NPO法人では、法律上理事の全員が法人を代表するのが原則です。
実務では、定款で代表権を制限し、理事長だけが代表する形にします。
この代表権の設計を誤ると、登記や契約で問題が起きます。
この記事では、代表者の決め方と役割を解説します。
理事は全員が代表するのが原則
特定非営利活動促進法では、理事はすべて法人を代表するとされています。
つまり、何も定めなければ理事3人全員に代表権があります。
3人がそれぞれ独立して契約を結べる状態です。
これは、実務上かなり不便であり、危険でもあります。
誰が何を契約したのか、把握しきれなくなるためです。
そこで法律は、定款で代表権を制限できるとしています。
理事長のみが法人を代表する、と定めるのが一般的です。
この定めを置くことで、対外的な窓口が1つに定まります。
設立の段階で、必ず定款に入れておきましょう。
理事長という呼び方
理事長という呼び名は、法律に定められたものではありません。
定款で自由に決められる役職名です。
会長、代表理事、代表者と名乗る団体もあります。
どの呼び方でも、代表権があれば法律上の扱いは同じです。
重要なのは、名前ではなく代表権の有無です。
定款には、理事のうち1人を理事長とする旨を書きます。
そのうえで、理事長が法人を代表すると定めます。
副理事長や常務理事を置く場合も、定款に定めます。
これらの役職に代表権を与えるかどうかも、明記しておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律上の原則 | 理事は全員が法人を代表する |
| 定款による制限 | 理事長のみを代表とすることができる |
| 役職名 | 定款で自由に定める(理事長・会長など) |
| 登記 | 代表権を持つ理事の氏名と住所を登記 |
| 変更の期限 | 変更から2週間以内に登記 |
| 選定の方法 | 定款の定めによる(理事会または総会) |
代表権と登記の関係
代表権を持つ理事は、登記事項になります。
氏名と住所が登記され、誰でも登記事項証明書で確認できます。
代表権を制限していない場合は、理事全員が登記されます。
理事が交代するたびに、全員分の登記が必要になるということです。
理事長のみを代表とする定めがあれば、登記は1人分で済みます。
事務の負担が、大きく変わります。
代表権を持つ理事が変わったら、2週間以内に登記します。
任期満了で同じ人が再任された場合も、重任の登記が必要です。
この登記を怠ると、過料の対象になることがあります。
理事長の選び方
理事長をどう選ぶかは、定款で定めます。
理事の互選によるという定めが、最も一般的です。
理事会で選定する形にしている団体もあります。
総会で直接選任する定め方もあります。
どの方法でも構いませんが、定款と実際の運用をそろえてください。
定款に理事の互選と書いてあるのに、総会で選んでいると不整合になります。
選定したことは、議事録に残します。
登記の添付書類として使うことがあるためです。
就任承諾書も、あわせて用意しておきましょう。
理事長の役割
理事長は、法人を代表して対外的な行為を行います。
契約書への署名や、公的な申請の名義人になります。
所轄庁への届出や、登記の申請も理事長の名で行います。
内部では、業務執行の中心を担います。
理事会や総会の議長を務めることも多くあります。
定款で、理事長が議長になると定めている団体が一般的です。
事務局を統括する立場になることもあります。
ただし、一人で抱え込む形になりやすい点には注意が必要です。
権限と負担を、他の理事と分け合う設計にしておきましょう。
理事長に集中させない工夫
小さな団体では、理事長がすべてを担ってしまいがちです。
代表者が動けなくなると、法人が止まってしまいます。
第一に、副理事長を置いて職務を代行できるようにします。
定款に、理事長に事故があるときは副理事長が職務を代行する旨を定めます。
第二に、業務ごとに担当理事を決めます。
広報、会計、事業運営などで分担すると負担が散ります。
第三に、決裁の基準を規程で定めます。
一定額以下は事務局で判断できるようにすれば、理事長の作業が減ります。
第四に、銀行口座の管理者と会計担当を分けます。
この分離は、内部の牽制という意味でも重要です。
理事長が交代するとき
理事長が交代するときは、手続きが複数発生します。
まず、定款の定めに従って新しい理事長を選定します。
議事録を作成し、就任承諾書をもらいます。
次に、法務局で代表者の変更登記をします。
期限は、変更から2週間以内です。
所轄庁へは、役員変更届出書を提出します。
銀行口座の代表者変更も必要になります。
法人の実印を引き継ぐか、新しく作るかも決めます。
契約書や各種登録の名義変更も、順次進めます。
交代が決まったら、チェックリストを作って漏れを防ぎましょう。
- 定款の定めに従って新理事長を選定(議事録を作成)
- 就任承諾書をもらう
- 法務局で代表者の変更登記(2週間以内)
- 所轄庁へ役員変更届出書を提出
- 登記事項証明書を取得
- 銀行口座の代表者変更
- 法人の実印と印鑑カードの引き継ぎ
- 契約書・各種登録の名義変更
- 会員や取引先への周知
代表者の住所が公開されること
代表権を持つ理事は、氏名と住所が登記されます。
登記事項証明書は、手数料を払えば誰でも取得できます。
つまり、代表者の住所は公開情報になるということです。
所轄庁へ提出する役員名簿にも記載され、閲覧の対象になります。
この点は、就任を依頼するときに必ず説明しましょう。
知らずに就任し、後から気づいてトラブルになる例があります。
事務所を自宅にしている場合は、二重に公開されることになります。
抵抗がある場合は、事務所を別に構えるという選択もあります。
公開を前提に、引き受けてくれる人を探すことが大切です。
代表権のない理事の位置づけ
定款で代表権を制限すると、他の理事は代表権を持たなくなります。
ただし、業務を執行する権限がなくなるわけではありません。
理事会の構成員として、意思決定に加わります。
担当する業務について、実務を進めることもできます。
違うのは、法人を代表して契約を結べるかどうかです。
対外的な契約は、理事長の名で行うことになります。
担当理事が交渉を進め、最後の署名は理事長が行う形が一般的です。
この役割分担を、理事全員が理解しておく必要があります。
知らずに担当理事が契約書に署名すると、効力が問題になります。
副理事長を置く意味
副理事長は、法律上の役職ではありません。
定款で自由に置くことができます。
最大の意味は、理事長に事故があったときの代行です。
定款に、理事長に事故があるときは副理事長が職務を代行する旨を定めます。
この定めがないと、理事長が動けなくなったとき法人が止まります。
入院や長期の不在は、いつ起きるか分かりません。
副理事長に代表権を与えるかどうかも、定款で決められます。
代表権を与えると登記の対象になり、事務は増えます。
職務代行だけを定めて、代表権は理事長のみとする形が一般的です。
団体の規模と実態に合わせて選んでください。
契約書に書く名義
契約書の当事者欄には、法人名と代表者名を書きます。
特定非営利活動法人○○、理事長△△という形です。
個人名だけで契約すると、法人の契約になりません。
任意団体のころの習慣で、代表者個人名で結んでしまう例があります。
法人化したら、必ず法人名義に切り替えましょう。
既存の契約も、法人へ引き継ぐ手続きが必要です。
事務所の賃貸借、リース、保険、通信の契約などが対象です。
押印は、法人の実印か、契約用の角印を使います。
どちらを使うかは、規程で決めておくと運用が安定します。
代表者印の管理
法人の実印は、代表者の権限そのものを表します。
保管する場所と、使える人を明確にしておきましょう。
事務局の金庫に保管し、使用のたびに記録を残す形が安全です。
押印簿を作り、日付、書類名、押印した人を記録します。
誰でも自由に押せる状態は、事故のもとになります。
銀行印は、実印と分けて管理します。
会計担当と代表者で、別々に保管する形が望ましいでしょう。
印鑑カードも、実印とは別の場所に置きます。
理事長が交代したら、引き継ぎの記録も残してください。
代表権の設計でよくある失敗
第一に、定款に代表権の制限を書いていないケースです。
理事全員が登記の対象になり、交代のたびに手続きが増えます。
第二に、定款の定めと実際の選び方が違うケースです。
理事の互選と書いてあるのに、総会で選んでいる例が見られます。
第三に、代表者の変更登記を忘れるケースです。
2週間の期限を過ぎると、過料の対象になることがあります。
第四に、任期満了後の重任登記を見落とすケースです。
同じ人が続けるので、変更がないと思い込んでしまいます。
第五に、契約を代表者個人の名義で結んでしまうケースです。
いずれも、設立時の設計と年間の予定表で防げます。
代表者が高齢になったとき
設立から年月が経つと、代表者の世代交代が課題になります。
代表者が高齢になってから慌てると、選択肢が狭まります。
早い段階で、次の担い手を育てておきましょう。
副理事長や担当理事に、少しずつ役割を移していく方法があります。
対外的な場に、次の候補を一緒に連れて行くのも有効です。
関係先に顔を知ってもらうことが、引き継ぎを楽にします。
事務の手順や、契約の内容も文書にしておきます。
頭のなかにしかない情報は、引き継げません。
代表者が急に動けなくなる事態も、想定しておくべきです。
職務代行の定めと、実印の保管場所の共有は最低限の備えになります。
代表理事のまとめ
NPO法人では、法律上は理事全員が代表権を持ちます。
定款で制限し、理事長のみを代表とするのが実務の標準です。
理事長という呼び名は法律上のものではなく、定款で決めます。
代表権を持つ理事は登記され、変更から2週間以内の登記が必要です。
選定の方法は定款で定め、実際の運用とそろえてください。
権限が集中しすぎないよう、副理事長や担当理事で分担しましょう。
代表者の住所が公開されることは、就任前に必ず説明します。
よくある質問
A. 法律上の義務ではありませんが、置かないと理事全員が代表権を持つことになります。実務上不便なため、定款で理事長を定め代表権を制限するのが一般的です。
A. 自由です。会長、代表理事など定款で決めた名称を使えます。重要なのは名称ではなく、代表権があるかどうかです。
A. 代表権を制限していなければ、理事全員が登記されます。理事長のみを代表とする定めがあれば、登記は1人分で済み事務の負担が軽くなります。
A. 定款で定めます。理事の互選とする例が最も一般的です。定款の定めと実際の運用がずれていると不整合になるため、必ず確認してください。
A. 新理事長を選定して議事録を作り、2週間以内に法務局で代表者の変更登記をします。所轄庁への役員変更届出、銀行口座の変更なども必要です。
A. 代表権を持つ理事の氏名と住所は登記され、誰でも登記事項証明書で確認できます。就任を依頼するときに必ず説明しておきましょう。
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