは記帳の体制を整えるほうが費用対効果は高いことが多いです。
義務がない以上、置かないという判断も正しい選択です。
よくある質問
A. 必要ありません。設置義務があるのは、貸借対照表の負債の部に計上した額の合計が200億円以上の大規模一般社団法人だけです(法2条2号・62条)。通常の規模の一般社団法人には義務がなく、定款で定めれば任意に置けます。
A. できません。法68条1項により、会計監査人になれるのは公認会計士(外国公認会計士を含む)または監査法人に限られます。顧問税理士に決算を見てもらうことと、会計監査人を置くことは法律上まったく別の話です。
A. 必要になります。法61条により、理事会設置一般社団法人と会計監査人設置一般社団法人は監事を置かなければなりません。会計監査人だけを置いて監事を置かない機関設計は認められません。
A. 選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までです(法69条1項)。ただし、その総会で別段の決議がされなければ再任されたものとみなされるため、毎年選び直す手続きは不要です。
A. 決められません。法110条により、理事が会計監査人の報酬等を定めるには、監事(監事が二人以上あるときはその過半数)の同意を得る必要があります。決めた経緯は議事録や同意書に残してください。
A. 必要です。法301条2項9号により、会計監査人設置一般社団法人である旨と会計監査人の氏名または名称が登記事項とされています。定款変更・選任・登記の三つがそろって設置が完了します。
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